[原子力産業新聞] 2003年4月25日 第2183号 <6面>

[原産年次大会−セッション4] 身近な原子力を福井県から考えてみよう

 セッション4「身近な原子力を福井県から考えてみよう」では、エネルギー政策研究所所長の神田啓治氏を議長とし、天野寿美恵(福井県女性エネの会理事)、菊池三郎氏(核燃料サイクル開発機構理事)、木村逸郎氏(原子力安全システム研究所技術システム研究所長)、中川英之氏(福井大学工学部長)、橋詰武宏氏(福井新聞論説委員長)、平尾泰男氏(放射線医学総合研究所顧問)、町田明氏(若狭湾エネルギー研究センター専務理事)の各氏が、それぞれの所属する組織を紹介、続いて、パネリスト間でのディスカッションや会場との質疑を行った。

生活と関係深い原子力技術 医療、産業など実例紹介

 まず神田議長が、原子力技術を用いたベンチャービジネス、放射線の医学利用、原子力の教育問題など、一般市民と関わりの深い分野を紹介し、今後、これらをどのように地域や社会の理解に役立てていくか意見交換したいと挨拶。「福井県から原子力を考える」との視点でのセッションであることを強調した。

 菊池氏は、サイクル機構が地域産業と連繋し、約1500件の特許を企業に提供、また、企業と1〜2年にわたり開発費の半額を負担する「実用化共同研究開発」を進めていると強調した。同研究開発の実例として、敦賀市での「へしこ」の製造装置の開発、小浜市での環境浄化用竹炭の製造などをあげた。また地元の小中学生・高校生を対象とした科学実験教室の開催(=写真左)や、地元自治体での危機管理研修、地元産業界との研究交流会の開催等を紹介した。

 次に若狭湾エネルギー研究センターの町田氏は、多目的加速器と分析機器を用いて、産業利用、医学、農林水産分野等への利用等の研究を行っており、先端分野だけでなく地域に根ざした事業を行い、地域産業への波及による産業の活性化、地域振興への貢献を重視していると述べた。

 具体的には、多目的加速器を用いて、陽子線によるガン治療の臨床研究を今年から開始、農業分野ではソバの増収のための品種改良、コシヒカリなど米の品種改良、花卉類の商品化改良等が行われており、工業分野では、福井県の主要産業の一つであるメガネフレーム用チタンの窒化等、材料の表面改質、次世代半導体の創成も研究されている。また、原子力発電所関連業務への地元企業の参加を拡大するためにも、地元企業の技術レベルの向上が重要とし、非破壊検査技術の向上・支援にも力を入れているとした。

 次に、美浜町にある原子力安全システム研究所長の木村氏が、同研究所について世界でも例の少ない原子力発電所のすぐ近くにある研究所と紹介、原子力防災の研究が原子力発電所防災訓練のシナリオ作りに生かされ、また、光ケーブルによる原子力計装システムの研究が実用化され全国の原子力発電所や加速器で採用されるなど、成果を上げていることを強調した。

 福井大学工学部長の中川氏は、14基の原子力発電所を抱える福井県の国立大学という立場から、大学院工学研究科に新たに「原子力・エネルギー安全工学専攻」の設置構想を明らかにし、大きな反響を呼んだ。同氏はエネルギー供給に占める原子力の重要性から、教育・研究で原子力を取り上げ留必要性を強調、サイクル開発機構等、外部の研究開発機関と協力して陣容を強化、若者に原子力やその周辺分野への希望を持たせたいと抱負を述べた。

 平尾氏は、放射線と人類の関わりは19世紀末のX線発見で始まり、現在ではX線断層画像や陽電子放出核断層画像(PET)が医療に導入、陽子線がん治療は21世紀のがん治療の本命に浮上、日本はこの分野で世界をリードしていると述べた。

 天野氏は平成12年4月に設立された「福井県女性エネの会」の活動を紹介、「ウイメンズ・エコ」と名付けた交流会を開催、電気の消費地・生産地の女性に加え、電力会社からも社員に参加してもらい、「人・物・心」の交流を行っていると述べた。平成12年からはエネルギーアドバイザー養成講座を開設、同講座修了生は、エネルギーに関する知識を普及させるため「紙芝居」作りに取り組み、平成14年度には百回上演を目標に活動、今年2月には社会経済生産性本部から表彰を受けたと紹介した。

 福井原産新聞論説委員長の橋詰氏は、長年原子力報道に関わってきた立場から、原子力に関する情報は公開されるようになっており、情報の受け手側の責任を考える時期に来ていると指摘いた。一方で、電力生産地と消費地の意識のギャップが開いており、生産地の住民は原子力のリスクを負担していると考える一方、大都会の住民は一般に原子力に無関心であり、電気は空気や水と同じく「ある」ものとの意識だと述べ、東電の原子力発電所全基停止と電力需給逼迫を期に、エネルギーに対する意識を国民全体のものにすることが重要だと述べた。


身近な放射線利用 粒子線治療に期待

神田 放射線は、北海道でジャガイモの芽止めに使われ、またPET等での診断、粒子線での治療、注射器等の滅菌など、広く使われている。

平尾 粒子線治療は、手術など他の治療ができないがんの治療に大きな成果を上げている。仙骨腫瘍で、どうやっても下半身麻痺が免れられないと思われていた15才の少年が、粒子線治療を受け、6年後の現在は自転車で走り回っている。また、高度の治療に見合うよう、診断も精度を進化させなければならない。

神田 治療も、延命から生活の質(QOL)を高める方向に変わりつつある。

中山 今年十月に合併する予定だが、合併のメリットとして、QOLの先端部分の専攻科創設のアイディアがある。また、福井医科大学でも、PETや放射線治療などで、従来から研究成果をあげている。

天野 若狭エネルギーセンターに大きな期待をしている。敦賀からの発信は悪いニュースが多いが、良いイメージを発信できるよう、もっとアピールする必要がある。

町田 確かにPRが上手ではないが、草の根的なPR体制を作っていきたい。粒子線治療は21世紀に非常に期待できる技術だが、今日はまだ初歩的で機器の高度化が必要だ。


Copyright (C) 2003 JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM, INC. All rights Reserved.