[原子力産業新聞] 2002年4月18日 第2133号 <2面>

[原子力平和利用・核不拡散検討会] 国際ワークショップ開く

核テロなど活発に議論

核不拡散分野の学識者らで構成する「原子力平和利用・核不拡散検討会 (座長・田中靖政学習院大学教授)」は3月13〜14日に国際ワークショップを開催した。このワークショップは文部科学省の委託により、日本原子力産業会議が企画・運営したもの。同一の主題のもと、半日は東京都内での公開講演会、あとの1日は非公開会合として静岡県の御殿場に場所を移し、海外招待者と国内の検討会のメンバーを主とした少人数により突っ込んだ議論を行った。本稿では非公開会合の概要を紹介する。

海外からの招待者は、13日午前の公開討論で講演した国連・監視検認査察委員会特別委員長 (前国際原子力機関 (IAEA) 事務局長) のH.ブリックス氏、フランクフルト平和研究所のA.シャーパー氏に加えて、インドの国会議員のK.シバール氏、IAEA保障措置部のO.ハイノネン部長、中国原子力機構の朱家路氏、韓国原子力委員の李昌健氏、カーネギーモスクワセンターのA.ビカエフ氏、米国モントレイ研究所のL.シャインマン氏の8人。日本からは検討会メンバーである田中靖政座長、黒澤満・大阪大学教授、栗原弘善・核物質管理センター専務理事、鈴木達治郎・電力中央研究所主任研究員、若林利男・核燃料サイクル機構・部長が参加した。また遠藤哲也原子力委員長代理に出席いただいた。

今回のワークショップは、昨今核不拡散の分野で最も注目を集めている話題、「核の転用防止」すなわち保障措置による検証の今後のあり方、および昨年の米国での同時多発テロを受けた「核テロリズムヘの対応」の2つとした。前者はIAEAの統合保障措置と今後のあり方。後者はサブナショナルあるいは国を超えた (トランスナショナルな) 脅威に対する対処で、従来から核物質防護として扱われているが、見直しを含め国際的な議論が始められている。この2つの話題は性格および対処法を大きく異にするが、いずれも国際社会の安全保障、ひいては原子力平和利用の推進に大きな影響を与える。ワークショップでは、こうした問題について基本的な考え方を中心に議論し、今後の新展開を踏まえての動きを検証し指向すべき課題を明らかにすることを目的とした。

非公開会合では、海外参加者と黒澤教授が議論の下地作りとして合計7篇のキーノートを発表。2日目は早朝から (1) 核不拡散体制の有効性 (2) 核テロリズム (3) いかに問題を解決するか − の3つの議題について集中的に議論した。

まず核不拡散体制の有効性については、現在の体制は核不拡散を担保し、平和利用を進めていく上で効果的であると認めつつも、体制に疑問を抱かせるような幾つかの問題を抱えているとした。そのためにも追加議定書の普遍化が不可欠であるが、現在遅々として進まない批准国の数を増やすには特段に解決策は無く時間をかけて忍耐強く進める必要が指摘されるとともに、いずれはこれを批准しないと国際社会の中で肩身の狭い思いをすることになろうとの意見が見られた。インドやパキスタン、イスラエルという実質的な核兵器国の取り扱いについての議論では、特に隣国との安全保障、例えばインドの場合、カシミール問題の解決が得られなければ単に核兵器の廃絶を叫んでも無理なことなどが議論された。北朝鮮については、疑惑のもとになったガス炉の燃料についてIAEAの解析作業に最近参加したなど新しい方向が出てきているなどの報告があった。いずれにしても米国の一国主義への傾斜が国際関係に影を投げかけている。

イラクの場合は核への疑念はほとんど晴れているが生物兵器に問題を残していることや、誠実かつ積極的に国際査察を受け入れるのが唯一の解決策であることが強調された。

テロに関しては、現行の核物質防護条約を改訂し適用の範囲を広げるべきであるというのが大方の意見であった。IAEAによる最近の理事会への提案として、加盟国での核物質防護の改善に2,000万ドルが緊急に必要とする内容が紹介されたほか、国際的に核テロの温床となると恐れられているロシアの余剰核兵器の解体からの核物質などについては、米口の処分プログラムの進展が施設立ち入りの問題などで停滞していることが明らかにされた。また余剰プルトニウムの処分では、「使用済燃料基準」にこだわらずピットを酸化物に転換しプルトニウム酸化物は国際管理するなど、処分プログラムを加速してはどうかとの意見もあった。

輸出規制の面では、特に今後原子力発電の伸びが期待されるインドヘのロシアの輸出姿勢が話題となった。ロシアはイランヘの輸出は米国との関連で慎重に進めるとしても、インドヘは核不拡散上問題が無いとの立場から原子炉などの輸出をかなり強引に進める、というのが筆者の印象だった。これは今後原子力供給グループなどで大きな問題となろう。

IAEA統合保障措置の今後については、定量的な検認手法から定性的な方向へ、また施設レベルの検証が国レベルの検証に移ろうとする動きなど、情報処理などの新手法を用い一貫性のある、より定性的な手法を取り入れられるとの方向を確認した。

ここ3年続いた核不拡散検討会によるシンポジウムやワークショップの主な目的は、「わが国の社会・経済の持続的発展へ多様な原子力平和利用を進めていくためには、一部の専門家の関心に留まりがちな核不拡散について全般の理解と関心を一層深め、同時に、国際社会にわが国の行え方を多く発信し、更には国際世論をリードすること」にあった。海外のパネリストからも、日本のこの側面での「見える活動」として評価されていた。ところが、昨年1月以降の省庁改編のあおりを受けた形で、この活動が今回で終了したことは大変残念なものと言えよう。

【日本原子力産業会議参与 大井昇】

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