[原子力産業新聞] 2003年6月5日 第2188号 <4面>

[原子力安全・保安部会] 安全文化の検討会、企業倫理など議論

 原子力安全・保安部会の原子力安全文化の在り方に関する検討会は5月23日、立教大学の田中宏司教授から「企業不祥事から何を学ぶか」について、また武蔵野赤十字病院の三宅祥三院長から「医療安全を進める組織体制」について、それぞれ話しを聞いて、質疑を行った。

 田中氏は、これまで雪印食品をはじめ企業倫理体制の構築に多く携わった経験をもとに、組織の閉鎖性などによる緊急時の経営陣に対するマイナス情報の伝達の遅れや、それによる経営陣の対応の遅れが危機を増大させている状況を指摘。消費者の信頼、社会の信頼をキーワードに誠実で真摯な対応が不可欠であることを強調した。具体的には、不祥事等の際に経営トップがメッセージを社内外に向かって宣言すること、また行動基準(倫理綱領)の策定と周知徹底、さらに企業倫理やコンプライアンス実践のための組織体制の構築とその状況をモニタリングする体制整備を行う必要があるとした。

 また三宅氏は、武蔵野赤十字病院で平成7年から始めている組織改革の状況について述べ、病院管理者のリーダーシップ、医療安全や医療の質の改善に取り組むコアスタッフの養成、医療安全を推進する独立部門としての医療安全推進室の設置、そのサポート体制など、組織として医療の安全や質向上をはかるうえで重要なポイントと、これあまでの取り組みについて述べた。同氏はまた、医師や看護師教育の重要性を述べる中で、医師の教育については、望ましい医療人像をきちんと明示した教育を心がけていること等を説明する一方、こうした改革を進める上で、現実には人や物、資金という面できびしい状況があることも述べた。

 この後の質疑で、委員から原子力のように一企業だけでなく国等も関与する場合の対応についての質問に答えた田中氏は、基本的に個人の倫理が前提となり、その上に組織倫理、社会規範が上乗せされる三面複合体であると分析。そのうえで原子力関係者がまじめに技術者倫理ということに深く入りすぎているために、社会規範に目が届かず会社等が何のためにあるのか見失うという面もあることを指摘。行動倫理基準の構築が必要との見解を示した。

 検討会は、これまで各界からの安全文化に関する講演と質疑を踏まえて、来月11日に開催する次回会合から委員相互の意見交換を行う予定。


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