[原子力産業新聞] 2001年2月22日 第2076号 <5面>

[原研] シングルイオンヒットに成功

TIARA 使い世界初

日本原子力研究所はこのほど、高崎研究所のイオン照射研究施設 (TIARA) において、1個1個の高エネルギーイオンで大気中に置いたミクロの標的を連続して自動的に狙い撃つことができる自動シングルイオンヒット技術を開発した。こうした技術開発の成功は世界初。

原研高崎研究所の放射線高度利用センターでは、TIARA のサイクロトロン加速器に設置されているイオンマイクロビーム装置で、数百メガ電子ボルト以上のエネルギー (光の10分の1程度の速度) の重イオンを用いていくつかの技術開発を進めてきた。

それらは、(1) 10μm (1ミリメートルの100分の1) 以下のサイズにビームを形成する技術 (マイクロビーム) (2) ミクロな標的を正確に狙う技術 (ビーム照準) (3) 試料にイオンを1個ずつ確実に照射する技術 (シングルイオンヒット)、の3つの先端ビーム技術、並びに (4) 細胞の形状と位置を自動的に認識・標的化する (細胞自動標的化) 技術 --- の4つの技術だ。今回、これらの技術をシステム化して、自動シングルイオンヒット技術として完成させた。

これにより、制御計算機と連動した顕微鏡および試料ステージを用いて、個々の生きている生物細胞の特定な部位に、10μm以内の精度で、大気中に取り出した高エネルギーの炭素、ネオン、アルゴンなどの重イオンを1個1個次々と自動的に打ち込むことが可能となった。

生物細胞など微細構造の試料では、イオンが照射される位置により照射効果が異なることが明らかになっていて、細胞加工を行うためには、1個のイオンを正確に細胞に照射することが必要とされている。

高崎研究所では今後、この技術を用いて、細胞の特定部位に1個の高エネルギーイオンを照射し遺伝情報の一部だけを不活性化させる細胞加工を行い、有用植物品種の創出や生物の発生・分化過程の解析など、先端バイオ技術の研究を行う計画だ。


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