[原子力産業新聞] 2001年10月18日 第2108号 <2面>

[原子力安全委員会] 福岡市で第4回地方安全委員会

「失敗に学ぶ」テーマに意見交換

「原子力は絶対に安全とは言えない。謙虚に安全対策を続け、事故や故障が起こった際にはハード面だけでなく、ソフト面をも視野に入れて、その教訓を対策に反映していきたい。そうした取り組みが、国民の皆さんの信頼や安心につながればと思う」−。

「失敗に学ぶ」をテーマにした原子力安全委員会の地方委員会が13日、福岡市の「エルガーラ」で開かれ、安全委の松浦祥次郎委員長はこう述べた。会合では原子力施設でこれまで起きた事故や故障といった失敗事例を、さまざまな角度から分析。その反省を踏まえた対策がどのようにとられてきたかが紹介された。また工学院大の畑村洋太郎教授は、「失敗が起きたプロセスを立体的にとらえ、そこから得られた知識をデータベースとして活用していくことで次の失敗を未然に防ぐことができる」と指摘した。会場からは事故にあった被ばく者のケアや情報開示についての質問が出た。終了後の記者会見で松浦委員長は、テロ対策について「最高レベルでの対応がなされており、万一、原子力災害が起きた時でも、これまでの防災対策で対応できる」と述べた。

地方委員会は、原子力安全委員会が地域の人々との意見交換を目的に開いているもの。今回の開催は茨城県東海村、横浜市、札幌市に続く4回目の開催で、約170人の一般市民が参加。5人の安全委員のうち4人が出席した。

会合ではまず、「失敗学のすすめ」の著者である畑村洋太郎・工学院大教授が、さまざまな失敗にひそむ共通の要因や対応策について講演。失敗は2種類あるとしたうえで、「許される失敗は、成長するために必要なもの。許されない失敗は、1つの失敗が起こった時にそれを教訓としていかさず、同じことを繰り返すもの」だと指摘した。

その例として同氏は、津波にあった三陸地方で「この場所より下に、家を建てるな」と書かれた石碑があるにもかかわらず、その下に民家があることを紹介した。

また「しっかりしろと注意しても、人間は不注意になるもの。それでは問題は何も解決しない。むしろそれを前提にしたしくみを考えるべきだ」と説明。「失敗が起きるプロセスを立体的にとらえ、得られた知識をデータベース化すること。失敗を生かすことでそれをプラスに評価する制度、例えばリスクを負債にのせる会計方式の導入などが有効だ」と述べた。

また「失敗情報は隠れたがる。このため責任追及を分離し、免責を必須に」と提案。「米国では組織内に、失敗知識を活用する専門の担当者がおり、それ自体がビジネスとして成立している」と述べた。

続いて須田信英、飛岡利明両委員が原子力施設でこれまで起きた事故の原因を、階層的に分析。JCO 事故での均一化工程は局所最適が全体不適を招いたことや、無知や手順不遵守といった個人に責任がある失敗に加え、組織運営や企画不良などシステムの失敗が重なった時に、大事故がおきやすいことを説明した。

さらに米国スリーマイル島原子力発電所での事故後にはマンマシンインターフェイスの研究が進み、「もんじゅ」の箏故では流力弾性振動に対する知見が加わったこと、品質強化活動が強化されたことなどを紹介した。

これらをふまえて安全委では、安全審査にそうした教訓を常に取り入れてきているとともに、安全文化の醸成を図ってきていることや万一の失敗に備えた防災対策を進めていることを明らかにした。

さらに松原純子委員長代理は、放射線被ばく事故の事例を紹介。「これらの事故はデータ誤入力や安全確認を怠ったことが原因」としたうえで、「原子力発電所より危険性が低いと思われるため、取扱いがずさんになる傾向がある。それが事故を招く一因となる」と説明。「行政庁や事業者に対し教育訓練を実施するよう促している」と述べた。

会場の参加者からは、高速炉の冷却材としてナトリウムを使う理由や事故にあった被ばく者のケア、情報開示についての質問が出た。JCO 事故の被ばく者について松原委員長代理は「この事故での被ばく量では、早期に体への影響はないものの、心のケアも含めて健康面でのフォローを行っている」と答えた。

終了後の記者会見ではテロ対策について、松浦委員長は「最高レベルでの対応がなされている。万が一、原子力災害が起こった時には、これまでの防災対策などで対応できる」との考えを示した。


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