[原子力産業新聞] 2001年5月17日 第2087号 <4面>

[原産年次大会] セッション6 高レベル廃棄物処分へのステップとその推進方策

セッション6では、(財) 地球環境戦略研究機関の森嶌昭夫理事長を議長にパネル討論が行われた。日本では昨年処分の実施主体が発足したばかりということで、まず先行するフランスの現状について仏原子力庁 (CEA) のP.ベルナール原子力開発局原子力技術開発本部長が基調講演したのに続き、スイス放射性廃棄物管理共同組合 (NAGRA) のH.イスラー理事長がスイスにおける進行状況を説明。その後、D.ホートン米国エネルギー省 (DOE) ユッカマウンテンサイト調査プロジェクト次長、経済産業省資源エネルギー庁電力・ガス事業部の安井正也放射性廃棄物対策室長、原子力発電環境整備機構の外門一直理事長、富士常葉大学の徳山明学長、弁護士の石橋忠雄氏がそれぞれの立場から見解を明らかにした。


ベルナール氏 フランスは91年の放射性廃棄物法に基づいて高レベル廃棄物の処分対策に取り組んでいる。現在、(1) 群分離・核種変換による毒性と容積の低減 (2) コンディショニング後に長期間の閉じ込め貯蔵 (3) 深地層処分−について研究が進められており、2006年に議会で各処分方法の研究結果を審査して最善の方策を決定することになっている。(3) については昨年8月に ANDRA が粘土質のブーレで地下500mの位置に研究所を建設するための掘削を開始しており、今年初頭には40mまで掘り進んだ。地質や地震に関するデータを得るために3Dシステムを活用中。昨年はまた、花崗岩質の地層でも2番目の地下研究所を建設する可能性について検討を始めており、2005年には政府に結果を報告できるよう作業を進めている。

イスラー氏 スイスでは使用済み燃料の地層処分は、後世の世代にも方針を変えるチャンスを残すため地中の廃棄物を管理できる形で処分し、回収の可能性も残すという新たな概念について今年の議会で議論する計画だ。粘土層の地下600mでの処分が検討されているが、容易に監視・回収が可能になるよう、廃棄物の5%は別個に処理する方向。立地に関する決定は住民の受入れと地質学的な要求項目とのバランスを取りながら、サイト認可や一般認可、建設認可、操業認可の各段階ごとに連邦政府、州政府の承認を得る形で進めていく。

ホートン氏 ネバダ州ユッカマウンテンで進めている高レベル廃棄物処分場計画については、99年8月から DOE が一般の人々への情報提供および意見収集のために環境影響声明書 (EIS) の案文を公開。これは昨年2月末をもって終了したが、期間中には公聴会も開催され、延べ700人以上の人々が参加した。、最終版の EIS はユッカマウンテンをサイトとして勧告する根拠を示す内容になるが、うまくゆけば近々 DOE 長官の勧告レポートが完成。その後、年内にも大統領への勧告、議会への勧告というステップを踏んで建設認可の申請に至る予定だ。

安井氏 日本では平成32年までに再処理後のガラス固化体で約4万本を深地層に最終処分する必要があり、約3兆円の経費がかかると見積もっている。原子力委員会は平成6年に、高レベル廃棄物は30〜50年の冷却貯蔵後、深地膚処分とする基本方針を決定しており、その後の関連懇談会や部会で地元との共生のあり方や時間的枠組み、資金などについても検討。昨年6月には特定放射性廃棄物処分法を定めるに至り、処分実施主体として原子力発電環境整備機構の設立や資金管理を専門に行う法人の指定が決まっている。また、原子炉設置者には処分費用を拠出するために原子力発電1キロワット時あたり約20銭の納付を義務付ける計画だ。

外門氏 高レベル処分の今後の日程としては平成20年代前半に精密調査地区の選定を終えるとともに、30年代後半に処分施設建設サイトを決定、平成40年代後半には最終処分を開始することになっている。サイトの確保に関連して、精密調査に先立つ概要調査地区の選定段階から国民各層の理解が必要だと考えており、既存情報の収集・整理、火山や断層の位置および地質環境などのデータ分類のほか、事業に関する広報活動にも力を入れている。また、当機構は最終処分事業が核燃料サイクルの輪の要になること、原子力発電を支えるアンカーとして国民からの信頼を得ることにすべてがかかっているとの認識のもとに、情報公開などを通じて活動の透明性を図っていきたい。

徳山氏 高レベル廃棄物地層処分の概念では10万年という長期間にわたって安全な場所の確保が必要。核燃料サイクル機構では昨年、原子力委・専門部会の指示に従って、日本に十分安定な地質環境が存在すること、地層処分を行うだけの安全技術を有していること、安全性評価のシステムを検討すること−などの項目を含めた報告書を作成。第二次の報告書を今年11月までに提出することになっている。地震は活断層の上で起こると考えられているが、地層処分は地下数百mの岩盤内で実施するため、地表に原子力発電所を建てるよりは立地条件はゆるいと考えている。火山も数百万年程の間に非常に限られた範囲に分布しているほか中心の移動もよく分かっているので、少なくとも10万年程度であれば活断層と同様、これを避けることはたやすいとの認識だ。

石橋氏 披露された諸外国の進め方と比較して日本の廃棄物処分計画はまだまだ立ち遅れている。原子力委・懇談会や専門部会によって、サイト選定プロセスに新たな法的枠組みができたというが、実際にはこれまでの電源立地の方法と同様、地元の県、市町村レベルでヒアリングが行われているだけだ。これまでは地元住民の説得にサイト選定のポイントがあったが、今後は諸外国のように研究開発の成果に市民というものをどう位置づけていくかが最大のテーマになってくる。私は、処分予定地は内閣または総理大臣が決定し、国会がこれを承認することを基本方針とし、法律で制度化すべきだと考えているほか、この決定に対する地元自治体や住民の異議申立権を認め、これを国会が先程の承認手続きの中で審議判断すべきだという認識だ。長計その他ですべての事業者達が段階ごとに情報を公開するよううたわれているが実情は必ずしもそうではない。政府や事業主にはこれまでとはまったく別のアプローチで取り組んでいってほしい。


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