[原子力産業新聞] 2003年6月19日 第2190号 <4面>

[電力中央研究所] 意識・組織に着目し安全診断システム開発

 1999年9月に発生したJCO東海事業所での臨界事故を契機に、組織における安全文化醸成の重要性が強く認識されることとなったが、その後も食品業界等で不祥事が相次ぎ、原子力分野においても東京電力の一連の不正問題など設備の安全管理に加え、組織の要因に着目した安全管理の重要性が高まっている。電力中央研究所のヒューマンファクター研究所は、五年前からアンケート調査等を通じて意識面・組織面からみた安全診断システムの構築を進めており、診断基準の再現性等、基本的な診断手法の成立性にメドを得ている。

 同研究所では、電力会社や建設、化学など様々な分野の技術系企業を対象にアンケート調査を実施し、従業員参加型の安全活動、上下左右のコミュニケーション、経営層のコミットメント、安全性向上に対するモチベーションの重要性などを明らかにしてきた。その知見をもとに、組織要因、(安全)管理、意識・行動までを評価するシステムの構築を進めてきている。

 これまで調査で得られたデータをもとに個人の安全意識や行動、職場の安全管理、職場の組織風土などを20の分類にまとめ、同一業種の平均値の算出など、診断に必要な基本的なシステムを構築している。個別企業の診断はアンケート調査の結果を、同一業界の平均値と比較して行い、企業(あるいは工場)の安全に対する姿勢や、組織としての意志疎通の度合いといった長所や短所を明確にする。その特徴の分析に基づく安全診断を行うもの。現在、アンケート調査等のデータ蓄積とともに、診断に基づくガイダンス内容の具体化にむけ検討を進めている。

 

 最近の研究で、今年3月から4月にかけて、42の企業(91の工場)に対して、123の項目に及ぶアンケート調査を実施した結果に基づき、適正な安全診断には、ほぼ同じ業務を行っている組織間での比較を行う必要があること。また同じ業務内容であっても、リスクに接する頻度によって安全に対する意識等に違いが見られたことから、安全診断を適正に行う際には、類似したリスクを有するだけではなく、そのリスクに接する頻度も考慮すべきとの知見を得たという。同研究所ではこれらの知見を踏まえ、さらに診断システムの信頼性を向上をはかっていく考えだ。

 すでに、すべての原子力発電所での調査を実施するなど原子力分野でのデータ蓄積は進んでいる。開発を進めている同研究所の高野研一上席研究員は、自由化などの情勢変化への対応も必要な中で、「原子力はこれまで設備の安全管理に力を入れてきたが、今後は組織要因も踏まえた合理的な安全管理を行っていくことが必要」と話す。

 今後、火力、配電等の分野、さらに他業種のデータ拡充をはかり、電力分野以外の業種での適用も視野に総合的な診断システムとして構築を進める方針。


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