[原子力産業新聞] 2000年12月21日 第2068号 <2面>

[回顧-2000] 足場固めた1年に

サイクル分野に進展

今世紀最後の年を迎えて、わが国は行財政、産業経済の再生にむけ、景気浮揚など、その足場固めを急いだ1年となった。

こと原子力開発にとっては、JCO 東海事業所での臨界事故を踏まえた原子力防災法の制定をはじめとして国民の信頼回復に全力を投入する一方で、最重要課題であった高レベル廃棄物処分の実施主体設立など、特に核燃料サイクル政策の分野で将来への足場を築く極めて重要な1年となった。

高レベル放射性廃棄物の処理処分については、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」案が5月31日、参院本会議で可決され、成立の運びとなったことで、長年の懸案であった高レベル廃棄物処分の枠組みが定まり、その後、処分事業の実施主体の設立など事業化への具体的な動きが加速した。10月18日までに特定 (高レベル) 放射性廃棄物最終処分の実施主体である「原子力発電環境整備機構」が正式に発足し、2030年から40年代をメドに処分事業具体化への歩みを進めることになる。11月には、核燃料サイクル開発機構が北海道の幌延町に建設を申し入れていた深地層研究所について堀北海道知事がその受入れを表明、北海道、幌延町、サイクル機構により研究協定が締結されるに至って、技術開発面からも新たな展望が拓かれることになった。

さらに、日本原燃が六ヶ所村に進めている再処理工場建設の進捗をにらみながら使用済み燃料の本格搬入の前提となる青森県など地元自治体との安全協定問題の協議が整い、11月末までに隣接自治体を含めて最終的な調印が完了。再処理事業が具体的な段階へと展開するうえで重要な進展となった。

核燃料リサイクル政策の当面の方策であるプルサーマル (プルトニウムの軽水炉での利用) については、東京電力、関西電力がそれぞれ計画を進めていたが、昨年12月の関西電力・高浜発電所向けウラン・プルトニウム混合酸化物 (MOX) 燃料を製造している英国 BNFL 社におけるデータ改ざん問題の発覚によって、品質検査を改めて実施するなどの対応から、当初計画が延期されることになった。通産省でも事実確認を進めて7月には電気事業法の一部改正を行い、品質保証面の規制強化をはかるなど対応を急いだ。

六ヶ所村での再処理事業が具体化するのに伴い、MOX 燃料の国内加工体制の整備もかねてからの課題になっていたが、電力業界は11月10日、日本国内での MOX 燃料加工の事業化を決定し、日本原燃に対して青森県・六ヶ所村への立地を前提に、MOX 燃料加工の事業主体となるよう要請、日本原燃ではこれを受けて、製造能力は最大年130トン、総工事費約1,200億円の加工工場を建設することになった。再処理工場の操業開始 (2005年7月) から3・4年後の操業開始を目指す。こうした燃料サイクル分野の著しい進展に加えて、原子力発電所新増設への取り組みも着実な成果がみられた年となった。中国電力の島根3号機増設、北海道電力の泊3号機増設にそれぞれ地元の了解が得られ、国の電源開発計画に組み入れられた。また、新設地点として上関原子力発電所建設について第一次公開ヒアリングが開催にこぎつけた。

さらに、こうした立地促進策を抜本的に強化するため、議員立法で特別措置法が成立したことも重要なトピックとなった。自民、公明、保守の与党三党が提出していた「原子力発電施設等立地地域の振興に関する特別措置法案 (特措法) 」で、原子力発電施設などの立地地域および周辺地域の産業、生活環境の整備を図ることを狙いとして、原子力発電施設などのある都道府県知事が立案した振興計画を、内閣総理大臣を議長に、財務、文部科学、厚生労働、農林水産、経済産業、国土交通、環境の各大臣を議員として新設される「原子力立地会議」の審議で決定。そのうち道路や港湾、義務教育施設といった住民生活の安全の確保に役立つものとして、緊急に整備が必要と政令が定めたものに対する経費に対する国の負担の割合を、通常よりおおむね5%を特例として増額するなどの措置が10年間の時限立法として来年4月からの施行によって実現することになった。

一方、軽水炉以降の新型炉開発に関しては、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の運転再開について、地元福井県、敦賀市に対して核燃料サイクル開発機構がナトリウム漏れ工事計画の事前了解願いを12月8日に行った。運転再開にむけ一歩踏み出した格好だ。

核融合開発は、国際熱核融合実験炉 (ITER) が工学設計終了を来年7月に控え、国内誘致問題の議論が大詰めを迎えている。誘致に伴う波及効果は単に技術面だけにとどまらないことから、国内から熱心な誘致の声が上がっている。長期的な視野にたち、技術面にとどまらぬ様々な観点からの総合的な判断が必要となっている。

こうした状況の一方で、臨界事故の教訓を踏まえた防災関連二法の制定、また国が主催する原子力防災訓練が福井県や島根県などの立地地元で開催されるなど、万一の危機管理体制の整備も急速に進んだ。

世界に目を転じると、まさに21世紀の大きな問題である地球環境問題への対応を話し合う気候変動枠組み条約第6回締約国会議 (COP6) がオランダのハーグで開催され、京都会議で採択された議定書の具体化をめぐる各国の議論が行われたが、結論に至らなかった。各国の利害を超えた新たな課題に対しては「排除の論理」でなく、原子力利用も含めたあらゆる人類の英知を結集する視点が求められているといえよう。

12月15日には旧ソ連時代に史上最悪の放射能漏れを起こしたチェルノブイリ原子力発電所が完全閉鎖された。事故後の対応はもとより、情報公開の重要性が真に認識され、東西冷戦幕引きへのプロローグともなったあの事故から14年目、今世紀の締めくくりを間近に、象徴的なトピックとなった。

最近の原油価格高騰などエネルギー情勢はめまぐるしく変化している。国内でも電力事業が自由化の流れにあり、技術の進捗なども含めて原子力利用をめぐる環境変化もめまぐるしい。

こうした中で、原子力利用長期計画が12月までに固まり、新世紀へ踏み出すためのビジョンが打ち出された。サイクル分野など整合性ある技術体系の確立をめざすうえでのファンダメンタルズ (基礎条件) は徐々に固まりつつある。半面、原子力利用の一面である潜在的なリスクと向き合い、国民への透明性をはかり、ともに歩もうとする真摯な姿勢こそ、こうした進展を確固とする最も重要なカギであることを改めて心に刻み、新世紀への扉を開かねばならない。


Copyright (C) 2000 JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM, INC. All rights Reserved.