[原子力産業新聞] 2001年1月5日 第2069号 <2面>

[展望] 新世紀の原子力、相互理解と信頼の上に

情報技術の急速な進歩に後押しされながら、我が国の長く停滞した経済にもわずかな回復の兆しが見られる中で、新世紀、2001年を迎えた。試練の時期を乗り越えつつ、我が国の原子力にも、核燃料サイクル計画を中心にかすかながら確実な光が差し込んできたようだ。

いよいよ明日6日から、再編成された中央省庁による行政がスタートする。何十年ぶりかの行政組織の大改革であり、暫くは手探りの状況が予想される。そうした中で原子力の行政機構も変わるわけだが、単に器を作りかえただけでは何にもならない。求められるものは、エネルギー大量消費国でありながらエネルギー資源に極めて乏しい我が国が、今後も不確実さを増す国内外の情勢の中で、国家的戦略の観点から準国産エネルギー源として、また総合科学技術としての原子力をいかに賢明に利用していくのか明確なビジョンを打ち出すこと。そのうえで、透明性を一層高め、合理的で信頼される行政を遂行することではなかろうか。

ところで、省庁再編に伴い内閣府に移行する原子力委員会のことが気にかかる。委員会のスタッフとなる実員の数が少ないと聞く。果たして、原子力開発を国家的な幅広い総合政策として進め関係行政機関と等距離を保ちつつ連携を確保するうえで、委員会が機能と指導性を発揮するのに十分なのだろうか。原子力委員会は昨年11月、新原子力長期計画を策定した。計画は、将来にわたる原子力平和利用の理念を明確にし着実に実施すべき政策を明記するとともに、世界で唯一ともいえる原子力長計を掲げる我が国が、国内のみならず国際社会に積極的に発信していこうとの姿勢を示したものだ。こうした明確なプログラムの具現に向け、今後の諸問題への機動的な対応が可能となるよう、委員会の支えとして十分な実務機能の確保の要は言うまでもない。

欧米に比べ10年以上遅れているとされてきた高レベル廃棄物地層処分の制度的枠組みが昨年、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」として成立し、処分事業の実施主体も発足した。「今にしてようやく」の感もあるが、むしろ「機熟し、満を持しての発足」と評価したい。法律の制定で、処分事業の道筋は整ったが、そこでどうするかである。処分事業はいわば、「人 (事業者と国民) が相互理解と信頼のうえに短期的思考の枠を超えていかに深い知恵を出し合うのか」を意味するものではないか。それとともに、今後建設される深地層研究所を中心に、確固とした相互信頼を築くのに十分な科学的知見を積み重ねることが必要なことは論を待たない。処分事業化の重要な任務を負う原子力発電環境整備機構は、今後、最終処分施設建設に向けた調査と事業を行う。当然のことながら、調査地区の選定に至る過程では常に国民の前に透明性を確保し、真摯に、事業を進めていくことこそ最終処分事業の必須条件となろう。

昨年末、高速増殖炉「もんじゅ」の漏洩対策工事計画に関して、核燃料サイクル開発機構が福井県と敦賀市に事前了解願いを申し出た。ナトリウム漏洩事故から実に5年が経過してしまったが、我が国が目指す本格的なプルトニウムの有効利用という命題の実現は、高速炉の開発なくして成り立たない。長期の空白期間は研究開発陣の技術力と志気を損ないかねない。そうした意味からも「もんじゅ」の早期運転再開が待たれるところだ。関係者が一丸となり運転再開に向けた努力を払うことは当然だが、国民に高速炉開発の意義を再確認してもらう環境作りも不可欠だ。

青森県むつ市が使用済み燃料中間貯蔵施設の立地可能性調査を電力会社に対して申し入れたことも注目すべきだ。中間貯蔵施設は資源リサイクルの観点から今後の燃料管理計画に柔軟性を与える意味で、我が国の核燃料サイクル政策にひとつの模様を織り込むこととなる。2010年までの貯蔵事業実現に向けての第一歩として意義深い。

一方、遅れを見せているプルサーマル計画の着実な実施を望みたい。海外からの MOX 燃料のデータ改ざんや、一昨年の臨界事故の発生により、関係自治体がプルサーマル実施に難色を示しているが、プルトニウム資源の将来の本格的有効利用に備えるためにも、一層の経済性向上を追求しつつ、実績を積み重ねていく必要がある。品質保証面で十二分の確認を行い、地元合意に基づいた計画の具体化を期待したい。

20世紀は「科学技術の世紀」と言われた。その科学技術中心の世紀に人類が犯した罪のひとつが地球環境の破壊と言えよう。中でも、温室効果ガスによる地球温暖化は、日常切迫した脅威として映らないだけに深刻だ。昨年11月の気候変動枠組み条約第6回締約国会議 (COP6) は、京都議定書の発効に向け実施規則の決定をめざしながらも、合意が得られず閉会した。我が国は、原子力発電が CO2 排出削減に寄与する技術であることを主張しクリーン開発メカニズムの技術として認められるよう訴えてきたが、認知されるまでには至らなかった。COP6 は5月頃再開され、各国が交渉の席につくというが、我々はこの間の時間を無駄にはできない。官民ともに原子力発電が温暖化防止に果たす役割を明確に国内外に発信する努力を一層重ねるべきだ。さらに、国内においては90年レベルの6%減という重く課せられた CO2 排出削減目標が存在する。我が国は、優れた省エネ技術を活用するとともに自然エネルギーの開発を促進してきたが、今後も増加が予想されるエネルギー消費に対し現実的に取り得る方策は、原子力発電の増設と調和させながら、こうした重要な取組みも着実に進めること以外にない。

海外に目を転じると、現在のところ原子力発電開発が目立った動きを見せているのはアジアしかない状況だが、台湾で新政権発足の結果政府が龍門発電所の建設計画中断を発表したことは大変残念に思う。我が国に続く改良型沸騰水型軽水炉 (ABWR) の建設だっただけにその思いを強くする。今後も台湾経済の継続的成長が予想されることや、代替は化石燃料火力発電だろうから、環境保全の観点からも懸念される問題だ。結果的に原子力発電が政権争いの道具に用いられたことが、何よりも残念だ。台湾当局には、再度この問題を冷静に受け止め、理性的な検討を尽くしたうえで、今後の方針が打ち出されることを切に願う。

ところで、停滞する欧米の原子力発電開発にも、わずかながら明るさが伺えることも確かだ。米国では、エネルギー省が原子力科学技術の再活性化を図っている。自由化の進んだ電力業界でも原子力発電を再評価し、経営戦略上の重要な要素として位置づけている。また、欧州連合 (EU) が、将来に向けたエネルギー保障政策の原案を採択し、「急増するエネルギー消費には原子力のオプションを維持しつつ思い切った対策を取る必要性」を示したことは注目に値する。背景には、化石燃料の輸入増加などで EU のエネルギー供給の対外依存度が50%になっている事実があるようだが、こうした危機意識こそ、エネルギーの輸入依存度が80%近い我が国に求められることではなかろうか。

原子力行政の新しい体制とともに、今後の原子力政策の指針も示された。核燃料サイクル事業計画の進展と相まって、原子力発電所の新増設や国際熱核融合実験炉 (ITER) をめぐる動きも注目される。確実に言えることは、こうした前向きな流れが再び澱んではならないということだ。

目指すべき明確な方向性を打ち出し、リーダーシップを求められる国。効率化・自由化・競争の激化といった言葉に象徴される環境の変化に対応を迫られる民間事業者。臨界事故以来、安全確保の重要性を再確認し業務に取り組んできた国や民間が、たゆみない姿勢を国民の前に示しつつ、国民とともにかつ地球規模の視点で、「環境の世紀」21世紀の経済社会の発展に原子力が果たしうる役割を具現していくことが強く求められる。


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