[原子力産業新聞] 2001年8月23日 第2100号 <4面>

[シリーズ] 今、ウクライナでは (1)

フリーコンサルタント 松木良夫

ウクライナは今月24日で、旧ソ連からの独立後満10周年を迎える。社会主義体制の崩壊から民主主義・市場経済へと移行する過程で近隣諸国と同様、様々な面で国民社会に変質が生じ問題が顕在化してきている。そうした現状について、原子力やエネルギーを取り巻く環境、科学技術、社会生活を交えて、首都キエフにコンサルタントとして滞在している元 IAEA 原子力安全局勤務の松木良夫氏にシリーズで伝えてもらう。

電力業界の近代化急務

少し前の話だが昨年の11月末、ウクライナで2日間にわたり400町村に影響の出る大規模な停電が起きた。送電線へ氷が着いて、その重みで線が切れたことが原因になっているが、送電系統の老朽化を示すよい例とされている。

ウクライナの電力供給は5400万kW が火力と水力発電によって、また1300万kW が原子力発電によって賄われているが、火力発電所についてはその95%が老朽施設で、電力業界全体の再編と近代化が必要な状況にある。例えばウクライナの交流周波数は49.34ヘルツで公称の50ヘルツを下回る。公称出力合計だけを見ると電力需要を十分満たしているように見えるが、実際には以上のような設備の老朽化の他に、60%の燃料を輸入に頼るウクライナの資金難、燃料調達難から設備の稼働率が落ち、既に産業界はその影響を受けていると言われる。

1995年12月にG7諸国、EU、及びウクライナ政府の間でとりかわされたチェルノブイリ原子力発電所の閉鎖に関する覚書では、同発電所を2000年までに閉鎖するというウクライナ政府決定を支持する包括的なプログラムの実施に関する協力方針が示され、その中の電気事業のリストラに関する事項では、4300万ドルの補助金がウクライナに提供されることになっている。エネルギーの効率化と省エネルギーを促進する狙いで電力市場の形成をうながすためというものだが、今後もウクライナ国内・外からの電力事業に関する投資が続けられない限り、その実現は遠い先のことのように思える。キエフの市内でも、日中時々テレビの放送中に電波が止まったり、また地下鉄に通じる地下道の照明が消えたりする。こうしたことは市民生活では、もうごく一般化してしまっていることなのかも知れないが、心配な面もいくつかあげられる。例えばキエフ市の中央小児病院では手術室の停電時の非常用電源は確保出来ていないのだそうだ。

ソ連時代のインフラストラクチャーがそのまま使えるウクライナは、新興国としてはあるいは幸運だと言えるかも知れない。しかし、それらが老朽化している点で、西欧側で進められているような省エネ、効率化などを含めた電気事業のリストラを実現するまでには、まだ多くの時間と努力が必要なようだ。

新興産業で進む市場化

キエフ市から少し外れた村では、いまだに電話のない家庭が多くある。理由はソ連時代に順番が来なかったからだ。独立国になった現在では今度は経済的な理由から、もっと電話の敷設が難しくなったとも聞く。最近は電話局と契約しなくてもすむプリペイド・カード方式の携帯電話が流行で、キエフ市内では携帯電話の代理店が、雨後の竹の子のように、あちこちに開店している。だが、携帯電話機は一般人の給与の数倍の値段で、まだ高嶺の花である。それでも需要が伸びているのは、ウクライナにもオリガーキ (一部の利益を独占する新興財閥) と呼ばれる新しい社会階層が形成されつつあり、それらの人々を中心に、消費活動が活発化していることを反映したもののようである。あるいは、それだけ電話が欲しかったことの表れなのかも知れない。なお、数社ある携帯電話のネットワーク会社の間では競争原理が働き、価格の低下とサービスの向上が起こりつつある。電気事業などと比較して、このように今までインフラストラクチャーの無かった分野では市場が活発化し、新しいサービスの考え方が発達しやすい状況にある。

(次号に続く)

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