[原子力産業新聞] 2002年4月25日 第2134号 <5面>

[原産年次大会] セッション2 消費地と立地地域の課題

過密化や環境の悪化といった問題を抱えつつ、わが国政治経済の中核的役割を果たす大都市圏。一方、過疎化問題や経済の停滞といった問題を抱えながらも、原子力関係施設等を立地して、都市部への電力供給を果たしている、原子力施設立地地域等の地方自治体−地方分権化等が急速に進む現在、双方の住民の認識に大きな乖離が生じてしまっていることが課題となっている。セッション2では、原子力施設を立地する地方自治体の抱える問題点などを明らかにするとともに、「消費地」と「生産地」のエネルギー・原子力に対する意識の違いに関する問題について、相互理解を促進させること、さらには立地地域の発展を促進させる方策などにまで踏み込んだ、様々な議論が展開された。


基調講演 下平尾福島大教授

電源立地は、一方では電力の安定供給を図るという国家的要請に応えるとともに、他方では電源立地を起爆剤とした地域振興を促進するという、2つの課題を同時に解決しなければならない問題だ。

しかし過去30年間で、(1) 当初は「最新技術を持つ産業の立地」として歓迎されていた原子力に対し、今日では「リスク管理と責任の所在の問われる『負の遺産』」という意識が生じている (2) 電源三法交付金等の地域振興に関する施策は立地促進の色合いが強いが、原子力発電施設の多くが20年以上を経過している現在では「立地、運転、廃止措置」の、3つの側面に即した方針と制度の拡充が課題になってきた −という、原子力発電所立地に関する変化が生じている。

また、発生電力の多くは地元で消費されず、大都市の産業発展や住民の生活向上に貢献していることから、「電力供給地の商業活動や生活向上のために、電力が低料金で供給されるべき」ないしは、「消費地の開発利益の一部を、発電地域に再配分すべき」との住民感情が強くなるといった「共生内容の変化」が起きていることや、立地後20年を経過した現在、当初期待された所得の増大、若年層の定着化とは逆に、地域人口の流出、高齢化が進んでいることから、地域産業振興のほかに高等教育機関の配置や医療・福祉施策といった広域的、長期的地域振興も求められるという変化も起きている。

加えて地方分権が進むにつれ予想される、原子力発電所立地の困難化への対応として、電源地域の広域的な振興策を充実させる「国家施策としての特別の立法措置」の必要性や、さらには電力自由化にともなう経費圧縮から生じる、原子力発電所立地に関する不安、不信感の増大への対応なども求められている。

長期にわたり電力の安定供給を進めるには、これらを十分配慮した上での消費地・供給地が共存できる道を探ることが必要であり、そのためには情報交換、交流、相互信頼、相互扶助の精神の涵養が不可欠だ。

パネル討論

森嶌議長 電力消費が伸びている現在、大都市圏の原子力依存度は非常に高くなっている。しかし世論調査の結果では、都市部に住む方々の過半数が「どこから電気が来ているのかを知らない」と答えているばかりか、原子力施設のイメージや安全性に対する認識などに関して、立地地域との差は相変わらず大きいのが現状だ。また一方で、立地地域住民のほとんどの方が「消費地域との交流が有用だ」とする結果も出ている。

立地地域と消費地の問題について、どのように捉え、どうずれば良いのかを、それぞれの立場から議論していただきたい。

パネリストの意見から

西川氏 「生産地」とか「消費地」といった矮小化をしないで、個人的に思っている事を述べたい。

原子力は (エネルギーの) 下支えとして、「これがなかったら生活出来ない」というほどに、生活の中に組み込まれているのが現状だ。にもかかわらず「やっかいな施設」と思われており、原子力にはいつも「日陰の身」で気の毒だと思う。

この事は行き着く所、「『どうせ自分の所には跳ね返って来ない』とタカをくくっているから無責任な事が言える」という、日本人の甘えの構造にたどり着くのではないだろうか。「日常生活では意識していないが、いざ壊ると怖い」。これが日本人の原子力発電所に対する意識のように思われる。

松田氏 生活系ゴミ処理問題に関わった経験から、原子力発電も、その後に出てくる廃棄物も、正しく情報が伝われば、きちんと考えてくれる市民は大勢出てくるものと考える。

これまで「消費地」の住民は「生産地」の痛みを知らないとマスコミに言われて来たが、このような括り方をされると、市民はかえって萎縮してしまい、何も出来なくなる。これからはそういった括りをはずし、共に顔の見える環境の中で語り合って行きたいと思う。

そのためには原子力関係者は、市民に全ての情報を開示し、共に語り合いながら、気長により良い結論に導くよう努めていくべきだ。そのことが、日本のエネルギー政策を国民と共有していく基軸につながる。

岩木氏 昨年5月に誕生した「さいたま市」では、市民生活の基本目標のひとつに「環境共生都市の形成」を掲げ、その実現のため、様々な施策を実施している。

さらに環境学習にも注力して行く方針だが、電力消費地としてまず考え行っていかねばならないことは「省エネルギーの実践」に尽きるものと思うので、今後一層努力して参りたい。

濱田氏 実際に原子力発電所を見たことのある人と、見たことのない人との間の原子力発電所に対する認識の差は大きい。このことから、「極力実際の施設を見てもらおう」ということで、100万人に見てもらうキャンペーンを昨年10月にスタートさせた。キャンペーンは米国同時多発テロの影響で大々的に進められなくなってしまったものの、スタートさせた昨年10月から今年3月までの間で、前年同期の約2倍にあたる約40万人の方に見学していただくことが出来た。

理解促進活動が着実に前進しているかと言えばまだまだだが、大切な「原子力」のために、着実に進めて行きたい。

意見交換

西川氏 「生産地」と「消費地」という考え方は一見必要な事に思えるが、個人的には「本当にそうだろうか?」と、最近は思うようになった。そういった捉え方をすると「2つの対立構造」という構図が出てきてしまうし、(問題をエネルギーに限定しなければ) お互いに「生産地」「消費地」という部分もあるからだ。「生産地に対する理解」と大上段に振りかぶるのではなく、社会勉強の一環として原子力発電所を見ていただくというのも、ひとつの考え方ではないだろうか。

電力自由化については、「電力会社がそのうち原子力を厄介者にしないか」ということが、少し心配だ。そういった状況になると、原子力に対する集中力が落ちることになり、ひいては発電所を抱える地元の安全性と、日本全体のエネルギーを賄う原子力に対する国の姿勢が緩むことになるので、自由化により、そういう状況にならないようにしてほしい。

松田氏 例えばスウェーデンの場合、廃棄物関係に限定しても、年間30万人が施設見学を行っている。(原子力発電所見学者の話が先程あったが) この割合を日本にあてはめるならば、年間に約750万人の見学者があることに相当するのだから、まだ原子力関係者の考えは甘いと思うし、これで「理解がない」と言っていてはいけないのではないか。

原子力を推進して行くならば、「現場を見てくれ」ということに、もっとコストをかけなくてはいけない。

岩木氏 「原子力発電所で働く人々の大変さ」が伝わって来ない。そういった事を伝えることにより、電気の大切さを消費者に感じてもらった方が良いのではないか。


パネル討論のメンバー
議長=森嶌昭夫・地球環境戦略研究機関理事長▽下平尾勲・福島大学教授▽岩木浩・さいたま市助役▽西川正純・柏崎市長▽濱田隆一・電気事業連合会専務理事▽松田美夜子・生活環境評論家

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