[原子力産業新聞] 2001年5月24日 第2088号 <3面>

[米国] 原子力推進に政策転換へ

エネ危機背景に出力増強等で発電量拡大

米国のG.ブッシュ大統領は17日、原子力を米国の今後のエネルギー・政策における主要な要素と位置づける新しい国家エネルギー政策を確認した。既存原子炉の出力増強や認可更新の促進により原子力発電量を増大させる、新型原子炉の認可にあたっては安全性や環境保護を優先する、廃棄物の地層処分のために最善の科学技術を活用する、などを柱に原子力の利用拡大を提言しており、74年以降、新規原子炉の発注が皆無になるなど停滞していた米国の原子力開発利用は20年以上を経てようやく復活の足掛かりを得た。


この政策は、D.チェイニー副大統領をリーダーにC.パウエル国務長官、エネルギー省 (DOE) のS.エイブラハム長官など政府の主要閣僚7名を含む「国家エネルギー政策開発 (NEPD) グループ」が作成したもので、ブッシュ大統領は遊説先のミネソタ州セントポールでこれを正式に公表した。この中に盛り込まれた勧告事項はすべて、関連法規に基づいて実行に移されるほか、新たな立法を必要とする項目については必要な諸手続きが取られることになる。また、諸外国が係わる勧告に関しては適切な外交協議を実施するなど国際慣行にのっとって実施されるとしている。

同グループはまず、概観の中で2001年の70年代の石油危機以来、米国は最も深刻なエネルギー不足に直面していると指摘。カリフォルニアでの停電はその端的な例であり、エネルギーの需要と供給のバランスがくずれたまま進んで行けば、米国経済のみならず米国民の生活水準、国家安全保障にまで影響が及びかねないと警告している。こうした背景の中で米国が取り組む問題は、これまで以上に賢い方法でエネルギーを利用していくとともにエネルギー・インフラを改修・拡大することであり、環境保全を図りつつエネルギー供給を増強することだと同グループは強調。今後20年間だけでも、石油の消費量は33%増えると見積もられているほか、天然ガスの消費量は50%以上の増加、電力の需要も45%上昇すると指摘している。今後20年間の電力供給では新たに1,300から1,900の発電所が必要で、これらの多くが天然ガス火力になるとの予想を紹介した。

しかし、米国では既に電力需要の20%を原子力発電所が賄っているという事実があり、同グループとしては発電コストが安く温室効果ガスを出さないこの発電技術が将来の多様化させた電源によるエネルギー供給拡大で大きな役割を果たすとの考えを提示。国家エネルギー政策の基本原則として、(1) 過去の数年間がもたらしたエネルギー危機を完全に過去のものにできるような長期的かつ包括的な戦略であること (2) エネルギー供給の拡大には環境に優しいクリーンで先進的な技術を推進 (3) エネルギー、環境および経済政策の十分な統合によって米国民の生活水準向上を追求すること−などを念頭に審議したことを伝えている。

こうした背景から同グループは、大統領に対して原子力を国家エネルギー政策における主要な要素として規模の拡大を支援していくべきだと勧告するとともに、具体的に次のような項目を列記した。すなわち、(1) 新型炉の認可申請を評価・処理する準備にあたっては安全性と環境保護を優先するよう米国原子力規制委員会 (NRC) に促す (2) 既存原子炉の安全な出力増強によって米国の原子力発電規模を拡大するために電力会社の活動を支援するよう NRC に促す (3) 安全基準に達している既存原子炉の認可更新を NRC に促す (4) 大気汚染の改善に関する原子力の潜在能力を評価するよう DOE 長官および環境保護庁長官に指示する (5) 潜在的な発電量拡大に際し、原子力の安全性強化のために必要な資源を増強する (6) 放射性廃棄物の深地層処分には最高の科学技術を活用する (7) 廃炉基金の譲渡に際して課税が免除されるような立法措置を支援する (8) プライス・アンダーソン法を延長する立法措置を支援する。

同グループはまた、米国は先進的な原子燃料サイクルと次世代技術の開発という意味で燃料処理方法の研究開発政策を見直すとともに、現在の再処理方法よりもクリーンで効率的かつ廃棄物が少なく、核不拡散性の高い技術を模索すべきだと勧告している。

これらを打ち出すに至った原子力を取り巻く状況については同グループは次のように説明した。すなわち、80年代に米国の原子力開発が停滞した理由として、79年の TMI 事故を契機とする規制変更が原子炉運開までのコストをかさませたことが挙げられる。また、安全性への懸念から反対運動が激化し、73年を最後に新規の発注もなくなっていた。しかしそれ以降、原子力発電所の稼働実績は年々改善されていき、発電コストも低下。90年代にはいくつかの原子炉が閉鎖したにも拘わらず発電量は増加するという状況にある。

専門家の見積もりによれば、既存原子炉からの発電量は稼働率を92%まで改善すれば潜在的に2,000MW 拡大できるほか、新技術の採用によって出力を増強すれば約1万2,000MW の発電量拡大が可能。また、既存原子炉からの発電量を増やすもう一つの方法としては認可の更新があり、現在、多くの原子力発電会社が20年の運転認可延長を検討していることから、同グループとしては、国内の90%の原子炉で認可が延長されるかもしれないとの認識を示している。

さらに、ここ数年間の傾向では、電力会社が他の原子力発電会社から原子炉を購入する動きが活発化し、原子力発電会社同士で合併・吸収するなど産業界の統合が進んでいる。一方、NRC は3つの新しい原子炉設計を標準型原子力設計として認証するとともに、議会も新規原子力発電所の認可手続きを簡素化する法律を92年に制定した。開発中の新型炉設計では安全性の飛躍的な向上が見込まれており、特にペブルベッド型モジュール式ガス炉 (PBMR) などに産業界の期待が高まっていると同グループは分析している。放射性廃棄物の安全な処分に関しては、連邦政府の対策が遅れており、DOE の使用済み燃料受入れスケジュールは当初計画から10年以上遅れている点を指摘。しかし、ネバダ州ユッカマウンテンでの特性調査は一定の進捗を見せており、今後、ブッシュ政権として同地を処分場サイトとして決定するかどうか調査を続けていくとしている。


Copyright (C) 2001 JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM, INC. All rights Reserved.