[原子力産業新聞] 2003年2月6日 第2172号 <4面>

[文科省・分科会報告] わが国核融合研究のあり方

一面所報の通り、文部科学省の科学技術・学術分科会・基本問題特別委員会核融合研究ワーキング・グループ(WG)はこのほど、「今後の我が国の核融合研究の在り方について」と題する報告をまとめ、4日の原子力委員会に報告した。今後、ITER(国際熱核融合実験炉)計画を軸に、わが国が核融合開発研究をどう進めていくか、その重点化計画を打ち出した。今号でその概要を紹介する。

はじめに

○核融合エネルギーについては、安全性・環境適合性・資源量等の観点で優れた特性を潜在的に有しており、世界の主要国で活発な研究開発が行われてきた。我が国では、この核融合研究の重要な目標である科学的実証を目指して種々の方式による研究が大学、核融合科学研究所、日本原子力研究所等で進められ、既に多くの成果を挙げている。

○今後、長期に渡って物理と工学の統合を必要とする核融合研究を着実に進めるためには、その進行を制限する項目と課題(クリティカルパス)を定め、開発研究を進める必要がある。同時に、物理と工学の体系化とスモールサイエンス等へのスピンオフ(波及効果)が期待できる当該分野の学術研究としての重要性に鑑み、学際化の研究手法等を取り入れつつ、学術研究基盤の維持・整備と人材育成にあたらなければならない。

○WGでは、これまで長年にわたり核融合研究を支えてきた複数の実験装置を整理・統合しつつ、炉工学分野と併せて重点化・効率化するための方策を検討した。重点化にあたっては、共同利用・共同研究をさらに強化することに加え、新たな可能性を目指した研究の創生、不断の人材育成等を活性化させること等が重要であり、その方策の検討が必要となる。

1.核融合研究の重点化とグランドデザイン

○研究の重点化にあたって考慮すべき点は以下の4点に集約される。(1)ITERへの寄与の明確化と国際的競争力の強化、(2)核融合炉の可能性を広げる研究の充実、B学術的な普遍化を目指す研究の充実、C人材育成(学生教育並びに若手研究者の研鋳) の充実。

○この観点に立って当該分野の研究を迅速かつ効率的・効果的に進めるために、a既存装置の整理・統合と、新たな研究の展開を可能にする共同研究重点化装置の導入、b共同利用・共同研究と連携協力研究の促進、c新たな可能性への挑戦を目指した研究の創生に重点を置くことが必要である。

○核融合エネルギーの実現を目指す核融合研究を(1)ITERとの有機的連携を図りつつ推進すべき核融合炉を目指した開発研究、(2)学理の探求に基づく当該研究分野の学問的体系化を目指す学術研究、という2つの側面を併せ持つ総合的な研究として捉え、国の定める核融合研究開発基本計画と整合性を取りつつ展開することが必要である。

2.核融合研究計画の重点化の方策

○WGでは、新しい核融合研究路線の展開を図るため、既存の研究計画について研究者コミュニティによる核融合研究の意義・位置づけの審議を実施し、固有の装置にとらわれることなく、分野横断的な学問的評価を行った。

○既存の研究計画の評価結果を受けて、WGでは、今後10年から20年にわたる我が国の核融合研究を推進するための重点化すべき計画の策定に向けて、複数の提案について審議を行った。

○その結果、重点化すべき課題は、トカマク、炉工学、レーザー分野に絞り込まれ、これに既存の研究計画の研究評価の結果からへリカル(LHD)を加えて、4つの重点化の柱が策定された。

◇重点化のための具体的計画について

○無衝突プラズマ領域における高ベータ定常運転の研究を推進するため、国内のトカマク重点化装置を優先する必要がある。

○核融合材料試験装置(IFMIF)計画は核融合開発研究に不可欠である。したがって、その工学実証・工学設計活動(EVEDA)に速やかに着手する必要がある。そのために、国内実施体制を急いで確立する必要がある。

○高速点火方式レーザー核融合の原理実証計画第1期を開始することは、我が国の学術基盤の強化と知的財産権の確保のために必要である。

○既存のLHDについては、環状プラズマの総合的理解、ITERへの寄与、新しい閉じ込め配位研究のための装置との連携等を目標に、継続して学術研究を着実に進めることが必要である。

○JT−60とGEKKO−XUに関しては、次期計画の開始時まで運転を続け、装置建設に合わせて計画を完了させる必要がある。

○LHDについては、ITERを含む環状プラズマへの学問的寄与を明確にする所期の目的達成のために研究を継続する必要がある。

◇既存装置の整理・統合について

○JT−60、GEKKO−]U、LHD以外の装置に関しては、然るべき時期に計画を完了する。ただし、斬新な研究の展開による装置の運転延長の提案は、新たな可能性を目指した研究の候補になり得る。

○四つの重点化計画での共同利用・共同研究を活性化するとともに、独創的なアイデアによる新たな可能性への挑戦への機会を生み出せるような仕組み・研究体制の構築、そしてこれらを可能とする新たな措置が必要である。

3・共同利用・共同研究の強化の方策

○大学共同利用機関としての核融合科学研究所の在り方については、大学共同利用研究の中核的な機関として大学との強い連携・双方向性の強化等が必要であり、運営体制や研究の対象範囲等の見直しを行い、研究計画の一層の活性化を可能とする制度設計の充実を図る必要がある。

○法人化後の大学の役割については、今後の核融合研究の展開を図るためには、大学における研究の展望が的確に把握され、振興策を提示していくことの必要性が確認されている。

○日本原子力研究所及び核燃料サイクル開発機構との統合後の新法人の役割と共同研究の強化については、ITER計画、トカマク炉心プラズマ開発、炉工学開発を我が国の中核的な機関として推進し、核融合開発研究に必要な共同企画・共同研究の運用体制を早期に確立するとともに、人材育成を進めることが必要である。

○共同利用・共同研究促進については、これまで長年にわたりプラズマ研究を担ってきた多数の実験装置を整理、重点化・効率化し、トカマク、ヘリカル、レーザー、炉工学の大型装置による展開、さらには新たな可能性への挑戦を図っていく中で、双方向的共同研究の促進、連携研究の実施等を積極的に進め共同利用・共同研究の推進が極めて重要である。

4・重点化後の人材育成の在り方

○重点化後の人材育成においては、共同利用・共同研究の効率的な活用を踏まえ、研究及び教育が最適化されるような適正な競争的環境の設定、研究及び研究者の積極的な交流・流動化を可能とする組織・制度設計が必要となる。

○人材育成においては、多様かつ魅力ある研究の機会を若い優秀な研究者に提供することが重要である。

5・まとめ

○本報告書では、今後の我が国の核融合研究についてのグランドデザインを定めるとともに、これまで長期にわたり核融合研究を担ってきた多数の実験装置を整理し重点化・効率化を図ること、共同利用・共同研究を強化推進することを提言し、併せて新たな可能性を目指した研究、不断の人材育成等を可能とする方策が必要なことを述べている。

○今後重点化すべき課題を、トカマク(トカマク国内重点化装置計画)、炉工学(核融合材料試験装置計画)、レーザー(レーザー高速点火計画)の3つに絞り込み、これに既存のへリカル(LHD)を加えて4つの重点化の柱を策定した。

○これら研究計画の中核となる国内装置(JT−60及びそれに続くトカマク国内重点化装置、LHD、GEKKO−]U及びそれに続くレーザー高速点火装置)を共同研究重点化装置として位置づけ、国際協力による炉工学分野の核融合材料試験装置(IFMIF)と併せて、共同利用・共同研究を積極的に促進することを提案する。

○重点化の柱となる共同研究重点化装置以外の既存装置については、然るべき時期に計画を完了することが必要になる一と判断した。ただし、斬新な研究への展開による装置の運転延長の提案は、新たな可能性を目指した研究の候補として、次の展開につながり得るものである。

○我が国の学術研究の振興のためには、研究者が新たな可能性を目指した研究の機会を得てこそ独自性の高い研究を展開し、優秀な人材を育てることのできる環境が整うものである。従って、重点化後の当該分野の研究の推進のため、研究者コミュニティへの責任を負う大学共同利用機関等の共同利用・共同研究に関わる機能を活用して、新たな可能性に挑戦できる措置の実現が是非とも必要である。

○今後も、研究者コミュニティ内の継続的な意思疎通を図り、併せて行政との接点を維持することを目的として、本WGのような審議の場が継続的に設置されることが望まれる。


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