[原子力産業新聞] 2001年5月10日 第2086号 <2面>

[原産年次大会] 海外参加者特別講演から

既報のとおり、4月24日から27日まで第34回原産年次大会が青森県で開催された。その中から開会セッションで行われた特別講演3編の概要を紹介する。


M.エルバラダイ国際原子力機関 (IAEA) 事務局長は「原子力発電−展開するシナリオ」と題して講演した。同氏はその中でまず、現在世界の電力量のうち原子力が16%を占めていることに触れ、「世界のより多くの人々が原子力発電の恩恵を受けられるようにすべきである」と強調した。欧州連合のデパラシオ副委員長や米国のチェイニー副大統領の最近の発言に言及し、欧米での議論の中に原子力の役割をあらためて真剣に考えるような動きが見られるとしたうえで、原子力発電の将来は、(1) 世界的な廃棄物処分の明確な戦略 (2) 国際的な安全の枠組み (3) 社会への広報活動 (4) 革新型炉と燃料サイクル技術−の4つの課題に明確なシナリオを設定し、課題の解決をはかることが可能かどうかに左右されるとの見解を示した。

このうち、高レベル廃棄物の地層処分については「数か国で研究開発の進展が見られ、IAEA はこうした研究分野での国際協力を進める役割を有している」と述べるとともに、原子力安全に関連して、IAEA が打ち出した原子力発電所の安全性を定量化する指標の策定をめぐって今年9月に議論を進めたいとの意向を示した。

さらに、米国での第四世代炉開発のほか、革新型炉や燃料サイクル技術に関する INPRO プロジェクトなどの進展を望ましいと評価したほか、途上国での原子力のニーズにどう答えれらるか、IAEA が基盤整備に努めていくことが重要だとした。

続いて、フランス核燃料公社のA.ローベルジョン会長はフランスの原子力開発と国際戦略について講演した。

同氏は、2050年までに世界のエネルギー需要が倍増する見通しの中で、化石燃料価格が不安定であることや目標を定めた施策なしには温暖化を防げないことなどを指摘し、こうした問題解決に原子力は大きな役割を果たし得る点を強調した。そのうえで、あらゆるエネルギー源には長所と短所、環境への影響があるとして、各エネルギー源を「資源、環境、経済、健康への影響を基準として比較したデータベースを作成するべきだ」と主張した。

また、使用済み燃料の再処理については、高い透明性をもって説明することでその意義を国民に理解してもらう努力が不可欠だとした。これに関連し、ローベルジョン氏は透明性の一層の向上を果たすためにも COGEMA を取り巻く産業構造の改革を実践することにしたと紹介。「エネルギー・電力分野では吸収合併・施設の合理化など、国際的に新しい流れが生じている」ことを踏まえ、COGEMA、CEA インダストリ、フラマトムの株主が持ち株会社の TOPCO を形成、グループとして統合するとしたうえで、「多くの産業施設の持ち合わせは、より柔軟な効果的な生産やコストの管理を可能とする」点を強調した。

TOPCO は今年11月から事業を開始。従業員数は約4万人。売上高は100億ユーロでそのうち原子力事業は65%に相当するという。

さらに、「将来 TOPCO においても日仏両国の相互利益につながる協力を追求していきたい」と語り、六ヶ所再処理工場の成功は両国にとってチャレンジであるとして相互利益のために経験を共有したいとの期待感を表した。

特別講演の最後に、米国人作家のR.ローズ氏が文明とエネルギー・原子力開発の意義をめぐって講演した。

ローズ氏は、技術が発展する中で人間の寿命の伸びと生活水準も向上したことに触れ、1人当たりの GNP の伸びと平均寿命の伸びには直接的な相関関係があるように、『人間開発指数』と電気の使用量にも直接的な相関関係が成り立つことが明らかになった」と示唆。世界が将来、対立を避けて物質的・経済的平和の方向に進むためには、環境汚染のないエネルギー開発が不可欠だとして、原子力発電はその重要な選択肢だと強調した。

一方、石炭火力発電は原子力発電に比べ圧倒的に環境にとって負担をかけていると指摘。石炭燃焼により環境中に有毒な化学物質や放射性物質が放出される点を挙げ、1,000メガワット級発電所が環境に出す放射能は原子力発電の約100倍にものぼることを例示した。今後天然ガスは主たるエネルギー源になることが期待されるとする一方、世界で不均一に分布していて価格も低くないことやガスパイプラインの爆発のリスクも定量化できない外的要因である点を述べた。そのうえで、「原子力には優位性がある。高レベル廃棄物にしても厳しく管理されていて、環境に晒されない。少量の高放射能廃棄物と膨大な拡散された化石燃料からの廃棄物とが公衆衛生にとってどちらが望ましいかは明らかだ」との見解を示した。

また核不拡散について、「核燃料のリサイクルと管理の国際的システムがあれば隠れた核拡散を阻止できる」と主張。回収可能量の監視や解体核からの分離プルトニウムをすべて MOX 燃料に加工すること、新型炉の利用などといった国際的な使用済み燃料リサイクルシステムの努力が核軍縮への道のりを容易にする可能性があると訴えた。


Copyright (C) 2001 JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM, INC. All rights Reserved.