[原子力産業新聞] 2001年1月5日 第2069号 <4面>

[年頭所感] 科学技術庁長官 町村信孝

原子力、国民合意前提に

新春を迎え、心よりお慶びを申し上げます。

21世紀は、社会経済や科学技術が急速に発展する激動の時代になることが予想されます。

その中で我が国が目指すべき方向は、主体性を持って国際社会に貢献し、世界から尊敬される「心の豊かな美しい国家」の実現であり、「科学技術創造立国」の実現に向けた人材の養成、知的資産の創出こそが我が国の存立基盤であります。また、少子高齢化社会を迎える中で、活力ある社会、経済の持続的成長等の実現に向けて、ライフサイエンス、IT 等の科学技術は、我か国の発展の原動力であるとともに、人類の平和と繁栄に欠かせないものです。

新しい「文部科学省」においては、これまで文部省が担ってきた教育、学術、スポーツ、文化の振興と、科学技術庁が担ってきた科学技術を合わせて所管することになりますが、これらの振興を未来への先行投資として位置付け、一体的に推進していきたいと考えております。

21世紀の科学技術のあり方を指し示す新科学技術基本計画は、昨年末の科学技術会議の答申を踏まえ、閣議決定に向けて、新たに設置される総合科学技術会議において更なる検討が進められます。その主な柱は、基礎研究や国家的・社会的課題に対応した重点分野における研究開発の推進など科学技術の重点化戦略と、科学技術システムの改革であります。

新しい行政体制のもとでの実質的な初年度となるこの4月から、新科学技術基本計画に沿って全政府的な取り組みが行われるところであり、文部科学省としてもライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料の4分野に重点を置いて研究開発を推進してまいります。

さらに、環境分野では、超高速並列計算機システム「地球シミュレータ」の開発、地球深部掘削船の建造による国際海洋ドリリング計画 (IODP) の推進など、先端技術を駆使した地球環境データの収集・解析を行うことにより、地球温暖化等の地球規模の変動予測に資する地球環境総合診断プロジェクトに取り組んでまいります。

ナノテクノロジーは、情報通信、環境、ライフサイエンス、医療等に飛躍的革新をもたらすものとして国際的にも競争が激化している分野であり、総合科学技術会議における戦略を踏まえつつ、その戦略的推進に努めてまいります。

新科学技術基本計画のもう一つの柱である科学技術システムの改革については、研究者の創造性を最大限に発揮できる研究環境を具現化するためには、我が国全体の研究開発の一層の活性化に向けた不断の努力が不可欠であります。

このため、若手研究者の積極的な登用、研究支援者の確保をはじめとする科学技術系人材の育成・活用の促進などを図り、基礎研究の推進、効果的・効率的な研究の推進を支える大学等研究施設の狭隘化・老朽化対策を進めるなど研究開発基盤の整備・充実に積極的に取り組んでまいります。

また、技術革新等による国際競争力強化等のため、技術者教育・技術士等の資格付与、継続的な教育を通じた技術者の生涯にわたる一貫した整合性のある教育システムの構築に取り組むとともに、優れた研究者・技術者を育成するため、IT を活用した革新的な科学技術・理科教育の展開を進めてまいります。

さらに、経済新生のためには研究開発成果の社会還元が重要であり、産学官連携を軸として、地域の持つ科学技術に関する能力を活用・発展させる研究成果活用プラザの整備などを通じた研究成果の特許化・育成、企業化開発やベンチャー創業支援などの技術移転施策を強化してまいります。

原子力開発については、一昨年の東海村における JCO 臨界事故を教訓に、安全確保対策の徹底と防災対策の強化を進めておりますが、先般、21世紀の原子力の全体像と長期展望を示す新たな「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」が原子力委員会において策定されたところであり、国民・社会、国際社会との関係をこれまで以上に重視しながら、安全確保と防災、国民の信頼、立地地域との共生、平和利用の堅持、国際的理解を大前提として原子力政策を進めてまいります。

以上の科学技術関係を中心とした施策の他にも重要な課題が山積しており、文部科学省の行政に対する国民の大きな期待を真摯に受け止め、全力で取り組んでまいる所存ですので、関係各位の御理解、御協力をお願い申し上げます。


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