[原子力産業新聞] 2001年3月22日 第2080号 <2面>

[核不拡散政策研究会] 平和利用と核不拡散でシンポジウム

アジアの視点でシンポ

第2回国際シンポジウム「原子力平和利用と核不拡散との調和をどう図るか−アジアから原子力開発の将来を考える」が原子力平和利用・核不拡散政策研究会 (座長・黒澤満大阪大学教授) の主催で、今月7、8日の2日間、東京都内で開催された。同研究会のメンバーおよび国外参加者を含めて活発な議論が行われた。ここでは、その概要を紹介する。

開会セッションでは、主催者、文部科学省の挨拶の後、下山俊次日本原子力発電最高顧問が長期策定会議第6分科会での議論について、核不拡散に重点をおいて講演した。続いて、IAEA 理事会フランス代表 (原子力供給グループ議長) のティボー氏が特別講演の中で、原子力平和利用の促進に関わる核不拡散の重要性を強調。今後10年の挑戦的課題とし、輸出管理の手直しと拡大、追加議定書の批准の拡大と影響、次世代原子炉の開発、NPT 体制外の国の問題を挙げた。

第1パネル「核不拡散レジームと今後の展開」

ゴットメラー米国カーネギー財団上級研究員がブッシュ政権での核不拡散政策の方向性を説明し、特に包括的核実験禁止条約 (CTBT) 批准の見通しについては、1年以内ということはないが、全米ミサイル防衛の進展や外交の駆け引きの中で展開する可能性があるとの見方を示した。インドのチダンバラン前原子力委員長は、同国の原子力発電の重要性を強調。「インドは古典的な核不拡散主義者といわれるくらい機微な機器を輸出した例はなく、核物資防護も厳密に実施している」と述べ、真の核拡散の危険を防ぐべきで、現在の体制は輸出管理を含め原子力の平和利用を妨げていると訴えた。

第2パネル「保障措置の将来展望−現状の解析と今後の方向」

NPT 加盟国の中での核拡散の脅威に対しては追加議定書が最も良い対策であるが、現在批准国は8か国に過ぎない。これをいかに増やすかやその方策について議論があった。1993年に IAEA が93+2計画を提案したときの2つの要件のうち、保障措置の強化は追加議定書で手当てができたが、効率化・効果向上は置き去りになっていて、従来の定量的な検認の手法を定性的な手法に換えるべきとの議論がある。これに対し IAEA のデクラーク渉外政策調整室長は定量的な手法と定性的な手法の最適な組み合わせを狙うという。しかし IAEA の保障措置費用を将来とも増加させないことで各国は合意している。日本では保障措置に費用がかかることへの理解が低く、IAEA への予算増加に対する同情はないとの意見に対して、デクラーク室長は、費用負担は日本の利益のためと白けた発言をしたが、これも現実であろう。

第3パネル「核物質の盗難、密輸の防止策をどのように確立するか」

核物質防護の問題は、現在ではテログループ、国際的犯罪組織、少数民族の分離活動などに焦点が移っている。最大の問題であるロシアの核施設での核物資の不正取引については、米国は MCP&A 計画として今まで、1億7,000万ドルと多額の費用をかけた。このためもありロシアでの不正取引は90年代半ばのピークから今では急激に減っているが、今後もロシア独自の努力だけでは不十分で米国の援助 (今後10年で30億ドル)、欧州、日本の協力を期待したいとの意見があった。また、IAEA の核物質防護に関する体制は貧弱で、強化が必要との議論がある一方、核物質防護条約の強化は、国の主権の議論が避けられず進展が見られていない。

第4パネル「輸出規制と原子力平和利用の推進・技術移転と国際規制のあり方を考える」

米国務省のストラトフォード原子力局長は、ロシアがインドのタラプール炉へ燃料供給するとの決定は、原子力供給グループ体制ひいては NPT 体制の崩壊につながると大いに問題視し、この3国からのパネリストを巻き込んだ議論を呼んだ。同氏は、NSG の一員としてロシアは原子力施設すべてについてフルスコープ保障措置を受け入れていない国に原子力品目を輸出しないと約束していることに明らかに違反していると主張。ロシアからの参加者はロシアは輸出管理を広い視野で捕らえており、この問題は小さいという。ロシア国内では原子力大臣が輸出を希望しても、国家安全保障局が安全保障上厳しい輸出管理システムが必要との立場から同意しないこともあることが紹介された。

インドのチダンバラン氏は原子力供給グループ (NSG) のガイドラインは行き過ぎで、NSG は真の核拡散の危険を防止すべきとの意見。「核拡散の危険があり輸出規制の適用が必要な国は世界に少ししか存在しない」との立場だ。米国は、輸出規制が紳士協定で抜け穴が多くあり、不公平感をなくし透明性を高めるには協定に格上げすべきとしたが、現実には各国の利害がぶつかり難しい。核不拡散レジームをパッチワークで直していくより、本当に何が真の核拡散かを考えて新しく立て直すべき時期に来ているとも言えよう。

第5パネル「アジアの原子力平和利用の推進と国際協力−核不拡散の制約との調和」

電力中央研究所の鈴木達治郎氏から「アジア核不拡散研究センター構想」の提案があった。核不拡散センターの提案は昨年この研究会が提言したもので、鈴木私案はこのセンターをアジアにおける核不拡散に関する民間の独立した政策研究機関として位置付け、具体的な提案を示した。パネリストからは大いに賛成とのコメントが聞かれた。「民間の機関であれば台湾、北朝鮮などを含めるなど、政府の研究所では難しいことが可能になる」「欧州での成功例のように、地域的な民間の仕組みで情報と教育に重点を置くべき」との意見であった。欧州と違い、アジアでは各国がそれぞれ文化、経済、生い立ちに多様性・独自性を持っていて、EURATOM のような保障措置システム構築は難しいであろう。アジアに存在していない民間のセンターの設立は歓迎したいが、初めから完璧なものを狙わないほうがよい−などのコメントもあった。


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