[原子力産業新聞] 2001年5月17日 第2087号 <3面>

[食品照射] 米国、給食用牛ひき肉を放射線照射へ

政権交代で政策変更

安全保障は何も国家やエネルギーに限ったことではない。最近は「食の安全保障」が大きくクローズアップされてきた。

狂牛病パニックがヨーロッパ大陸に広がるのを待つかのように、今度は家畜伝染病の口蹄疫 (こうていえき) が発生した。20年ぶりに英国で確認されたのを皮切りに欧州大陸へと飛び火した。

大西洋を隔てた米国でも時ならぬ牛肉論争が起きている。ブッシュ政権が発足し、前政権とは違った独自の政策を次々と打ち出している。地球温暖化防止京都議定書からの離脱は国際的な関心を呼んだが、それ以上にホットなのが学校給食用の牛の挽き肉をめぐる政策の変更だ。食と健康に係わる身近な問題だけに人々の関心は高く、ワシントン・ポスト紙やニューヨーク・タイムズ紙も大きく取り上げている。

米国では、食品のサルモネラ汚染によって毎年140万人が病気になっており、このうちの600人が死亡していると言われている。こうしたことからクリントン政権では、サルモネラ菌で汚染されていないことを確かめるための検査がすべての給食用牛肉に義務づけられた。ブッシュ政権はこれを撤回し、屠殺 (とさつ) や処理が終わった後で検査するのではなく、そうした工程であらゆる種類の汚染を取り除いてしまうやり方に変更することを提案した。

その有力な方法として考えられているのが放射線の照射だ。病原菌の殺菌や保存期間の延長などを目的として、多数の食品に放射線照射が許可、実用化されていることもあり、極めて現実的な方法だ。なお、病原性大腸菌 O-157 による食中毒の発生を受け、ファーストフード向けの牛肉についてはすでに放射線照射が大規模に行われて実績をあげていることも今回の提案につながったとみられている。

しかし、消費者団体や一部の議員は、うまくいっている今のやり方をなぜ変えるのかと批判している。学校給食の規模は2600万人を超えており、農務省による牛肉の買いつけは厳しい検査基準が導入された昨年7月以降で1億ポンドに達している。このうち検査に合格せず廃棄された牛肉は全体の5%に相当する500万ポンドに及んだ。

政策の変更に異議を唱えている人達は、汚染牛肉がそんなにもあるという点に注目しているわけだが、コストもかからず食品の安全性が確保できる方法があるのだから、それを有効に利用した方が良いというのが農務省の言い分だ。
(窪田秀雄)


訂正:(6月21日号掲載)

「米国の学校給食用牛ひき肉の滅菌処理で放射線照射が採用される方向へ」との見出しをつけましたが、この提案は政府の正式決定ではなく、その後農務省により撤回されており、これまで通りのサルモネラ菌検査が続行されることが判明しています。


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