[原子力産業新聞] 2002年6月6日 第2139号 <2面>

[原研] エネ回収線型加速器を開発

日本原子力研究所は5月28日、自由電子レーザーと呼ばれる光を発振した後の電子ビームエネルギーを損失なく回収して、次々と後続の電子ビーム加速に利用することが可能な超伝導線型加速器の開発に成功したと発表した。

原研は、すでに1988年に自由電子レーザー光の発振に超伝導線型加速器を用いて、電子を加速するために投入される高周波電力を100%ビームに変換することに成功していた。しかし、ビームエネルギーの99.5%は光に変換されずに熱や放射線となってしまう。光変換の高効率化と放射線の発生防止のためには、いかにこの未利用エネルギーを回収するかが課題とされていた。課題解決のためには、冷凍装置の極低温での不安定性や高周波反射損失、不揃いなビーム周回時間などの技術的問題が指摘されていた。

今回原研では、米国で提案されたエネルギー回収線型加速器の考え方をもとに、工業的利用が容易なより高温の液体ヘリウム温度で動作する超伝趣加速器の適用や、高周波電力の損失の低減、独自の小型周回輸送装置の開発−などに成功し、エネルギー回収超伝導線型加速器の実用化を達成した。

新たに開発したエネルギー回収線型加速器は、@高周波から電子ビーム、あるいはその逆の電力変換効率は損失なく完全に変換され、光変換効率は十数%から数十%以上が可能と考えられるA冷凍機の電力を差し引いても、ビーム電力を回収できるので運転コストは低い−ことか特長だ。

使用する高周波部品、高周波電源類は、高価で故障しやすい大型大電力真空管ではなく、安価で無故障の超小型弱電力トランジスタを使用するため、高周波電源は極めて超寿命で安価なものとなるほか、中性子等の放射線発生がほとんどない。放射線遮蔽のための壁や建家が不要で、通常の建物内の自己遮蔽により設置運転が可能になる。放射線発生装置の許認可が不要なため放射線障害防止法の規制を受けず、可搬装置としてトレーラー等で自由に移動、設置して利用できるなどの利点がある。

これにより、高密度半導体素子を製造する半導体カーボンナノチューブや、シリコン同位体材料の生産などに、新型の加速器が産業利用にも大きな期待がかかるという。


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