[原子力産業新聞] 2002年8月22日 第2149号 <4面>

[原産] 原産人材問題小委、米国の原発保守体制を調査

原産は平成12年、今後の原子力開発を円滑に進めていく上で必要な諸基盤を再点検し、強化充実をはかるため、基盤強化委員会(委員長=荒木浩・東京電力会長)を設置し、特に早急に対応が必要な原子力における人材開発・確保に関しては人材問題小委員会(委員長=鷲見禎彦・日本原子力発電社長)を設けて、原子力産業の人材確保方策を検討してきた。同小委員会は、主要課題である原子力発電所におけるメインテナンス体制のあり方について、この分野で顕著な実績をあげている米国の状況を調査するため、電力、メーカ、工事会社からなる調査団(団長=岡田賢司・関西電力原子力企画部長)を4月に派遣した。今号では調査団に加わった高橋祐治・前電気事業連合会原子力部副部長に調査の概要、感想などを執筆願った。

調査は、米国の原子力産業の最新の状況等も踏まえて、(1)メインテナンスに係わる人材確保について、(2)メインテナンスの技術基盤確保の観点から継承しておくべき技術について、(3)米国における最近のメインテナンスの効率化に関する動きについて、(4)米国産業界全体の取り組み、役割分担について‐‐の4点について、調査、意見交換した。

特に、電力会社のメンバーだけでなく、メーカや工事会社のメンバーからなる日本の調査団が一同に集まり米国の状況に触れることができた。また、米国側も人材問題は共通との認識であることから、訪問先では、多くの資料の提供をいただき、有意義で活発な意見交換ができた。今後の我が国の人材確保や技術の継承のあり方を検討していく上で意義の多い調査だった。

【訪問先】

ウルフ・クリーク原子力発電所

米国のほぼ中央、カンサス州バーリントンにあり、1985年9月に営業運転を開始したウエスチングハウス製4ループPWR(118万キロワット)1基をウルフ・クリーク原子力運営会社(WCNOC)が運営・運転している。従業員は約1000人。技術者の育成・人材確保の問題や、最近の原子力発電所間におけるメインテナンス要員の相互融通(アライアンス)の現状など意見交換を実施した。

デューク・エナジー本社

ノースカロイナ州及びサウスカロイナ州に電力を供給している。本社はカトーバ原子力発電所(121万キロワットPWR2基)、マクガイヤー原子力発電所(123万キロワットPWR2基)、オコニー原子力発電所(89万キロワットPWR3基)の7ユニットを運営・運転している。3発電所と本社のメインテナンス部門の責任者と、メインテナンスの実態や、今後の人材の確保、3発電所間での人材の活用等について意見交換した。本社は米国東部のノースカロライナ州シャーロット。

米電力研究所・原子力メインテナンスセンター(EPRI NMAC)

EPRIが主体となり、メインテナンスに関して、発電コストの低減と機器の信頼性向上を目的に1988年に設置されたセンター。最近の研究動向や、産業界での経験の共有方策について意見交換した。同センター所在地はノースカロライナ州シャーロット。

米原子力エネルギー協会(NEI)

原子力産業界の原子力エネルギーや技術に関する方向性等を取りまとめるため、原子力関連4団体が合併して1994年に設置された組織。260社以上の会員会社からなる。 本社はワシントンにあり、事務局は約120人。今回の訪問では、NEIのメンバーに加え、コンサルタント会社(NAVIGANT)や、米エネルギー省(DOE)の担当者とも意見交換を行った。

産学で人材育成に協力

メインテナンスに係わる人材確保

技術者の高齢化の問題は全米共通の問題。ウルフ・クリーク、デュークエナジー傘下の3原子力発電所とも、地元のテクニカル・カレッジなどと協力し、発電所での実習を含めた原子力講座を設けるなど、人材養成に向けた産学の動きがある。

特に、デュークエナジーでは、発電所の平均年齢が40歳台後半であり、今後5年間に66%の熟練作業員が退職対象となるなど(右下グラフ)、今後の熟練作業者不足を見込み、本社に半年間のトレーニングコースを設けるなど教育に力を入れている。

DOEは教育省とも連携して、大学教育等に種々の制度を提供している。具体的には、奨学金、国際留学制度、産業界と連携した夏季講座、中学・高校の科学の先生に対するワークショップなどを行っている。

大幅な減少傾向を示していた原子力工学科の学生数は上昇に転じている。これは、原子力発電の競争力が上がり、原子力産業が魅力のある産業になりつつあること、また将来の技術者不足が予測されていることとも関連がある。

メインテナンスに係わるコア技術

基本的に定期検査の作業は、電力会社の作業員がエンジニアリングし、計画部門の指示に基づいて直営で実施しているケースが多い。ただし、全てを直営にすると非効率になることから、定期検査の際のピーク時対応や、ISI(供用期間中検査)、タービン発電機等、専門的な技術を必要とする作業については、メーカ等に委託している。

電力会社の保修作業員は、ほとんどがベテランのシニア・クラフツマンになっており、各工事に幅広く対応出来るようになっている。外注の場合、技術的理由で採用する場合と安い労働力提供で採用する場合がある。

コアの技術については、メーカ等の協力がなくとも、時間はかかるが、社内の人材でもメインテナンスが可能なよう専門家を配置するように心がけている。一方、効率化の観点からメーカに数年間のメインテナンスを一括して委託するなどの動きもある。

電力会社・EPRIは出来るだけ知識やノウハウ、経験を文書化して残していくことを試みており、マニュアルに書き表せないものは無いと考えている一方、文書化できない部分もあり、マニュアルにOJT等を組み合わせていくことが必要との意見もあった。

コア技術の継承にあたっては、シニア・クラフツマンの技能・ノウハウの継承と、エンジニアリング部門の技術者の技術・経験の両方を継承していくことが重要と考えている。

米国における最近のメインテナンスの効率化への動き

米国の電力会社間のアライアンスは、1995年ころから年間作業量の平坦化、コストダウンを目的に行われている。

ウルフ・クリーク発電所では、定検時の作業員、750人〜900人のうち発電所の社員は約400人。残りの350人から500人は外注をしている。このうち約50人がアライアンスした提携先の電力の人間。

ウルフ・クリーク発電所では、発電所の仕事を見直し、ここ数年で1200人から1000人と発電所員を大幅に削減。今後も引き続き、業務の見直しを進め、要員の削減に取り組んでいく。

アライアンスカンパニーUSAは、1995年に結成され、12社の19のユニットが参加している。

USAは会員間の協力、資源の共有化、共同購入、共同開発などによりコスト削減、優秀な運転実績をあげる事を使命とした非営利の会員組織(専属のスタッフは7人)であり、これを母体に電力会社の関係者が集まり、作業員を融通することによりコスト低減が図られている。

具体的には、人材の共有化として、定期検査など多人数が必要な時に他発電所から作業員を50人〜60人の規模で貸し借りを行っている。専門の作業員を集めることから、外注に比べ効率は高くかつアライアンスを通じて作業の標準化が図られつつある。

デュークエナジー社では、各発電所に作業者を各々約200人、本社(NMS)に作業者を約450人抱えており、3原子力発電所(PWR・7基)に150人ずつ配置され、定検に合わせてそれらの作業員が出向いて作業を行う形で定期検査が行われている(このほかに各定検毎に約350人を外注)。この方式は3原子力発電所設立当初から行われてきており、3原子力発電所間の作業の標準化は同一の作業者が3サイトのメインテナンスを行うことにより進められてきた。

保修関係の所員の約20〜30%が複数の専門的な作業が可能な技能(多能工)を有している。複数の資格を持つことにより給料が上がるような体系をとり、所員のインセンティブが上がるよう工夫している。

米産業界全体の取り組み

NEIは、原子力発電所の安全性、競争力の向上を目指して全米の発電所をまとめて情報公開を行うとともに、コスト、運転実績でもベンチマーク方式による改善活動を推進している。

シンプルな契約関係

‐訪米調査の感想‐

米国の原子力産業の活性化

米国の原子力発電関係者はここ数年の改善により、原子力発電の競争力が上がった事により、自信をもち、元気が良い。

米国では電力自由化の競争環境下においても企業間の競争を越えて関係者が広く利益を共有するという考え方から、NEI、EPRI(NMAC)などを中心に、原子力事業者間の情報の共有化、人的協力、切磋琢磨等が積極的に進められており、我が国でも見習うべき点が大きい。

メインテナンスに関する日米の相違

定検の階層構造(契約関係)は明らかに日本よりシンプルである。ただし、ウルフ・クリークの全従業員は1000人、メインテナンス部隊は400人と多くの保修作業員を抱えていることから、今後も引き続き定検体制の日米比較及び、その体制が成立してきた社会背景、規制の相違、運転中の作業内容、作業量、定検中の作業量、作業内容等について情報等の入手に努める必要がある。

一方、日米での保修の状況については、厳密な比較は難しいことから、良好事例をいかに日本の仕事のやり方に取り込むか、という点からの活用が望ましい。

保修作業は、電力会社のベテランの作業員を中心に構成され、これが効率化に繋がっているが、高齢化に伴う技術継承が重要な課題と認識されている。

コア技術の伝承

コア技術の伝承については、米国も文書化(マニュアル化)やOJT、またその組み合わせを指向しているが、伝承を確実に行っていくための方策には多様な意見がある。

人材の確保について

発電所スタッフの高齢化は日本の5年先、10年先を見る思いがした。日本においても将来の人材確保についてシュミレーションをしたり、若手技術者、技能者の確保と育成について今後も検討を深めていく必要がある。

原子力発電を取り巻く環境

原子力発電の競争力の観点からみると、米国では、関係者の連携によって規制、地元との関係、雇用の問題等に対して合理的でかつ柔軟な対応がなされ、ここ数年の稼働率の大幅な改善の背景となっている印象を受ける。


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