[原子力産業新聞] 2003年4月25日 第2183号 <5面>

[原産年次大会−セッション1] 社会の持続的発展−環境、エネルギー面での挑戦

 16日から福井市に会場を移し行われた原産年次大会は、セッション1で「社会の持続的発展−−環境、エネルギー面での挑戦」と題し、三菱マテリアル会長の秋元勇巳氏を議長に、社会が持続可能な発展の実現を図るうえで主要な座標軸となる地球温暖化防止とエネルギー問題を視点として4氏の講演が行われた。

エネ安全保障と環境保全 甘利明氏 自民党エネ総合政策小委委員長

 内外に象徴的な事象があるとそれに振り回されてきたのが過去のエネルギー政策だ。個別の政策がどういうつながりをもっているのか、競争原理を促す法律は安定供給とどうつながるのか等の体系がまったくできてなかった。そのため総合的な憲法というべきエネルギー政策基本法を議員立法で作った。その柱は三つあり、安定供給と地球環境と経済合理性だ。なかでも安定供給と地球環境への対応は重要で、それを満たした上で、できるだけ低コストということを考えるべきで、この考え方に従い基本計画を作った。

 安定供給や地球環境へ対応などを考えると、原子力はエネルギー基本政策上から考えても優秀なエネルギー源といえる。ただ、廃棄物問題については、課題も多いので、政府として取り組む最大課題だと考える。基本政策小委でもこの部分を大議論し、難しい課題だけ積み残すのではなく、廃棄物を含めたバックエンド対策はもっと国が前面にでて、国民の安心感を得ながらきちんと取り組んでいくことにした。今後、いろんな事象が発生する際にまず、エネルギー基本法をものさしにあてて、それに沿っていくとどういう個別政策があるかを検討していくことになる。

 日本のエネルギーの中心的な役割を担う原子力に信頼感をもってきちんと受け入れられるよう、政治もきちんと取り組んでいく。

持続的発展に果たす使命 藤洋作電事連会長

 エネルギーに限らず、天然資源を使い尽くせば、その社会が衰亡していくことは多くの歴史的な事実が物語っている。たとえば、南太平洋のイースター島では、ある研究によると資源の消耗で急速に衰亡したという。われわれの文明も今後繁栄を続けるには生活や産業を支えるエネルギー資源について、決してこれを枯渇させることのないよう最大限の努力を傾ける必要がある。人口問題や地球温暖化の問題もあって電力会社は資源制約や環境制約を克服し低廉な電力を安定供給するうえで大きな役割を果たしているのが原子力だ。原子力は燃料となるウラン調達の安定性や価格の安定性、エネルギーセキュリティ、環境負荷が少ないなど優れた特徴があり、それを活かすうえで原子燃料サイクルによりウラン資源の有効利用をはかる必要がある。ウラン燃料をリサイクルすることが基本政策となっており、軽水炉で使用済み燃料からのプルトニウムを利用するプルサーマルも進めたい。

 昨年夏に自主点検問題に端を発した一連の問題により、社会の信頼を傷つけることととなりまことに申し訳ないと思っている。信頼回復に電力業界の総力をあげて努力している。各社ともこの3月までに総点検を行い最終報告を国行った。各社の報告において、総じて深刻な問題はなかったが、誤記や記載漏れ、情報提供不足や品質保証上の改善すべき事例についてはしっかり改善していく。

環境面でも役割重要 馬鴻琳氏 中国国家原子能機構秘書長

 中国では現在、11基の原子力プラントがあり、7基が稼動中で計5400キロワットの設備容量を有している。運転状況も良好に推移している。発電電力量は2002年には3380キロワットとなっている。今後2020年には国内総生産は2倍になると見込まれている。2020年に総発電電力量は8000キロワットを超えるとみられ、4%を原子力でまかなうとすると3万キロワットの設備容量に達することになる。1000キロワットクラスで約20基の原子力発電プラントが将来必要になる。

 中国では70年代に酸性雨のような大気汚染問題が各地で深刻化したため、環境規制法等を作って、状況の改善に取り組んでいる。国際的にも中国はオゾン層保護や大気変動や生物多様化に関する国際的な公約に署名し、原子力がCDMに位置づけられるよう中国政府は支持している。原子力は資源と安全保障の面からもっとも重要な選択肢のひとつ。

 中国は原子力発電の開発によって環境保護を進める方針であり、国際敵な連携のもとで環境保護と世界の持続的な経済成長を促進するための貢献を行いたいと考えている。

 (同機構、国際協力局長の張静氏が代読)

消費者の立場から考える 井上チイ子氏 生活情報評論家

 多種多様な電化製品に囲まれ私たちの生活の快適さは増している。家庭の情報化も進み、暮らしの質を上げることへのニーズも高い。しかし日本のエネルギー自給率は20%で、原子力発電を除けば四%という資源の乏しい状況だ。私たちの生活は砂上の楼閣といえる。

 95年の阪神淡路大震災を体験した。真冬の一日、ライフラインは完全に止まった。電気や水、ガス、食糧の確保が生活の第一優先事項であり絶対条件、文字通り暮らしの生命線だと身をもって感じた。もっと重要なのはエネルギー供給源の停止だ。表層的な問題のみで語れないのがエネルギーの問題だ。関西圏では現在54%の電力供給が原子力発電だ。しかしこの現実をどれだけ日常の暮らしで認識しているだろうか。

 石油危機以来、原子力発電と石油備蓄増加で原油輸入量は減り、中東情勢で日本が振り回されない供給構造に変化していることは消費者の間であまり知られていない。一方、省エネ意識は浸透している。家庭から始まる行動の進展は生活学習や社会教育の一環で様々な学習が進んだことによる。ともすれば口あたりのいい環境問題に偏り、原子力問題が語られることが少ない。もっと専門家や業界から包括的な視野と将来的な視点による、積極的な学習の機会の提供を求めたい。エネルギー問題は国民的な課題だ。電源供給地の依存なくして都市の暮らしは成り立たない。大消費地が引き受けることのできない原子力発電立地供給地への感謝がなければ「暮らしの共生」は成り立たない。加害者、被害者の両極論や、物事を全否定することからは何も生まれない。困難な課題に対して人間の英知を結集し次世代に伝えることが重要と考える。


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