[原子力産業新聞] 2002年4月25日 第2134号 <1面>

[原産会議] さいたま市で第35回原産年次大会を開催

持続可能な社会を展望し議論

日本原子力産業会議が主催する「第35回原産年次大会」が22日から24日までの日程で、埼玉県さいたま市の大宮ソニックシティで開催された。「政治・社会変化の中の原子力−今、試される時」を基調テーマに掲げ、6つのセッションで国内外の参加者が講演とパネル討論を行った。大会には、我が国を含む20か国・地域および7国際機関から1,000名以上が参加した。市場経済のグローバル化や地球環境問題などへ緊急な対応を迫られるなか、我が国は社会の活力を取り戻すためさまざまな構造改革への努力を続けている。こうしたことを背景に同大会では、「21世紀のエネルギー政策における原子力」「大都市圏と原子力施設立地地域の課題」「プルトニウムのリサイクル利用をなぜ進めるのか」「新しい社会経済環境下における原子力発電の貢献」「原子力技術の将来展望−新型原子炉を中心に」 −といったセッションが設けられた。講演やパネル討論をとおして、あらためて原子力が持続可能な開発に果たし得る役割の大きさがクローズアップされた。


西澤原産会長が所信 「社会への定着に人材確保緊要」

金井務原産副会長が議長をつとめた22日午前の開会セッションで、主催者の原産会議を代表して西澤潤一会長は所信を表明。「21世紀の社会は人間の生活の豊かさを目指すであろう。そのためには、原子力を含め有用で高度な科学技術が日常のものとして社会に定着する必要がある」と述べたうえで、関係者は原子力の潜在的な危険性を常に認識し、「不注意な事故や不適切な対応により一般の人々の信頼感を損なうことのないよう」しなければ人々の納得は得られないと強調した。

さらに、原子力が21世紀に長期的に定着するためには、継続的に「原子力を十分に管理できる」人材が産みだされることが必要だとし、原子力・エネルギー教育の充実や原子力技術の魅力を引き出すことの重要性を訴えたほか、今日見られる電力の生産地と大消費地との意識の乖離を指摘したうえで、「消費地にある程度の自給体制を作る必要性も含め、よいメカニズムを産みだすことも必要」との考えを示した。

続いて、遠山敦子文部科学大臣が所感を述べた。遠山大臣はその中で、小泉内閣が進める「聖域なき構造改革」のひとつとして着手された原子力関係2法人の統合を挙げ、「一層効率的かつ重点的な最良の研究開発体制の構築」を目指す考えをあらためて強調した。同大臣はさらに、原子力に対する国民の理解と教育について今年度から「原子力・エネルギーに関する教育支援事業」を創設することを紹介。各部道府県が主体的に実施する原子力・エネルギー教育の充実化に向けた副教材の作成や教員の研修などでバックアップしていくことを明らかにした。また、高速増殖炉サイクル技術の研究開発の中核として高速増殖原型炉「もんじゅ」の早期運転開始を目指すとしたほか、原子力科学、なかでも加速器科学の可能性を取り上げ「大強度陽子加速器計画」を着実に進めていきたいとの考えを述べた。

経済産業省を代表して出席した松あきら経済産業大臣政務官は所感の中で、原子力が我が国のエネルギー安定供給と供給源の多角化に寄与したことは疑う余地がないとしたうえで、地球温暖化対策とし京都議定書の目標達成に向けた政府の「地球温暖化対策推進大綱」に盛り込まれた原子力発電を着実に推進する必要性を重ねて強調。さらに、今年度は原子力全体にとり重要な1年になるとした。政府・産業界がともに、プルサーマル計画の1日も早い実現に向けた努力を積み重ねる必要性を訴えるとともに、「透明性の高い国民から信頼される原子力産業を目指してほしい」と強い期待を表した。

今回の大会の開催地である埼玉県からは土屋義彦知事が参加した。同知事は挨拶の中で、「原子力関係者が私たちの暮らしと生産基盤を支えるために日夜エネルギー安定供給に尽力されていることに深く敬意を表する」としたうえで、「我が国のエネルギー供給は、これまでの経済優先から環境負荷の少ない持続的発展が可能なものへ転換することが重要課題」だとの考えを示した。同知事は、現在総発電電力量の3分の1を占める原子力は CO2 の排出抑制につながる重要なエネルギー源であるとする一方、原子力が廃棄物処分など大きな課題も抱えているほか情報公開の充実や一層の安全性確保が求められている点を強調した。


末次委員長が講演 「計画の柔軟性も重要」

第35回原産年次大会準備委員長の末次克彦アジア・太平洋エネルギーフォーラム代表幹事は、22日の開会セッションで、「21世紀の我が国原子力の課題と展望」と題する講演を行い、21世紀のエネルギー開発、原子力の構造改革、競争化時代と原子力 −といった観点から持論を展開した。

まず、「21世紀のエネルギー利用は持続的社会開発路線に向かっているが、こうした路線には社会的二ーズを量的に満たす機能に欠けている」としたうえで、原子力は化石燃料から自然エネルギーに傾斜する持続的開発路線へのつなぎ手として、同時に新しいエネルギーミックスの中核として有用な機能を持つと位置づけ、原子力は燃料の国内での付加価値度や備蓄性が大きくセキュリティ機能を備えていると主張した。

21世紀のエネルギー情勢下では化石燃料と原子力の共生をはかる必要があるとし、一例として両エネルギー源の利用を結び付け効率的な水素製造の実現を図るエネルギーコンビナートの実現が望まれるとの考えを示した。

一方、温暖化防止国際会議で原子力はクリーン開発メカニズム (CDM) の対象に組み込まれていないことを挙げ、原子力の CO2 削減効果を定量化し、社会常識として定着させる努力が必要と指摘した。さらに同氏は、21世紀の原子力に対して構造改革の必要性を提起。「過去20年間、原子力はあれもこれもと長期計画路線を突き進んできたが、どれもが停滞している」との懸念を示したうえで、取捨選択も含め、計画の柔軟性が重要との認識を示した。核燃料サイクル実現の必要性を再認識しつつ実施のタイムスパンを見直すことはひとつの選択肢だとの考えを述べた。

電力の競争化時代は原子力産業と規制の両面に改革を求めるものだとするとともに、電源間の競争の激化などで電源のみならず送配電や販売を含めネットワーク電力の競争力が問われるとの見通しを示した。電力経営全体の中でさまざまな電源の位置づけの再検討が必要ではないかと指摘した。


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