[原子力産業新聞] 2001年3月15日 第2079号 <4面>

[原安協] 低線量健康影響疫学調査でシンポ

多面的な要素考慮を

原子力安全研究協会は12日、第12回原安協シンポジウム「低線量健康影響について−疫学のアプローチ−」を開催した。このシンポジウムは、低線量健康影響問題について、放射線作業従事者のガン死亡と放射線量とに関する影響結果が報告されるなど低線量健康影響問題について貴重なデータが提供されている現在、放射線作業従事者のデータについてその内容を確認し、疫学について正しい理解を促進するとともに、低線量健康影響に関する今後の課題について検討することがねらい。会場には多くの参加者がつめかけ、同問題に対する関心の高さを示していた。

その中で、講演「世界の原子力関連産業従事者の放射線影響に関する疫学論文を要覧して−がんと放射線−」を行った、放射線影響協会の細田裕研究参与は、2000年に刊行された、原子力関連産業従事者の健康状況を疫学的に調査した論文49編を紹介した「世界の原子力関連産業従事者の放射線影響に関する疫学論文要覧」について、放射線疫学論文は (1) 一般国民と従事者とを比較して、ガン死亡率の有意の増加があるか (2) 被曝線量の増加が、ガン死亡率の有意な上昇傾向に結びつくか (3) Sv など単位あたりのガン死亡率の過剰は有意か (4) 放射線以外の発がん物質の影響および、統計的偶然はないか (5) 放射線とガンとの因果関係はあるか−などが主な視点であるが、特に放射線とガンとの因果関係について論じた報告が少ないことから、2001年度から原安協委員会が、全論文についての検討を開始したことを紹介。

また講演「国内外の放射線作業従事者の疫学調査−疫学調査の意味とその問題点−」を行った秋葉澄伯鹿児島大学医学部教授は、疫学調査は主として暴露因子の調査、健康影響の調査、暴露因子と健康影響の関連の評価からなるが、露暴因子や健康影響の調査では正しく集団を設定して正確なデータを収集することが最大の課題だとした。疫学研究、特に観察的疫学研究で得られる証拠は基本的に「状況証拠」とみなされるべきもので、単独では因果関係の証明の決め手とは成り得ないことに注意を要するとするとともに、リスク評価に当たっては、潜伏期、多重比較、統計学的検出力なども考慮する必要があると述べた。


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