[原子力産業新聞] 2001年8月30日 第2101号 <4面>

[シリーズ] 今、ウクライナでは (2)

8月24日にウクライナはソ連から独立後10周年を迎え、首都キエフではロシア、ポーランド大統領等の国賓が臨席し、軍事パレードや民族舞踊などに彩られた記念式典が催されたほか、国内各所で記念行事が行われた。

独立後、軍事パレードはこれまでにも行われているが、今回はウクライナ史上最大規模で、ウクライナ製新型T-84型戦車10台を始め、ミサイル、ヘリコプター、ジェット機等が延々と紹介され、航空、宇宙、兵器、コンピュータ等の先端技術産業を持つウクライナの面目を示した。

米国から寄贈されたジープ部隊や、旧ユーゴスラビア・コソボ内戦仲介の際に米軍の兵員輸送に協力した飛行機が紹介された。これらは最近のウクライナ軍の NATO 軍との合同活動や、ロシアとのロケット共同開発協定の締結、世界第5位とも言われる兵器の輸出などと並び、現在のウクライナの軍事力を背景とした、ロシアと欧米との距離のバランスを保とうとする外交政策の一端を示している。

主賓達のお立ち台が設置された独立記念広場を見下ろす高台にあるホテル・モスクワは、記念式典に先立ち、政府の命令でホテル・ウクライナと名前を変えさせられた。「独立広場にホテル・モスクワでは困る」ということだろうか。ウクライナはロシアとポーランドに、それぞれ300年間続いたロシアとの従属関係からの自由を保つ努力を続けて来たウクライナも、ロシアからの絶え間無いボディ・ブローが効き、最近疲れが見えるという見方がある。現実に、4月に経済改革派だったユシチェンコ首相が議会で罷免され、5月にはロシアから駐ウクライナ大使として大物のチェルノムィルディン元首相が着任しており、さもありなんという感じだ。

ロシアを中心とする旧ソ連とヨーロッパの関係を考える際、ウクライナを取り巻くエネルギー問題は重要と思われる。ウクライナ領土には石炭とウランが産出するが、天然ガスと石油はなく、現在60%の燃料を輸入に頼っている (天然ガスをロシアとトルクメニスタン、石油をロシア、そして石炭をロシアからの輸入と国内炭に依存。原子燃料も、その製造はロシア)。

一方、ロシアにとっては、ポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニアに国境を接するウクライナは、近い将来のロシア電力のヨーロッパへの販売を考える場合の送電路にあるという点で、押さえておきたい重要な地域にある。現にウクライナには、仮にロシアからの電力をヨーロッパに送電することを考えた場合にも耐えうる超高圧送電ルートがあると聞く。また、すでにウクライナとロシアとの間には電力グリッド接続に関する合意がなされ、実際にこの夏から接続が始まっているとも言われている。

ウクライナとロシアは、ベラルーシと共に、旧ソ連邦の中核国としての歴史を背景に、エネルギー供給の依存、ロシアのヨーロッパからの重要な収入源と成り得る電力輸出 (推定)、ロシア海軍の重要な補給基地としてのウクライナ南部黒海沿岸クリミア半島、その他多くの商工業関係を通じ、今後も強く結びついていくことは必然的だ。

一方、このような状況でも、今までのウクライナの独立路線が修正されたり、ロシアとの連邦制度が復活するようなことはないとも言われている。ウクライナには何十もの小さい政党があり、しかもそれらは特殊なオリガーキ (一部の利益を独占する新興財閥) が構成しているというのが政治の実態で、評判では、クチマ大統領は混乱を極力避け、急進的な改革を望まず、地方の意向とオリガーキとの関係も重視する現実主義者と言われている。そのため、ロシアとの関係強化の一方、経済政策、欧州との関係作りに関する基本方針は変わらず、また税制改革も依然熱心に進められている。

松木良夫 (フリーコンサルタント・元 IAEA 原子力安全局職員)
(9月13日号に続く)


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