[原子力産業新聞] 2001年4月26日 第2085号 <6面>

[原子力委員会] クロスオーバー研究、着実に進展

放射線損傷、DNA修復で成果

原子力委員会はこのほど第3期目を迎えたクロスオーバー研究の進捗状況について報告を受けた。クロスオーバー研究は1989年度からスタートした研究プロジェクトで、日本原子力研究所や核燃料サイクル開発機構、理化学研究所、放射線医学総合研究所など関連研究機関、特殊法人が相互に連携して原子力材料やロボット、放射線などの基盤的な研究テーマに取り組んでいる。現在第3期 (1999年度から2003年度) として、8つの研究テーマについてのプロジェクトが進められている。今回、2000年度の状況が報告された。

そのなかで、放射線障害の修復メカニズムや回復のしくみを探る研究では、放射線で損傷した部位をナノレベルで検出し、一連のメカニズムを解明する研究が行われておりシミュレーションを使った放射線の生体高分子に対する影響の基礎的な過程の理論づけや、DNA とその修復に関与する因子の相互作用を確認する可視画像システムの開発を進めている。前年度には、修復の促進や変異の抑制にかかわる因子の検討を行い、DNA 二本鎖切断端の再結合反応を促進する方法を見出したり、DNA の損傷部位と突然変異誘発部位を原子間顕微鏡で可視化するなどの成果を得た。

また土壌生態圏が放射性核種や重金属で汚染された場合の環境修復をはかる研究では、その前提になる核種等の挙動を明らかにするなどの研究を進め、前年度には土壌や農作物系に対する放射性核種の動的解析モデルを開発するなどの成果がみられているという。

また第3期から研究として、一度に複数の元素の動きを調べるため2種類以上の放射性同位元素を含むトレーサー (マルチトレーサー法) を利用する研究では、前年度にマルチトレーサーの供給法を開発、新規のマルチトレーサ生成量に関する基礎データを蓄積するなど革新的なトレーサー技術の基礎研究が進められている。また原子や分子の極めて短時間 (10のマイナス12乗=フェムト秒〜10のマイナス15乗=アト秒) の現象を、パルスレーザーを使ってとらえ計測して、材料開発などに役立てようという研究では、前年度に高調波発生用のレーザー発信光源を開発してパルス幅計測を行う検討などを進めているという。

このほか、計算科学技術研究の分野では、高経年化への対応を視野に並列計算機を使った大規模数値シミュレーションなどの手法を開発する取組みを進めており、ミクロからマクロまでの領域を連続的にシミュレーションする技術などを開発している。前年度には、PWR 蒸気発生器の振動発生メカニズムをモデル化して熱流体コードを開発するといった成果を得ている。


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