[原子力産業新聞] 2001年5月17日 第2087号 <2面>

[電中研] 圧力容器照射脆化に新たな知見

銅原子の挙動に注目

電力中央研究所では、原子力発電所の長期安全運転の保証の一助とするために、「鋼材に中性子が当たることにより、その鋼材がもろくなる (脆化) 現象」の高精度予測式確立を目指し、そのメカニズムの解明を進めている。

現在わが国で使われている中性子照射による脆化の予測式は、機械的な試験結果に合う式を探し出し、それに十分な余裕を見込んだものとなっている。しかしながら、中性子照射による脆化のメカニズムにはまだ未解明な部分があることから、軽水炉の長期的な使用のためには、その未解明部分を明らかにすることが重要な課題とされている。

軽水炉圧力容器の経年変化の理由のひとつに数えられている脆化は、中性子が鋼材中の鉄原子に衝突した際に生じる結晶の乱れ (格子欠陥) の働きにより、鋼材中に僅かに不純物として含まれている銅が塊を形成したり、「マトリックス損傷」と呼ばれるものが形成されたり、リンが粒界に多く集まることが要因と考えられているが、銅の塊がいかにして形成されるのかや、マトリックス損傷とは実際にどのようなものかといったことが現時点では分かっておらず、これらを知ることが、脆化メカニズム解明の研究課題とされている。

電中研では、脆化の一因と考えられる鋼材中にある銅の塊の特徴を調べる実験を、米国の電力研究所 (EPRI) と共同で実施。結果、銅の塊は複数の元素からなっていることや、銅が中心に集まり、その周りにニッケルやマンガンといった元素が集まっていること、形状が偏平で複雑な形をしていることなどが判明したという。加えて銅・ニッケル・マンガンの隙間を埋めるように鉄原子が多く存在しており、これら原子間結合はあまり密でないため、「銅濃縮クラスター」と呼ぶのが適切な形態をしていることも明らかになった。これらのような形態は、熱処理では形成されないため、電中研では中性子照射による格子欠陥やその集合体が、銅の塊の形成に何らかの役割を果たしていると考えられるとしている。

さらに電中研では、鋼の塊の形成と中性子の照射による格子欠陥や、その集合体が果たす役割を調べるために、中性子照射下での鉄-銅合金中の銅原子の、原子レベルでの挙動について計算機シミュレーションを実施。銅原子が原子空孔に運ばれながら鋼材中を拡散する際に、大きな格子欠陥の集合体があると、原子空孔がそれに吸収されて銅原子がその周りに取り残される形で集積する可能性のあることを明らかにした。このことは従来では考えられなかったメカニズムであることから、電中研ではこのメカニズムが銅の塊の形成に寄与しているのではないかとしている。


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