[原子力産業新聞] 2003年1月30日 第2171号 <4面>

[判決] 「もんじゅ」判決の骨子

平成12年(行コ)第12号原子炉設置許可処分無効確認等請求控訴事件判決骨子

第1 判決主文の骨子

 1 原判決を取り消す。

 2 被控訴人が動力炉・核燃料開発事業団に対して昭和58年5月27日付けでした、高速増殖炉「もんじゅ」に係る原子炉設置許可処分は、無効であることを確認する。

第2 本件の主要な争点

 1 本件許可処分の無効要件

 2 本件許可処分の無効事由(以下の事項についての安全審査の瑕疵)

 (1)本件申請者の技術的能力

 (2)立地条件及び耐震設計

 (3)2次冷却材漏洩事故

 (4)蒸気発生器伝熱管破損事故

 (5)炉心崩壊事故

第3 判決理由の骨子

 1 本件許可処分の無効要件(主要な争点1)

原子炉設置許可処分が違法と評価されるのは、現在の科学技術水準に照らし(1)原子力安全委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議で用いられた具体的審査基準に不合理な点がある場合、あるいは(2)当該原子炉施設が具体的審査基準に適合するとした原子力安全委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落がある場合である。ところで、原子炉設置許可処分については、原子炉の潜在的危険性の重大さの故に特段の事情があるものとして、その無効要件は、違法(瑕疵)の重大性をもって足り、明白性の要件は不要と解すべきである。

そして、原子炉格納容器内に閉じ込められている放射性物質が周辺の環境に放出されるような事態の発生の防止、抑制、安全保護対策に関する事項の安全審査(安全確認)に瑕疵(不備、誤認)があり、その結果として、放射性物質の環境への放散の事態発生の具体的危険性が否定できないときは、安全審査の根幹を揺るがすものとして、原子炉設置許可処分を無効ならしめる重大な違法(瑕疵)があるというべきである。

2 本件申請者の技術的能力(主要な争点2の(1))

(略)

3 立地条件及び耐震設計(主要な争点2の(2))

(略)

4 2次冷却材漏えい事故(主要な争点2の(3))

本件原子炉施設で発生したナトリウム漏えい事故及びその後の燃焼実験の結果などによれば、本件許可申請書において選定された「2次冷却材漏えい事故」に関する本件安全審査には、床ライナの健全性(腐食の可能性)と床ライナの温度上昇(熱的影響)に関する安全評価に、看過し難い過誤、欠落がある。

本件原子炉施設の現状設備では、床ライナの腐食や温度上昇に対する対策を欠いているため、漏えいナトリウムとコンクリートの直接接触が確実に防止できる保障はない。その結果、本件原子炉の2次主冷却系のすべての冷却能力が喪失する可能性を否定できない。

そうすると、「2次冷却材漏えい事故」の評価に関する本件安全審査(安全確認)に瑕疵があることにより本件原子炉施設においては、原子炉格納容器内の放射性物質の外部環境への放出の具体的危険性を否定することができず、本件許可処分は無効というべきである。

5 蒸気発生器伝熱管破損事故(主要な争点2の(4))

本件許可申請書で選定された「蒸気発生器伝熱管破損事故」の解析においては、伝熱管破損伝播の形態はウェステージ型破損が想定され、高温ラプチャ型破損は考慮の対象とされていない。本件安全審査においても、高温ラプチャによる破損伝播の可能性は審査されていない。しかし本件原子炉施設の蒸気発生器では、高温ラプチャ発生の可能性を排除できない。そして、蒸気発生器伝熱管破損事故における破損伝播による2次漏えいを考える場合、その結果の重大性は、高温ラブチヤ型破損の方がウェステージ型破損よりも遙かに深刻である。そうすると「蒸気発生器伝熱管破損事故」についての原子力安全委員会の本件安全審査の調査審議及び判断の過程には、看過し難い過誤、欠落があったというべきである。

蒸気発生器伝熱管破損事故が発生し破損伝播が拡大すれば、ナトリウム-水反応による圧力上昇によって、水素ガス(気体)の混入した2次冷却系ナトリウムが中間熱交換器の伝熱管壁を破って1次主冷却系に流入して炉心に至る可能性があり、そうなれば、本件原子炉(高速増殖炉)の炉心中心領域ではナトリウムボイド反応度が正であるから、出力の異常な上昇と制御不能を招き、炉心崩壊を起こす恐れがある。

以上のことからすると、本件安全審査(安全確認)の瑕疵によって本件原子炉施設においては、原子炉格納容器内の放射性物質の外部環境への放出の具体的危険性を否定することができないというべきである。そうすると、本件許可処分は、この点からも無効である。

6 炉心崩壊事故(主要な争点2の(5))

原子力安全委員会は、本件安全審査において、「1次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象」における炉心損傷後の最大有効仕事量(機械的エネルギーの上限値)を約380MJとした本件申請者の解析を妥当と判断した。しかし、この判断は、同事象における起因過程での炉心損傷後の機械的エネルギーの上限値に関するもので、遷移過程における再臨界発生の機械的エネルギーの評価をも合わせて行った結果に基づくものではない。要するに、遷移過程における再臨界の際の機械的エネルギーの評価はされていないのであり、この点において、本件安全審査の評価には欠落のあることが認められる。そして、この評価の欠落は、炉心崩壊事故という重大事故の評価に直接かかわるものであるから、看過し難いものというべきである。

また、起因過程における即発臨界の際の機械的エネルギーを約380MJとする解析評価についての本件安全審査の判断も、本件申請者がした解析結果の中には380MJを超えるケースがあることを知らずになされたものである。

そして、記録から認められる本件安全審査の在り方に対する疑念、すなわち、(1)本件申請者がした各種解析につき、審査機関がその妥当性を十分に検証、検討したと認めるには疑問があること、(2)本件許可申請書には、蒸気発生器伝熱管破損事故時における中間熱交換器などの機器の健全性が損なわれない根拠、並びに設計基準事象の解析における単一故障の仮定の有無などについて看過し難い不備があるにもかかわらず、審査機関がその補正を求めた形跡は全く認められず、むしろ、本件許可申請書の記述を無批判に受け入れた疑いを払拭することができないことに照らせば、原子力安全委員会の380MJを妥当した上記判断は、規制法が期待するような科学的、専門技術的見地からの慎重な調査審議を尽くしたものと認めるには、余りにも大きな疑問がある。したがって、380MJを妥当とした原子力安全委員会の判断は、これを尊重するに足りる適正な判断と認めることはできない。

この反応度抑制機能喪失事象は、炉心崩壊事故に直接かかわる事象であり、即発臨界に達した際に発生する機械的エネルギーの評価を誤れば、即発臨界によって原子炉容器及び原子炉格納容器が破損又は破壊され、原子炉容器内の放射性物質が外部環境に放散される具体的危険性を否定できないことは明らかである。したがって、炉心損傷後の最大有効仕事量に対する本件安全審査の瑕疵は、本件許可処分を無効ならしめるものである。

7 結論

よって、本件許可処分は無効である。本件申請者がした原子炉設置変更許可 申請も、本件の結論を左右するものではない。


Copyright (C) 2002 JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM, INC. All rights Reserved.