[原子力産業新聞] 2001年11月15日 第2112号 <2面>

[第18回世界エネルギー会議] 初の原子力セッションが実現

前田関電特別顧問、アジア原子力開発を展望

去る10月21日から25日に、世界エネルギー会議 (WEC) の第18回大会がアルゼンチンのブエノスアイレスで開かれ、99か国から3000人以上が参加した。

WEC は電力をはじめ、ガス、石油、原子力、再生可能エネルギーなど広範なエネルギー問題についての研究・調査を通じてエネルギー政策決定者らに助言や勧告を提供する民間組織で、およそ100か国が加盟している。

[初めて実現した原子力セッション]

「エネルギー市場・新ミレニアムの課題−人々のためのエネルギー、平和のためのエネルギー」を基調テーマとした今年の WEC 大会もプログラムは多岐にわたった。とりわけ今回注目すべき点は、大会史上初めて原子力に焦点をあてたセッションが設けられたことだった。

大会2日目午後のセッション「原子力−産業界からの展望」は、フランス電力公社のF.ルスリー会長を議長に、日本、フィンランド、韓国、アルゼンチン、米国が加わり、ラウンドテーブルとして行われた。我が国からは前田肇関西電力特別顧問が参加。「アジアの原子力の現状と今後の展望」と題し、昨年10月に東京で開かれた WEC アジア太平洋フォーラムでの議論を踏まえて発表した。同氏は、アジアで原子力を積極的に開発する意義は、エネルギーセキュリティと温暖化問題の解決であると強調。原子力が抱えている課題は安全性の向上や廃棄物対策、国民理解の促進だと指摘し、原子力に対する投資の技術的また社会的なリスクを抑制すれば、不確実性を低減することができ、原子力への投資が正当化されると主張した。さらに、原子力は化石燃料のコスト変動に左右されない点や廃棄物処分のためのコストを内部化している点など、原子力の優位性を訴えた。

このほか・フィンランド・フォータム社のイハムオティラ取締役は、高レベル廃棄物処分計画の進展状況と国民的合意形成について発表した中で、計画の段階に応じて議論の場を形成することや国民の知識欲を満たすための広報活動などが重要と指摘。また、米国エジソン電気協会のクーン会長は、米国の新しいエネルギー政策における原子力への期待や、合理的な安全規制に向けての新しい原子炉監督計画について、またユッカマウンテンの廃棄物処分計画の進展状況を報告した。

[結論と勧告]

大会は最終日の25日、「結論と勧告」案を承認した。

今回の文書には、特にエネルギーセキュリティと世界の調和を高める意味で次の事項が課題だと記された。(1) エネルギー供給の恩恵を受けていない世界20億人に対するエネルギー利用を可能にすること (2) 世界・地域レベルでの政治的・法的な安定性の向上 (3) 原子力の安全な利用と再生可能エネルギーの促進を含むあらゆるエネルギー源の利用 (4) 競争と技術革新による効率性の向上。

こうした点を踏まえ、「結論と勧告」では、国や地域、地球レベルでの環境問題の克服は市場の改革や技術の急速な普及により達成が可能だとしたうえで、今後各国がエネルギーポートフォリオの最適化を目指すことが温室効果ガスの問題解決に向けた最も良い方策であるとした。そのためには、全てのエネルギー源選択肢をオープンにしておくことや、クリーン開発メカニズムにおける排出権取引の実施を追求することが必要であるとの考えを盛り込んだ。

[持続可能な発展に原子力は適切なエネルギー]

特に文書の中では、原子力や水力発電比率の高い国はキロワット当たりの CO2 発生量が極めて低い事実が言及された。温暖化ガスの排出抑制のため、「CO2 をほとんど排出せずにしかもベースロード電源としての役割を果たせ、温暖化対策や価格の安定性、高い利用率などの利点がある原子力エネルギーや水力エネルギーは将来的に持続可能な開発を追求するうえで適切なエネルギー源である」との認識が明確に示された点は注目に値する。

また、原子力が今後も重要な役割を担うために、炉の寿命延長や新規建設、経済性が確保できる範囲での再処理、技術革新 −などの選択肢があるとの考えが示される一方で、国民社会に十分に受けいられるようさらに取組みが必要だとの産業界の認識が加えられている。

「結論と勧告」はこのあと、加盟各国の意見を反映した最終文書が来月下旬の WEC 会合で決定される予定だ。


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