[原子力産業新聞] 2001年8月23日 第2100号 <3面>

[英国] エネ政策見直しで報告書

原子力オプション維持を勧告

英国の通商産業省 (DTI) は2日、新規の原子力発電所を国内で建設する可能性に関連して、「新たな技術が開発され、原子炉寿命の延長や高い稼働率の維持などが達成されればキロワット時あたり2.5ペンス以下で発電することができる」とする報告書を明らかにした。

T.ブレア首相が6月25日にエネルギー政策の大がかりな再検討を開始したことを受け、DTI の報告書はこの作業を実際に担当する内閣府・実績技術革新局 (PIU) に広範囲な背景情報や予備分析結果を提供するのが目的。エネルギー政策を取り巻く課題に関する議論の活性化に主眼を置いて DTI の認識を代弁したもので、政府の政策変更を誘導する意図は全くないと強調している。

原子力については「新規建設に不安はあるものの、CO2 を出さないエネルギー源としての潜在的な可能性は無視すべきでない」との見解を示した内容になった。新規設備の経済性に関する項目では95年に試算された現行の新規発電容量の推定コストに言及しており、複合サイクル・ガスタービンで2〜2.5ペンス/kW 時、石炭火力で2.5〜3.6ペンス/kW 時なのに対し、原子力はキロワット時当たり3.7〜4.5ペンス/kW 時となり既存の技術では競争力が低いことを認めている。しかし、過去12か月の間にブリティッシュ・エナジー (BE) 社と英原子燃料会社 (BNFL) の両社が、「シリーズ化した建設、公定歩合の引き下げ、60年まで運転寿命を延長、90%の高稼働率などの条件が満たされれば技術開発によってキロワット時当たり2.5ペンス以下で発電できる」との試算結果に確信を深めている点に DTI は注目。この見積もりは楽観的との批判を浴びたものの、フィンランドが新規原子炉の建設を申請した背景には、このような数値に沿った試算が基礎になっていると DTI は強調している。また、新たな設計技術の展望として、BNFL のウエスチングハウスが経済性向上のため小型炉である AP600 を AP1000 に拡大開発したり、BNFL 自身は南ア電力公社 (ESKOM) の主導で進められている PBMR 計画に参加している事実を紹介した。

原子炉寿命の延長による利点に関しては、同報告書は BNFL が今年始めに発表した、大多数のマグノックス炉を2010年までに閉鎖していく計画を伝える一方、BE 社が所有する AGR と PWR については、技術的な問題による影響は少ないと言明。特に PWR は、米国で軽水炉の運転認可を40年から60年に更新する動きが出ている点からも見込みは十分との見方を示しており、このような経験は BE 社の PWR を2035年、あるいは2050年まで運転した場合を想定するのに合理的な例になるとの認識を表明している。

新規設備建設の見込みに影響を与えると思われる既存の枠組みについては、同報告書は電力市場の状況や保健安全管理局 (HSE) による許認可システムの説明に続いて気候変動メカニズムにおける原子力の役割を指摘。産業界としては「CO2 を出さないという特長が認識されれば、気候変動税の免除、排出権取り引き事業への盛り込みなどを通じて原子力の出力増強や容量の拡大に影響していく」と考えていることを明らかにした。産業界の認識はそのほか、 (1) 原子力無くして英国の京都議定書の目標値達成は難しい (2) 非 CO2 電源としての現在および将来にわたる原子力の貢献は、再生可能エネルギーや化石燃料部門の排出削減などと同等に認識されるべき (3) ほかの電源と異なり、原子力関係のコストには廃止措置準備金の積立など環境面のコストも含められているにもかかわらず利点の方は認められていない。炭素税に化石燃料の環境コストを含めれば原子力と同じレベルの扱いになる--など。また、産業界が見積もった新規設備の発電コストを使うと、2050年に向けてガス火力のコストが2.9ペンス/kW 時になっていくのに対し、9000トンの CO2 を節約する130万kW 級の典型的な原子力発電所は CO2 1トンあたりのコスト26〜103ポンドを節約することになる。これらのことから報告書は、コスト計算の正確さが証明され、CO2 排出抑制が合理的に進めば、新規設備の経済性にも見込みがでてくると言明している。


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