[原子力産業新聞] 2003年4月25日 第2183号 <4面>

[原産年次大会] 松浦安全委員長講演から 大切なのは「事故の種」を蒔かないこと

 安全確保にとってもっとも重要なのは、危険の発生の原因とか不安全の種を取り除くことだが、これが意外に難しい。まず大事なのは不安全の種をまかないということ。事故や事象などの実例をみていくと、元々その原因の種が施設等に埋め込まれていたり、運営する組織が元々不安全の種を内包していたりする。そういう例は非常に多く、その種が知らない間に芽をだしてしまって事故にいたっている。 安全委に報告されるものをみているとそう思わざるを得ないものがある。原子力は多重防護の思想で設計、建設されているので、幸いに非常に大きな事故、放射線障害が一般公衆や従事者に及ぶような事故はほとんどない。しかし、こういうことが社会的には大きくなってしまっているのが現実だ。わが国のトラブル等も元々そういう事態の起こる原因が含まれていた、あるいは事故の種がまかれていたと考えざるを得ないものがいくつかある。

 いったんまかれた種をみつけることは難しい。種がまかれるのを防止するため、最も重要なのは計画的な品質管理だ。単に通り一辺のものでなく、いろいろな状況を考えた、過去の事例を参考にするとか、将来の発生可能性がどういうところにあるかをよく考えるとか、そういう実施される全般的な品質管理というのは設計も製作も全体を視野に入れた品質管理というのが非常に重要だと思う。

 種をどう見つけるか、その認知能力をあげるにはどうすべきか。交通事故の例をみると七割が認知能力の原因との結果がある。したがった認知能力を増強することが事故の大半を防ぐことにつながるといえる。原子力の場合も、こうした認知能力の向上の重要性を認識し直して対応を進めるべきと考える。

 原子力施設の中の不安全の種を人間の五感のみで見出すことはできない。そこで種々のモニタや検査機器が開発され、適用されている。同時に施設の安全確保に人間の五感というのも非常に重要だ。最近は測定機器が発達したため頼りきってしまい、人間の五感が軽視される風潮もある。放射線の感知は人間の五感ではできないということもあるが、人間の五感は総合力において、非常に優れた面があることを認識すべきだ。

 感知能力を十分働かせて不安全の種や芽を取り除くということは、昨日と今日で何か変わっている等の状況の差を感じ取って対応することが重要だ。五感の感覚が現場で有効であることを強調しておきたい。ただ差異をはっきりするためには、作業環境、現場の環境がきちんと整理され、見出しやすい形になっていないといけない。


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