[原子力産業新聞] 2002年3月21日 第2129号 <4面>

[insight] モロッコの塩性土壌で作物の育生に貢献

モロッコの乾燥してやせた土地の真中に、地元農家ハッサン・ズトーチの緑の牧草地が広がっている。ズトーチの農場の土壌は大量の塩分を含んでいるが、原子力技術のおかげで、彼の穀物だけはみごとに生育している。

モロッコのセドエルマスジョーネ地区にあるズトーチの農場は、3年以上にわたって、塩分を含んだ土壌で植物の生長をめざしたプログラムの実証サイトの役割を果たしてきた。こうした学問分野は、バイオセイライン(biosaline)農業として知られている。このプログラムのもと、モロッコをはじめとした国々からの科学者は、土壌と水、植物の間の複雑な相互関係について理解するため、実証された原子力技術とその応用法を利用している。

モロッコの国立農業経済学研究所の微生物学者であるムハンムド・エル・カディールは、「われわれは、土壌の組成を良く理解する必要がある。また、そうすることで、塩分に耐えられるいろいろな種類の植物がどのように、またどこならうまく生長できるかということを農家に対して助言する上で役に立つ」と語っている。カディールは、オーストリアにある国際原子力機関(IAEA)の農業・バイオテクノロジー研究所で実験を行った。こうした多国間でのプロジェクトを後援しているIAEAは、関係した8カ国の専門家の協力をあおいだ。

ズトーチの農場での作業を支援するモロッコの研究所は、今回の実証プロジェクトのために新しい井戸を開発。塩気を含んだ水であったが、ユーカリやアカシア、オリーブといった塩分に強い植物と菜種と呼ばれるカラシナ植物は生育する。こうしたプログラムの成功に基づき、モロッコ政府はよリ多くの実証調査区に灌漑を行うため塩分を含んだ別の井戸を掘っている。

井戸が開発された時点で、帯水層の調査、測量、監視が行われることになっている。科学者や水文学者が取り組む必要があると思われている問題の中には、拡大された植物の実証サイトに灌漑を行う上で帯水層が十分な容量を持っているか、どのように涵養が行われるか、地下水がどの程度塩分を含んでいるか、土壌にどのような変化が生じるか−などがある。中性子温分計や放射性同位元素といった分析手段を用いることによって、こうした疑問に答えることができるとみられている。

国立農業経済研究所の環境物理部の部長を務める土壌科学者のアドベル・イラー・アンブリは、「われわれは、そうしたデータがないことにはサイトを拡大するという決定を下すことはできなかった」と指摘している。また、「農家が新しい植物を植えはじめた時点で、われわれとしてはここの土壌で植物を生育させるために十分な水があるかを知る必要がある」とも語っている。アンブリは、IAEAがモ□ツコで行っているプロジェクトを管理している。

世界的にみると、植物の生育には塩分が多すぎる土地は、パキスタンの国土にほぼ匹敵する1億9800万エーカーに達している。こうした土地を耕地化する1つの方法は、ズトーチの農場で使われているバイオセイライン農業を実施することである。

バイオセイライン農業では、塩分に強い植物を土壌と水の状況にうまくあわせる必要がある。農家としても、植物に灌漑するにあたって塩分を含んだ水をどのくらい使えるかということを知る必要がある。国立農業経済研究所のアンブリは、「基本的な考えは、植物の根の活動部分より下に塩分を浸出させるためにどれだけの水があれば十分かを計算して植物に水を考えることである」と指摘している。

家畜の飼料やバイオマス燃料、産業向けの原料の資源となるほか、塩分に耐える植物は土壌の湿分を保ったり、侵食を遅くしたり、砂漠化にブレーキをかける働きをする。

このプログラムに対する関心はかなり高い。セドエルマスジョーネの農家はバイオセイライン農業についてもっと知りたいとの希望をもっている、とアンブリは述べている。「彼らは、ズトーチの塩の土地が緑の農場になっていくのを見ており、そのノウハウを知りたがっている」。


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