[原子力産業新聞] 2003年6月19日 第2190号 <2面>

[インタビュー] 新原子力安全委員東邦夫氏に聞く

 原子力発電所における自主点検記録の不正の問題、高速増殖原型炉もんじゅ行政裁判など原子力をめぐる多くの問題が山積するなかで、原子力安全確保の要となる原子力安全委員に就任した。

 「非常に重要なこの時期に、重責を果たしたい」と身を引き締める。

 再処理施設や使用済み燃料の中間貯蔵、さらには廃棄物等と、一連の核燃料サイクル分野の安全規制は今後の重要課題。原子力化学工学の専門家としての経験と手腕に期待がかかる。

 「再処理により回収されたプルトニウムが入ってくると、わが国の核燃料サイクルがかなり質的に違ってくる。原子力がもっている優れた特長を活かす意味で、ワンランクアップするとも言える。それとともに、商業用MOX燃料加工の課題や核不拡散への配慮等も重要であり、いま一番がんばらなければならない時だ。自分の経験が役に立てばと思う」と話す。

 京都大学でウラン濃縮等の分野において研究の第一線に立つ一方で、安全委員会の核燃料安全専門審査会長をつとめるなど、安全審査指針や関連の基準策定にも豊富な経験を持つ。1999年9月末にJCO東海事業所で発生した臨界事故の際には、安全委員会の事故調査委員会で委員長代理として原因究明と対策のとりまとめに奔走した。

 安全委員会は、さまざまな事故や不祥事も踏まえ、原子力関係者に対する安全文化の醸成に積極的に取り組んでいる。

 「現場のなかで安全優先が身につき、それが習慣化していくことが、ひとつの文化なのだと思う。今朝、たまたま、安全に対して真摯に取り組んでいる原子力関係企業数社から印象深い事例を聞かせていただいた。そんな現場で安全文化の実地を見せてもらいながら、むしろ私が勉強させていただきたい」と謙虚に語る。

 同委はまた、国民にわかりやすく説明する姿勢を明確にして、地方開催なども展開してきている。

 「安全委員会に対して人々は、原子力のいろんな場面で安全や危険について判断を下し、分かり易い言葉で自分たちに語って欲しいと云う期待をもって下さっているように思う。可能な範囲で、それに応えようとするのも、今や大切な任務の一つだろう」とする。

 今後、リスク情報に基づく安全規制へと高度化をはかることも、同委が取組む長期的な課題だ。

 「リスクは、起こった時の被害の大きさと共に、その起こり難さも同時に考えるものであり、今後取り入れていくべき規制の方向だ。また、確率論的安全評価手法(PSA)は、原子炉の何千(炉・年)もの経験や実績を背景にして、シビアアクシデントの起因事象についてなど、有益な結果を導き出しており、これを活用していくことも重要」と展望する。同時に「核燃料サイクル施設、たとえば六ヶ所村の再処理施設は一つしかなく、操業もこれからであり、PSAの様な手法の導入が威力を発揮し説得力を持つ迄には、まだ少し時間が必要だろう。高レベル放射性廃棄物の地層処分の超長期に亘る安全性を議論する上では、この種の手法も有効と考えられる」と今後の課題に目配り。

 趣味はテニス。委員就任前は月2、3回通っていた。球は遅くて、しつこくつなぐテニスなので、「仲間達からは『主婦の友』と言われていますよ」と笑う。ゴルフも「月1回くらい」。

 座右の銘は「損して得とれ」。我欲を抑えて何事にも控えめに身を処することが長い目で見れば良い結果につながるという意味で、「日ごろから心がけている」と明かす。


東邦夫(ひがし・くにお)氏 1961年京都大学工学部化学機械学科卒、67年工学博士(京大)、86年京大工学部教授、96年京大原子エネルギー研所長、同エネルギー理工学研所長、01年舞鶴工業高等専門学校校長。64歳。


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