[原子力産業新聞] 2001年10月18日 第2108号 <5面>

[ITER計画] なお続くITER誘致の議論

大学教授ら推進要請

来月8、9日にもカナダで参加国政府間の正式協議が予定され、原子炉設置国がどこになるか注目を集めている国際熱核融合実験炉 (ITER) 計画だが、香山晃京都大学エネルギー理工学研究所教授をはじめとする核融合研究に携わる大学教授らが12日、同炉を日本に積極的に誘致すべきだと訴える要望書を総合科学技術会議 (議長・小泉純一郎総理) に対して提出した。

要望書は、「核融合 (炉工学) 研究を推進する大学教官有志」の意見としてとりまとめられたもので、24に及ぶ国立・私立大学の教授ら35人が連名で、総合科学技術会議として「ITER 計画への参加と日本誘致に関する前向きな結論を出す」よう強く要望している。

大学の核融合研究界の中には、ITER 誘致に対する反対意見が依然根強く残っていることから、誘致是非の判断に影響を及ぼすと見られる総合科学技術会議が最終的な見解を出す前に、ITER 設置を有意義と考える大学研究者が誘致推進の声を明確に発しておくことが必要との判断から要望したもの。提出した教官らはその中で、ITER の日本誘致が実現することは、「我が国の学生や若手研究者にとり大学での教育・研究がより具体的に見え、核融合エネルギー開発への臨場感をより高め、国際協力の場で世代を越えてのエネルギー開発研究・技術の継承が可能になる」と主張。論拠として具体的に5つの点を挙げている。

(1) ITER の日本誘致により、世界の優れた研究者が多数集まることで、学術の質的レベルの向上がもたらされるとともに、計画に大学からも研究者が参加できる仕組みが作られようとしていることなどから、総合科学技術会議が重視する我が国の研究・教育システムの国際化・流動化といったメリットがもたらされる。

(2) ITER の目指す核燃焼プラズマは国内の核融合装置では達成できない新しい研究領域であるため、国内誘致により多くの大学関係者がプラズマを直接詳しく研究することが可能である。

(3) 多様な産学官の連携による研究の場が提供される。

(4) ITER 計画が学生たちの勉学の励みになるとともに、関連産業の活力の維持や今後の努力への奨励となるものと期待される。

(5) 国内誘致により、多様な研究環境の提供が身近で可能となり、大学が科学技術の最先端と協力することで優秀な人材が大学に集まり、優秀な科学者・技術者の養成が可能になる。

要望書はこうした点を挙げ、「誘致は将来の日本を支える上で重要である科学技術の高い水準の維持・発展と後継者の育成という意味で高い投資に十分に見合うもの」であることを強調している。


総合科技会議、国民に対し説明責任

一方、総合科学技術会議では、ITER 計画について7月以来、本会議や有識者会合の場で審議を重ねてきているものの、出すべき結論はなかなか見えて来ないようだ。

他の参加極との交渉の中で、日本が国内誘致に全面的に打って出るべきなのか、誘致はせずに他国に建設される炉での研究活動参加にとどまるのが望ましいのか。あるいは、現実的ではないが、計画自体から手を引くことさえもオプションとしてないことはない−。12日に記者会見した総合科技会議の井村裕夫議員は、こうした地に足がつかない現在の状況を明らかにした。そのうえで、井村氏は ITER のような国家的プロジェクトの決定にあたって同会議が果たさなければならない役割が2つあると語った。

ひとつは、我が国の全体的な科学技術振興の任務を負う総合科学技術会議として国民に対する説明責任。この点について井村氏は、何らかの場で国民に対し、計画に関する検討経緯を明らかにするとともに、国民の意見を聴取したうえで、最終判断につなげたいとの考えを示唆している。

もうひとつは、ITER が国内に建設された場合、我が国の原子力・エネルギー分野の研究開発費全体にどのような影響を与えるかを明確に見通すことだ。そのため、文部科学省から予算確保などの見通しについてこれまでにヒアリングを済ませたという。

さらに、我が国にとって気になるのは EU 側の出方だ。井村議員は、フランスが正式誘致をしたとしても、「EU としての予算手当ては額が少ない」としていて、日本だけが先行する形で国内誘致の声をあげることが結果的に日本により多くの負担を強いることにならないよう、十分に情勢を見極めることが必要だとも語っている。

原子力委員会は、すでに誘致を念頭においた計画推進の方針を決めているが、当面国が厳しい財政を抱えるなかで、純粋に科学技術的尺度だけでとらえきれない大規模プロジェクトの ITER 計画にすっきりした答えが出されるまで、国内的にも対外的にも、もうしばらく駆け引きが続く。


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