[原子力産業新聞] 2003年5月22日 第2186号 <2面>

[日本原子力研究所] 新薬創製に期待 研究炉使いタンパク質の構造解析

 日本原子力研究所(齋藤伸三・理事長)は9日、中性子回折によりミオグロビンなどのタンパク質に結合する水分子の配向(水和構造)の観察に成功し、生命機能発現に重要な水分子の結合や運動に幾つかのパターンがあることを世界で初めて明らかにした、と発表した。今回の成果により、分子認識研究やタンパク質の立体構造に基づいた新薬の創製が大きく進展することが期待されるという。

 水分子は生体内でタンパク質の周囲を取り巻き、タンパク質の安定な立体構造を保つ上で重要な役割を担っているばかりでなく、タンパク質の機能発現やタンパク質同士の分子認識に深く関わっている。タンパク質の立体構造の決定はX線回折やNMR(核磁気共鳴)により進んでいるが、タンパク質周囲の水分子の水素原子の位置の決定が難しく、水分子がタンパク質にどのような位置と方向(配向)で結合しているかは部分的にしか明らかにされていない。一方、中性子は水素原子核で強く散乱されるので、中性子回折にはタンパク質周囲の水分子の水素原子位置まで含めた詳細な配向が見えるという特長がある。

 原研では、研究用原子炉(JRR−3)に中性子イメージングプレートを装備した生体物質中性子回折装置を用い、新たに中性子回折データ解析手法を確立して、世界で初めて、ミオグロビン等のタンパク質の全水素原子とともに、タンパク質に結合する水分子の位置と配向を高精度で決定することに成功した。その結果、水分子がどのように結合しているかは大別して三角形、短い棒状、長い棒状、球状の四種類に分類されることを発見した。


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