[原子力産業新聞] 2003年6月5日 第2188号 <2面>

[原産] ロシア北方艦隊 原潜解体の現状 原産調査団の報告から(上)

 本紙5月15日号で既報のとおり、ロシアの退役原子力潜水艦解体における、日本の原子力産業界の協力の可能性を探るため、日本原子力産業会議は5月11〜18日、ロシアの北方艦隊関連地域とモスクワ市へ調査団(団長=植松邦彦常任相談役)を派遣した。今号から2回、調査団の事務局を勤めた原産の横山宣彦調査役に、解体の現状等を紹介してもらう。(写真はヴィクターV級攻撃型原潜)


 本年1月の日ロ首脳会談で、原子力分野では余剰プルトニウムの高速炉での燃焼とともに、ロシア原潜解体への協力促進を重点項目として取り上げることが合意された。これには、原産とロシアのクルチャトフ研究所が昨年夏以来、共同で日ロ両国政府に対する提言書をとりまとめ、それが実を結んだという面もある。

 これまでの日ロ間のこの分野での協力が、必ずしも双方が満足する形のものではなく、これを改善するには日本の産業界の最大限の協力が不可欠との認識に立ち、原産として、まず現状調査のためミッションを派遣することとした次第である。北方艦隊関係では、極東艦隊より比較的作業が進展しており、これを視察することにより、極東の問題点を浮き彫りにすることができるとの考えもあった。

 調査団には、三菱重工、原電事業、日揮、神戸製鋼の四社が参加、ロシア側はクルチャトフ研究所が受け入れ機関となった。

 現在までにロシアでは、192隻の原子力潜水艦を退役させたが、解体が終了したのは89隻。110隻が今後解体を必要とし、うち81隻は燃料が残されたままとなっている。また、これまで解体されてきたのは、米国の相互脅威削減プログラム(CTR)による戦略潜水艦であり、船齢が比較的新しく技術的には問題が少なかった。

 今後解体の中心となるのは、いわゆる多目的(攻撃型)原潜で、古い世代のものも多く、事故を起こしている極東艦隊所属の3隻を除いても、浮力喪失、燃料変形などの問題を抱える。日本の協力が期待されるのは、極東に多く存在するこれらの多目的潜水艦であり、日本にとっても、日本海、太平洋の潜在的な放射線汚染を防ぐという面からも、大きな意味を持つ。

 アルハンゲルスク州セベロドビンスクにあるズビョーズドチカ工場を、3日間にわたり視察したが、同工場はもともと海軍艦艇の修理を目的として設立、80年代からは原潜の解体も行うようになった。

 セベロドビンスクは、モスクワ北方1200キロメートルに位置する。ちょうど450年前の1553年8月、インド、中国への航路開発を目指していたイギリス船がこの地に漂着、英露間の通商が開始されるきっかけとなった、歴史的にも意義を持つ街である。その後、時のロシア皇帝イワン雷帝が、即位したエリザベス一世に恋文を送ったという逸話も。北緯65度、夏至はまだだが白夜に近く、11時頃の白海への日没は、大変印象的な瞬間だった。


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