[原子力産業新聞] 2002年5月9日 第2135号 <4面>

[セッション4] 新しい社会経済環境下における原子力発電の貢献

「新しい社会経済環境下における原子力発電の貢献」と題したセッション4では、科学ジャーナリストの中村政雄氏を議長に、6名のパネリストが討論。近年、電気事業を巡る社会経済環境が世界各地で大きく変化する中で、エネルギーの安定供給や地球環境保全の観点から原子力の役割が見直されつつあることから、既存原子力発電所の強い競争力が有利な資産として再確認されている米国や将来のエネルギー供給について政策レビューを実施している英国、次世代炉の導入に積極的に取り組んでいる韓国の現状を紹介しつつ、今後の電力市場と原子力の役割を展望した。

基調講演

メリフィールド氏

米国では、原子力をとりまく社会経済環境が大きく変化している。規制緩和は原子力産業界で(1)運転認可の移転を要する企業の合併・吸収(2)原子炉の出力増強申請(3)米国原子力規制委員会(NRC)の許認可手続きが効率的・効果的に行われるという保証の要請−などの活動を誘発した。過去には原子力の競争力と安全性は相いれないと言われてきたが、私は「安全な操業は原子力施設の経済価値を維持するための基本だ」と結論しておきたい。

規制緩和によって産業界ではリストラの動きが活発になった。大きな例としてはユニコム社とPECO社の合併により10サイトに17基という米国最大の原子力設備を持つエクセロン社が誕生したことが挙げられる。

米国ではまた、新規の原子炉建設がない代わりに低コストな設備容量拡大策として既存原子炉の出力増強が数多く申請されている。現在までで74基の原子炉で合計347万キロワット分の出力が増強された。今後数年間で800万から1200万キロワット分の出力が増強されると言う見方もある。NRCとしてはこうした傾向に対処するため、予測可能で透明性があり、リスクも伝える規制方法として原子炉監視プロセス(ROP)を開発している。

また通常40年の運転認可を20年延長する申請も加速されてきており、産業界で原子炉の経済的価値が高まっていることが明確に表われている。NRCでは2005年の4月までにさらに16件の申請があると見込んでいる。

崔氏 韓国では原子力の競争力を高めるために信頼性と安全性の改善とともに国産化という努力を進めている。将来の方向性としては新規炉の建設を続けていく方針で、現在、韓国標準型炉(KSNP)の改良と140万キロワットの次世代型炉であるAPR1400の開発が進んでいる。

現在の長期開発計画では、原子力設備は2010年に2,252万9,000キロワットで全体のシェアは約30%に、2015年でこの数字は2,605万キロワット、33%にする予定。新古里3、4号機以降にはAPR1400を導入する計画だ。APR1400プロジェクトは92年に始動しており、完全にデジタル化したマンマシン・インターフェース、受動的な安全機能、モジュール化などの新工法を取り入れて、信頼性と安全性の向上を図っている。

信頼性を高めることは規制上の要件を満たすことにもつながっており、原子力の経済性と安全性は両立すると実証していきたい。他電源に対する競争力を高めるため、O&Mコストや燃料コストの低減などあらゆる方法で努力をしているが、一番のネックは設備投資費。APR1400については国際競争入札でコストの低減を図る考えだ。

クリッチ氏 1週間前に当社はペブルペッド・モジュール型炉(PBMR)の共同開発事業体からの撤退を表明したが、これは原子炉開発が当社の基本事業である発電/売電にそぐわなかったというだけの理由であり、PBMRが将来有望な技術だとの認識に変わりはない。

米国のエネルギー計画では今後20年間に新規発電施設が1,200必要とされているが、現在の米国の発電設備容量は7億キロワットの水準にとどまっており、最新の調べではこの間の需要増加に合わせて新たに4億キロワットの発電設備が必要との結果が出ている。これらはまず石炭やLNG火力で賄われると考えられ、最終的に消費者の電力価格高騰に繋がることになろう。

環境に与える影響の低さから言っても原子力は適切な選択肢の一つであり、12万キロワットのPBMRは特にキロワットあたりの建設費も1,200ドルと廉価で、モジュール型設計として最適と考えている。PBMRの利点はまた、固有の安全性のほかに少数の運転員で操業可能なこと、運転しながら燃料交換でき、建設期間も短くて済むなど合理的な投資対象と言えよう。

ブロスナン氏 90年に国内の発/送電をすべて統括していた中央電力庁(CEGB)が民営化されたが、この時原子力は国営のまま残った。これを機に電力市場は「プール制」となり、どのような発電方法を取っても一旦市場にプールされた電力は30分ごとに単一の価格で取り引きされるようになった。原子力は負荷追従運転が難しいので買い取り価格がゼロでも発電し続けなければならない場合もあった。また、この制度では競争原理が働かず、価格の設定方法も複雑かつ不透明、需要への対応も柔軟性に欠けるという欠点があった。

このような点を是正するため規制当局が2001年3月から導入したのが現在の「新電力取引き制度(NETA)」だ。このシステムにはバランシンダーメカニズムと呼ばれる機能が組み込まれており、発電会社としては出力の予測やモの予測に応じた契約販売ができる一方、独自の契約取り引きにもとづいて発電所を操業することができる。

今後の課題となるのは、政府が優先する政策との矛盾で、例えば環境防護のために電力価格の引き上げや汚染税の徴収を検討するか、エネ市場の競争原理のために規制緩和を進めるか、あるいは安定供給確保のために規制強化するのかなどの問題がある。

フィチ氏 米国で稼働中の原子炉103基だけで見ても、発電コストが年々1セント/キロワット時に近づいて低下していくなど競争力は高いほか、燃料コストも非常に安く、長期的な予測が可能だ。こうした実績の上位10位までを定量化してみると原子力の経済価値は、既存の40年の運転認可期間だけで500億ドル。認可を20年更新した後ではさらに200億ドルと見積もられるとともに、各原子炉の出力を5%増強すれば追加で100億ドル。これらを合計した原子力の潜在的な経済価値はキロワットあたり820ドルにのぼると考えられる。また、原子力の利用によって抑制できる温室効果ガスの排出量はCO2だけで年間6億トンに達する計算だ。

さらにWH社としては、新しい軽水炉設計を開発中で、受動的な安全システムを備え、モジュラー建設が可能なAPlO00では、O&Mコストと燃料コストを含めた生産コストがキロワット時あたり0.9セントになる見込み。当社はまた、BNFLとともにPBMR開発計画にも参加しているほか、IRIS炉の概念設計開発も支援している。

十市氏 日本のエネルギー政策の目標は現在、「3つのE」を調和させることにある。京都議定書に示された目標値の達成には今後十年の間にさらなる努力が必要で、国は2010年までに新たに10〜13基の原子炉建設が必要と予測。原子力のコスト面での競争力をいかに高めていくかが課題となる。

原子力は初期投資額が大きい上にリードタイムも長いなど技術や政治経済的な側面で不確実性が伴い、投資した費用を短期的に回収する保証がなくなってきた。また、使用済み燃料の処分や再処理経費などコスト上の不確実性は民間セクターでは背負いきれず、国の支援が是非とも必要。この意味で現在求められていることは原子力開発における官民の役割を明確にし、原子炉の安全を確保しつつ投資した経費の回収が可能になるよう国は必要な条件整備を行い、民間は競争力強化のために一層の技術開発とコスト削減努力をすることだ。

パネル討論では、2020年時点での原子力開発についてパネリスト達の予測が披露された。米国に関しては、基数は横ばいだが出力増強によリ発電電力量は増えるとの見方が出る一方、欧州については不透明。韓国やインドを中心にアジアで新規炉の建設が活発になるとの予想が大勢を占めた。ただし新型原子炉設計の可能性も含めてメリフィールド氏は「こうした見方は世界の原子炉が安全に稼働することが前提条件で、一度事故が起きれば成り立たない」と念押しした。

また、PBMR開発からの撤退を決めたエクセロン社の真意を問われたクリッチ氏が、回答を規制当局であるメリフィールド氏に振る場面もあったが、同氏は「NROの行動は何も影響していないはず」と答えるに留まった。

パネル討論のメンバー

議長=中村政雄・科学ジャーナリスト▽J・メリフィールド・米原子力規制委員会委員▽崔洋祐・韓国水力原子力発電会社社長▽R・クリッチ・エクセロン社副社長▽S・ブロスナン・マグノツクス・エレクトリック社取締役▽J・フィチ・ウエスチングハウス社上級副社長▽十市勉・日本エネルギー経済研究所常務理事


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