[原子力産業新聞] 2003年4月25日 第2183号 <6面>

[原産年次大会−セッション3] 着実に進む世界の高レベル廃棄物処分計画

 福井大会最終日の17日には「着実に進む世界の高レベル廃棄物処分計画」と題したセッション3で、科学ジャーナリストの中村政雄氏を議長に、最終処分計画が動き始めた日本も含め、実質的に最終処分場建設計画が進展しているフィンランドやスウェーデンなどのこれまでの軌跡を五名のパネリスト達が紹介。各国で採用されたサイト選定プロセスから学ぶべき点などを検証した。

立地問題 忍耐と努力が解決 将来の回収可能性も視野に

 仏放射性廃棄物管理庁のY・ルバルス会長は国際的観点からこれまでに得られた教訓を概説した。

 第一の教訓は@廃棄物の管理に関して担当技術者と一般市民の認識に大きな隔たりがあるということ。誤解や拒否反応を払拭するために、電力を消費する大衆自らが処分に関与していくとの意識を持たせていく必要がある。A「利害関係者信頼性フォーラム」からの教訓は、ほとんどの国で標準的な処分手順が優勢と思われる点だ。処分方法の研究開発体制や独立の監査システム、実施機関などが示された段階的な手順が大衆からの信頼構築に重要な要素。B短期・中期・長期的な安全性、地域開発の機会、透明性のある対話という基本事項の保証に重点を置くことも重要と考える。

 原子力発電環境整備機構の外門一直理事長は日本における取り組みについて全体像を披露した。

 2000年5月に処分地の選定手順や実施主体、資金の確保を定めた「最終処分法」が成立し、処分場は地下300メートルより深い安定した地層の岩盤に設置、約3兆円の総経費は原子炉設置者が20年間にわたって拠出していくことになった。経済的な波及効果としては2025年〜84年の建設・操業段階で生産誘発効果として約1.7兆円、雇用が延べ13万人、固定資産税収は約1600億円と試算。交付金は文献調査段階で年に2.1億円、概要調査段階で年に最大20億円、期間累計で70億円にのぼると見積もっている。

 フィンランドで放射性廃棄物の最終処分計画を担当するPOSIVA社のT・エイカス技術担当本部長はサイト選定までに至った同国の軌跡について説明。

 83年に使用済み燃料管理のための総合計画が策定され、99年5月にオルキルオト原発が立地するユーラヨキを政府に提案。01年5月に議会から最終的な承認を得た。同地は@敷地面積が広くA廃棄物輸送の必要性が少なくB地元住民の生活条件を変えずに済みC元々原子力に好意的D地域の将来戦略にすでに処分場計画を組み込んでいたという理由で選択。今後は2010年の建設許可申請、20年の操業許可申請を目指していくが、後に廃棄物を回収できる可能性を残しておくことも大切だ。

 スウェーデンの前オスカーシャム市長であるT・カールション氏は92年から候補地の一つである同市での経験と教訓を地元地域社会の立場から語った。

 ポイントは@処分場の安全性A地元への社会経済的影響B地元住民の合意と対策で、計画は科学的な根拠に基づかねばならない。原子力施設の立地は今でこそ「DADの原則」(決定、公表、防衛)に従って行われているが、20〜30年前までは密室で決定され、惨憺たる結果に終わっている。産業界には計画の早い時期から地元と十分話し合うよう求めていかねばならず、地域住民には積極的に計画に参加し責任を持って自らの意見を反映させる努力を促すことが重要だ。

 原子力発電環境整備機構の竹内舜哉理事は高レベル廃棄物処分場計画の担当事業者として、日本が進めている公募方式のサイト選定について説明した。

 三本柱は@技術的な知見を段階毎に評価しながら地域の理解を獲得しAその意向を尊重しつつB地域が自主的に判断できるよう、正確で広範囲に情報提供すること。サイト選定は20年以上かけて絞りこんでいく計画で、現在はその第一段階にある。計画の詳細情報を資料にまとめて提示し、昨年12月から全国3200の市町村に公募を開始。07年を目処に概要調査地区を選定する。08年〜12年までの第二段階では概要調査地区でボーリングなどを実施し精密調査地区を選定したい。23年〜27年の第三段階では地下施設で調査を行い建設地を選定するという日程だ。

 欧州原子力学会のA・リーシング副会長はスウェーデンの処分計画で学んだ経験を明らかにした。

 同国では30年前に廃棄物処理計画に着手したが、重要なのは「自らが電気を使う以上、処分場も必要」という意識を共有させること。SKBの意識調査では、国民の六割が自らの自治体に貯蔵施設を受け入れても良いと答えている。法律にも含められた廃棄物の管理に関する基本方針は、@事業者は廃棄物の処分に責任を負うA処分コストは発電所から徴収し将来用の基金も創設B自国で発生した廃棄物のみに責任を負うC基本的に再処理はせず、一時貯蔵後、監視や保守管理の無い方法で深地層処分することとなっている。


「地元参加の体制作りを」パネル討論 処分計画先進国からの助言

 パネル討論では中村議長が地元の合意という問題を解決するための秘訣を海外のパネリスト達に問いかけた。ルバルス氏は安全性に関する様々な質問にきちんと答えていけばポジティブな反応を得られる可能性も高いと指摘。エイカス氏は、「反対派は時にモラルに反するような手段で攻勢してくるが、冷静に受け止めるしか方法はない」と述べ、大学の先生など専門家が第三者の立場から自由に意見を述べてくれるような環境を作ることが重要だと指摘した。カールション氏も、とにかく時間をかけて粘り強く努力し、地元をきちんと取り込んでいける意志決定システムを作ることが肝要だと強調。市長時代、自らの時間の四分の一を市民との交流にあてた経験を踏まえ、業界や規制当局は地元と顔なじみの信頼される人物を育成することが地元の信頼醸成につながるのだと訴えた。

 

 地元との対話において好ましい仲介者像ついては、リーシング氏が「議員のように本当に一般の人々を代表する人物」との認識を表明。具体的な例としてルバルス氏が、仏国で94年にビュール市と事業者らの橋渡しをしたバタイユ議員の話を紹介した。

 中村議長はまた、反原子力の専門家でも地元の理解促進に有効となり得るかについて議論を促した。カールション氏は反対派の専門家を議論の場に呼ぶことを恐れてはならないと勧告。反原子力NGOを議論に参加させた経験から、「一般の人々はウソにだまされるほど愚かではない。一緒に議論させることによってかえって、信用すべき点をわかってもらえる」と強調。この場合の注意点としてルバルス氏が、「できるだけ複数の専門家を国内外からそろえる」よう促した。


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