[原子力産業新聞] 2001年8月2日 第2098号 <4面>

[原産] 危機管理ワークショップが初会合

「安全学の構築にむけて」

日本原子力産業会議は7月24日、今年度新たに設けた「危機管理ワークショップ」(コーディネーター・久米均中央大学理工学部教授) の第1回定例会合を開き、活動をスタートさせた。

この日の会合では、久米コーディネーターが「安全学の構築に向けて」と題して講演した。

久米氏はその中で、各分野が関連しあった巨大システムとしての原子力産業が発展するためには全ての部門がうまく機能しなければならないとした上で、システムは最も弱いところから破綻するためこうした箇所の品質管理を強固にして、産業全体の底上げを行わなければならないと指摘。原子力関係企業の安全相互レビュー制度が誕生したことは歓迎すべきことで、こうしたレビューに対して社内の状況を積極的にオープンにする組織ほど進歩が早いとの考えを強調した。

久米氏はまた、部品などの部外調達にあたって購入者側の関与のあり方を取り上げ、購入者側が製造者側の現場で工程が守られ品質が維持されているかをチェックする監査機能が重要だと述べ、「我が国の企業は一般的に部外調達に関する限り品質管理がへた」だとの問題点を挙げた。その上で、ISO 9000 は、基本的には製造者よりも購入者のための制度であり、我が国でも購入者側でこうした第三者の審査登録制度をより積極的に活用することが望まれると語った。

一方、作業現場の統率の問題について「現場が強いことによい点もあるが、作業が現場まかせになり、経営の管理不在が問題となる」として、現場の裁量が大きくなりすぎるとその場の都合にあわせて恣意的に作業が行われることにつながる点を指摘。通常の工程でなく間欠的に行われる生産の時、現場での品質管理が問題になるとした上で、企業の管理体系の中で、最も弱い部分で事故が起こっていることに警鐘を鳴らした。

加えて、現場技術者の倫理に触れ、倫理に反した行動を報告しようとしても、組織への背信を避けたいという日本的価値観が働くが、組織の利益より社会の安全を優先するという考え方が確立されていれば、最近見られた原子力の事故は発生しなかったのではないかとの考えを示した。

同ワークショップは今年度内に7〜8回程度の定例研究会を開催。研究テーマとして、(1) ソフト型の安全確保 (安全学の構築と体系化、安全教育、リスクコミュニケーション、事故・失敗情報の知識化、標準化など) (2) モラルハザードや組織的要因 (安全の価値観、産業・組織心理学、安全文化、安全基準、認定・認証制度、内部通報制度など) (3) 防災、社会との接点 (法令・規制、緊急時対策、情報公開、防災教育・訓練、自治体と事業者の連携など) -- などを取り上げ、事例の分析や問題点の摘出をとおして、各参加者の業務での改善につなげていく。


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