[原子力産業新聞] 2003年3月27日 第2179号 <5面>

[原子力安全・保安院] 点検に関する考え方

 中間とりまとめでは、ひび割れの発生に対するこれまでの調査や解析を通じて明らかになってきた知見を踏まえて、各事業者に対し炉心シュラウドや原子炉再循環配管について点検範囲を拡大する等の考え方をまとめている。以下にその部分を抜粋し紹介する。

◇点検に関する考え方

@炉心シュラウド

炉心シュラウドの点検については、応力腐食割れが緩やかに進展するものであることを踏まえ、米国の検査指針(BWRVIP26)を勘案し、自主点検として十年の点検頻度で実施されている。

 a・炉心シュラウドに対する点検指示範囲の拡大

 

 2001年の福島第二原子力発電所3号機の炉心シュラウド下部リングの応力腐食割れによるひび割れの原因究明を受けて、原子力安全・保安院は、BWR事業者に対し、福島第二原子力発電所3号機下部リングと同様な機械加工を実施したリング部の溶接部及びその近傍を対象とした点検指示を出した。この点検指示を受けて実施された点検又はそれ以外の自主的な点検により、当初事業者が予定していた上部リング溶接線外側、中間部リング溶接線外側及び内側、及び下部リング溶接線外側以外に、シュラウドサポートリング溶接線や中間部胴溶接線の近傍などにひび割れが確認された。従って、炉心シュラウドのひび割れの発生状況を更に把握するため、2001年時点で予定されていた点検範囲に加え、機械加工面に対する残留応力対策を行っていないシュラウドサポートリング溶接線や中間部胴溶接線及びその近傍についても計画的な点検の対象とする必要があり、その旨の指示を行うこととする。

 また、今後点検を計画的に実施する際の点検頻度については、今回の点検結果及び2001年時点で予定された点検範囲を拡大して今後実施される点検の結果を基に、ひび割れの発生箇所等の発生状況、応力腐食割れ対策の実施状況等を勘案して、適切に設定される必要がある。

 b・ひび割れに対する点検

 ひび割れが存在するものの健全性が確認された炉心シュラウドについては、ひび割れの進展予測の結果を踏まえ、適切な頻度で点検を実施しひび割れの進展状況を把握することが必要である。なお、ひび割れが切除された場合についても、ひび割れの再発を監視するため、適切な頻度でひび割れの切除痕を点検することが必要である。

A原子炉再循環系配管

 現在、原子炉再循環系配管の供用期間中検査頻度は、全溶接箇所数の25%について10年の検査間隔内で検査プログラムに従って実施することとなっており、検査の結果、規定に適合しない欠陥又は特異な状態を検出した場合には、その検査期間中に当該箇所又は部位と材料及び使用条件が類似な部位に対して検査を拡大することが要求されている。

 今回、原子炉再循環系配管の各部において応力腐食割れによるひび割れが確認されたことから、当面、事業者において点検頻度を高めることとするが、点検頻度を設定するに当たっては、次の事項を考慮することが重要である。

 a・応力腐食割れ対策の有効性

 原因調査の結果、SUS304材の知見から開発された耐鋭敏化材であるSUS316(LC)材において、材料、応力及び環境が重畳した場合には、応力腐食割れが発生し得ると判明した。しかしながら、従来のSUS304材であっても、応力腐食割れ対策として有効である固溶化熱処理、内面肉盛工法などの応力改善策を実施しているプラントでは、現時点でもひび割れは発生していない。

 b・応力腐食割れの発生時期

 これまでの事例から応力腐食割れ発生時間をみると、SUS316(LC)の場合、運転開始後六年程度経過した以降に発生し始めていること、また、ひび割れの発生傾向から運転年数が長くなると発生割合が高くなる傾向があることから、運転開始後及び配管取替後の運転時間が5年に満たないプラントにひび割れが発生している可能性は小さい。

 C・応力腐食割れの進展速度

 これまでの知見から、応力腐食割れの進展は緩やかなものであり、疲労によるものとは異なっていることから、点検頻度を設定するに当たっては、その影響が額在化する時間的余裕を考慮することが重要である。

今般問題になっているSUS316(LC)の再循環系配管における応力腐食割れは本質的にバラツキを有する表面の材料硬化を一因とするものであり、再循環系配管の溶接継手全てに一律に発生するものでない一方、その他の条件が整えば時間の経過に伴い相当の蓋然性をもって発生すると考えられる。

 このため、標準的な残留応力分布条件下で斜角法の超音波探傷試験で十分検出可能な約2ミリメートルのひび割れが存在していたと仮定して、その後の進展を解析により予測した。その結果、技術基準に規定する強度を満足する期間は、母管で十年以上、ヘッダー管およびライザー管で約八年という結果が得られた。

 なお、実プラントでのひび割れ深さの調査状況によれば、運転期間が15年を超えるものがあるが、いずれもひび割れがあっても必要な強度は満足しており、上記の評価は妥当な範囲にあるものと考えられる。

 d・検査に伴う検査員の被ばく

 原子炉再循環系はA系、B系の2つのループがあり、標準的な110万キロワット級プラントでは約60メートル×2系統の配管で構成され、配管の溶接継手数は約60〜70程度である。

 検査作業は、溶接継手の位置や環境条件によって異なるが、標準的には溶接継手1か所あたりの超音波探傷検査には1〜2人程度の検査員が8〜10時間程度の時間をかけ点検している。

 110万キロワット級プラントの溶接継手100%を点検した場合に、検査員が受ける作業被ばく線量は300〜400人mSv程度(その内ヘッダー管及びライザー管が約四分の三を占める。)であり、通常、検査員の被ばく線量は1日あたり1mSv/日(1年間あたり20mSv/年)で管理していることから、1プラントあたり300〜400人日の作業量が必要となる。 このため、検査頻度を決めるにあたっては、検査員に対する不必要な被ばくの防止にも努めることが重要である。

 e・まとめ

以上の事項を総合的に判断すれば、今回のひび割れに対する当面の点検頻度として、運転開始時期が短いプラント又は新しい配管に取替えたプラントを除き五年間の運転期間の間に全ての容接継手(四回の定期検査において100%の点検を行うことを意味する)を点検することとすれば、ひび割れの影響が顕在化する前に対処可能であると考える。なお、点検した範囲内でひび割れが認められた場合には、点検割合を増やして点検を行うものとする。

 また、これまでに有効と考えられる応力腐食割れ対策を実施したプラントについては、従来どおりの点検頻度の考え方に従って実施することは差し支えない。


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