[原子力産業新聞] 2002年 7月 4日 第2143号 <3面>

[欧州委員会] エネ供給保障で報告書

欧州委員会(EC)は6月26日、2000年11月に採択した「エネルギー供給保障戦略のためのグリーンペーパー」に関してこれまでに加盟各国から寄せられたさまざまな議論を取りまとめ、報告書として公表した。原子力オプションについては、「選択肢の幅はできるだけ広くあるべき」との観点から、利用を希望する加盟国は維持することができるとしている。

グリーンペーパーは欧州連合(EU)域内のエネルギー供給保障に関する政策原案。採択されて以降今年の2月15日までの間、ECの多くの機関で議論の場を持ったほか、加盟各国政府や地方自治体、関連する産業およびそれらの技術協会や取引き団体、NGO、関連組合、大学、研究グループなどの協力のもと、300以上もの会合やワークショップを開僕するとともに、2万部のコピー、10万部のパンフレットを配付。インターネットの当該サイトには1日に約1000件のアクセスがあったとしている。

これらを通じて得られた議論を集約した結果、同報告書はまず、米国では昨年5月にエネルギーの供給拡大で需要増に対処する計画を打ち出したのに対し、ECのグリーンペーパーが提示したのは需要管理に基づく戦略。欧州ではこのように供給部門で改善の余地は少なく、需要の管理・調整に焦点を充てるのが適当との認識を表明している。特にバルセロナで開催された欧州議会の結論にも示されたように、2010年までにエネルギー効率の改善やエネルギー税の早急な導入、また、それらに対する明確な政治的支援などの必要性を強調した。

また、このような議論の終結を待つまでもなく、ECはすでにこの方向で実際の法整備を含めた提案を打ち出していると報告書は指摘。具体的には再生可能エネによる発電シェアの拡大や省エネ対策のためのEC指令を提案したこと、これらを実施に移すための数値目標を提示したことなどを明らかにしている。

原子力について報告書は、「この議論において不可分の要素」と強調。グリーンペーパーのお陰で、EU内でも見解の分れる原子力に関して率直かつオープンな意見交換が実現できたほか、同ぺーパーも指摘したように地球温暖化に対する懸念がエネルギー供給上の制約について人々の認識を変えさせており、その傾向は特に、温室効果ガスの排出を抑えられる再生可能エネなどとともに原子力発電において顕著だったとしている。報告君は、原子力が抑制するCO排出量は3億トン以上に及び、EU諸国の車両による排出量の約半分に相当するなど、無視することができない数値だと評価している。

また、EUのいくつかの国で採用している原子力の段階的廃止あるいはモラトリアム政策については、京都議定書に示された排出目標期限である2012年以降の状況がハッキリしないため直接的な影響は少ないと報告書は指摘。しかしながら、原子力設備のすべてを廃止することは長期的に見て、現在の供給電力の35%を何らかの方法で代替しなければならないことを意味しているとし、結果的に加盟国それぞれの政権に対する偏見なしにできるだけ広い範囲で名田の利用選択肢は残しておかなければならないとの見方を示している。

報告書はさらに、「原子力の将来は放射性廃棄物の処理と輸送問題で明確かつ決定的な解決方法を見つけられるか否かにかかっている」と指摘しており、EUが原子力の安全と廃棄物管理分野でさらなる研究の実施を確約しているほか、国家レベルで効率的な貯蔵システムを導入できるよう、正確な目標日程を定めた廃棄物管理問題の解決策開発にEUも貢献していく考えであることを明らかにした。

安全確保問題については特に、共通の安全基準/慣行の策定や欧州共通管理メカニズム、相互評価の導入など、ECが真に共同体としてのアプローチ採用に向けて提案していく時期がきていると言明。EUとしても拡大EU交渉において、合理的な経費で改造できない旧型炉を操業している加盟候補国には早期閉鎖の日程を明確に示させるなど厳しい方針を維持していく考えだと指摘している。


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