[原子力産業新聞] 2002年4月18日 第2133号 <4面>

[WENの活動] くらしと放射線プロジェクト

ウイメンズ・エナジー・ネットワーク (WEN)
代表 浅田 浄江

【はじめに】


WEN はウイメンズ・エナジー・ネットワーク (Women's Energy Network) の略称である。エネルギーに関わる団体や企業の広報活動などに携わっている女性たちが、情報交換や自主的な勉強会を通じて切瑳琢磨し、対外的には知識や技術、生活者としての視点や智恵を生かして、それぞれに広聴や広報の分野で活躍できることを目標としている。1993年2月に発足、来年は10周年を迎える。専門家と非専門家あるいは一般市民をつなぐパイプ役として、コミュニケーションを重視しながら、さまざまな活動を続けてきた。

【WEN と放射線との関わり】

エネルギーと不可分の関係にある原子力、あるいは放射線の平和利用の問題もまた WEN にとっては捨てて置けないテーマである。発足当初に行った「エネルギーに関する意識調査」(1996年) は、エネルギーに関するどんな情報をどのように伝えたらよいか、その対応策を探るための資料を得る第一歩として企画した。その結果、わが国のエネルギー資源の逼迫性や原子力エネルギーの必要性については「知っている」し、「納得できる」との意向が読み取れたが、今後の原子力への依存や、放射線そのものの利用面については「納得できない」あるいは「どちらとも言えない」との回答が半数を超え、特に女性にその傾向が強いことが分かった。

更に、1998年に食の教育推進協議会フォーラムの委託を受け「食品照射に関するアンケート調査」を実施した。食品照射という食品を安全に保存するための技術について、一般市民にはほとんど情報提供がないことを実感したのはその時である。

【「くらしと放射線」プロジェクトの誕生と調査の実施】

前述の活動を経て、2001年11月に WEN のあらたなプロジェクト「くらしと放射線」がスタートした。その最初の活動として、女性達が、生活の諸分野で利用されている放射線をどのように認識しているか、放射線に対する抵抗感や関心はどうか、情報の提供をどの程度受けているのかなどに関して、アンケート調査を実施しようということになった。放射線と縁の深い原子力発電所がある地域 (電気のいわば生産地) と、電気を総量としては大量に使う大都会 (消費地) に対象をわけ、WEN 会員の紹介により1,419名に調査票を配布し、1,028票の回収を得た (回収率72.4%)。

質問は (1) 放射線のイメージ (2) くらしの中で使われる放射線の利用例に関する認知度 (3) 放射線の基礎知識に関する認知度 (4) 放射線利用に対する許容度 (5) 放射線に対する評価 −と自由記人欄で構成された。

【主な調査結果より】

(1) 放射線のイメージ
「放射線」という言葉を見たり聞いたりしたとき、怖いというイメージを持つ人は、全体の約80%を占めた。地域別では、生産地よりも消費地の方が怖いイメージを持つ割合が高く、年齢別では顕著な差はみられないものの、高年齢層よりも低年齢層の方が高い傾向がみられた。

(2) くらしの中で使われる放射線の利用例に関する認知度
くらしの中の放射線利用例を25項目あげてその認知度を調べた。メンバーが文献から抽出した約100の利用例の中から、(a) くらしに関連していること (b) 正確さに留意すること (c) 分かりやすく、短文にすること −を心がけて選び、決定したものである。

利用例について「よく知っている」または「聞いたことがある割合は、空港の手荷物検査」、「文化財の調査」、「原子力発電所周辺のモニタリング」、「ラジウム温泉やラドン温泉」が、60%以上であった。しかし、「害虫の根絶」や「原爆被爆者の遺伝的影響」などの13項目については、約30%以下の認知率にとどまっており、全般的な認知度の低さは予想通りであった。

これを地域別に見ると、生産地では「原子力発電所周辺のモニタリング」の認知度が90%以上であったほか、「ジャガイモの発芽防止」、「人体中の放射性物質」、「食品中の放射性物質」の認知率が60%以上であるなど、消費地よりも認知率が高い傾向が示された。

(3) 放射線の基礎知識に関する認知度
放射線の基礎知識に関して7項目の認知度をみた。「放射線の種類」、「自然放射線」の認知率は80%以上であったが、「人工的につくられた放射線と、自然界に存在する放射線は種類が同じなら性質に変わりはない」「食品などの摂取で、体内に取り込まれた放射線をだす物質は、いずれは体外に排出される」については「知らない」が6割を超えた。

(4) 放射線利用に対する受 (許) 容度
放射線利用の具体例を6項目挙げて、実際に回答者自身が受け入れるかどうかを聞いたところ、「テロやハイジャックなどの危険を防止するために、空港で手荷物にX線等を照射されるのはやむを得ない」は、「そう思う」「ややそう思う」をあわせて90%を超え、許容度が一番高かった。続いて、「放射線を照射するがんの治療や、放射線を出す物質を体内に入れて検査する方法は、必要があれば自分も受ける」が64%で、必要性の大きいことがだれにでも想像できる放射線利用に対する許容度は高いことが分かった。

一方、「日本でも強風、病気、冷温などに強いイネのように、放射線による突然変異を育て品種を改良した例があるが、自分はその米を食べても良い」は最も低く、29%にとどまり、続いて「サルモネラ菌などによる食中毒を防止するため、冷蔵・冷凍食品などに放射線を照射する技術は、欧米では実用化されているが日本で検討してもよい」が42%で、食品に関する項目や、他のものの選択が可能 (代替性) である場合は許容度が低くなると思われる。

(5) 放射線に対する評価
放射線は「くらしに役立っていると思う」「くらしに必要だと思う」など5項目について評価を尋ねたところ、いずれも80%を超える人々が肯定的な回答をし、消費地よりも生産地のほうが、また、低年齢層よりも高年齢層のほうが、放射線利用の必要性、有用性を高く評価していることが明らかになった。

(6) 怖いというイメージを持たない人はどんな人?
最初の質問で放射線に怖いイメージを持つ人は80%に上ったが、残りの20%の怖いイメージを持たない人たちはどんな人かをみてみると、放射線の利用例や基礎知識について認知度が高い人、また、年齢か高い人、生産地の人にその傾向が強いことが分かった。怖いというイメージを持たない人は同時に必要性、有用性を高く評価し、受容性も高い結果となっている。原子力発電所の立地町村 (生産地) の人々は、原子力発電所が身近に存在し、それに伴って放射線に関する情報にふれる機会が多いことが起因していると思われる。

【おわりに】

今回の調査は一般の女性達の放射線に対する認識を広聴することが目的であったが、同時に、放射線についての広報ができたと信じている。自由記述には「こんなに利用されているとは知らなかった」「これがすべて事実であれば、もっと勉強するべきだし、情報提供してほしい」という意見が相次ぎ、放射線のメリット・デメリット、特に食品や医療に関する利用による人体への影響を知りたいという声が多く寄せられた。また、「せっかく放射線がくらしに役立つ利用のされ方をしていても "放射線" という言葉のもつイメージが想起されるのを恐れて、敢えて使わないようにしているのではないか?そうすると放射線利用反対派ばかりが悪口としてしか表現せず、言葉のイメージはどんどん悪くなるという悪循環になっているように思う」という示唆にとんだ指摘をはじめ、今後の活動の参考になる材料が多く寄せられた。

今回の調査結果を踏まえ、2002年3月8日に WEN は、首都圏の参加者を対象にフォーラムを開催した。今後更に地域をかえてフォーラムを開催する予定である。

まさにこのプロジェクトのスタートにふさわしい調査活動であったとメンバーは自負している。


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