[原子力産業新聞] 2001年11月1日 第2110号 <2面>

[学術会議・東工大] 人材養成と教育めぐりシンポジウム

産学官の連携強化を

シンポジウム「原子力の人材養成と教育の在り方」が10月29日、東京・目黒の東京工業大学100年記念館フェライトホールで開かれた。大学や研究機関、産業界などの人材養成や優れた人材を育てるための教育のあり方などについて講演、パネル討論が行われた。日本学術会議と東京工業大学が主催した。このなかで、「原子力産業における人材養成」について講演した鷲見禎彦・日本原子力発電社長は、同氏が委員長をつとめる日本原子力産業会議の基盤強化委員会・人材問題小委員会の検討状況を報告。同氏は電力の一部自由化など原子力をめぐる環境変化にふれ、「電力も価格競争の時代に入った」などとして、優れた人材の養成や教育を行う上で、教育とメンテナンス等の技術養成について一層効率的・効果的な取り組みのあり方の検討を進めていることを紹介した。また安全規制行政の立場から「原子力安全規制と人材教育」について講演した佐々木宣彦原子力安全・保安院長は、「色々な分野の人材が原子力の基礎的な素養を身につけるために大学の研究活動に参画する機会を設ける余裕をもたせることができないかと考えている」などとして大学との連携強化も視野に入れていく必要性を述べた。「国民が期待する原子力教育」と題して講演した鳥井弘之・日本経済新聞論説委員は、特に大学の役割について、電力自由化などの環境変化に対応し、「革新技術の開発をになう人材、技術と社会の関係のなかでどれだけ目を見開いた人材を育てるかが重要だ」との考えを示した。

このあとパネル形式で行われた総合討論では、優れた人材養成について産学官連携強化や魅力ある原子力開発のあり方をめぐりフロア参加者を交えて活発に意見が交わされた。このなかでパネリストとして参加した森一久日本原子力産業会議副会長は、もんじゅ事故や JCO 事故などの例をあげて「原子力界に甘えがあった」と指摘。そのうえで原産が進める人材問題小委員会の状況を紹介し、新たな教育システムの構築などの検討が最終段階にきているとした。今西信嗣京都大院教授は、教育のあり方を見直すため大学内で自己改革等を推進している状況を述べるとともに、「ニーズの多様化がみられるなかで、学生が社会のニーズを汲み取る機会を設ける必要もある」とした。田中知東大院教授も最近原子力産業界の人材ニーズが明確でない点を指摘して産業界との連携をはかる必要性を強調した。一方で同氏は大学の役割として「新たな核ネルギーの利用や社会との接点を考えるなどの面で貢献できることがある」との考えを示した。日立製作所の河原ワ常務技師長は医療用加速器など新たな分野への取り組みを進める一方、人材養成に IT (情報技術) を取り入れ技術伝承に力を入れているなどの取り組みを紹介。大学との連携強化の必要性を示した上で、原子炉実験など実体験に基づく教育や、革新技術などブレークスルーをめざす研究への取り組み強化を求めた。また岩崎信東北大院助教授は、日米の学生の学力差が開いてきているなどの調査結果を示し、日本の大学教育が特に教育面でテコ入れを必要としていると実情を指摘した。

フロアからコメントした住田健二日本原子力学会会長はこうした議論を踏まえ、「長期計画に示されたような目に見える部分での議論に終始しているように思う。ノーベル賞クラスの発想の転換ができるような人材をどう育てるのかという話に議論が及ばなかった」などとして、将来を見据えた魅力あるテーマを追求していく優秀な人材を集め、育てることが重要とコメントした。森原産副会長も、「なにがあろうと原子力研究の将来をみつめてやるんだという人材を育ててもらいたい」と将来を見据え情熱をもって取り組む人材の養成が求められているとした。


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