[原子力産業新聞] 2003年7月3日 第2192号 <2面>

[原子力安全委] 新潟でシンポ

 原子力安全委員会は6月29日、新潟県柏崎市の産業文化会館で「新潟原子力安全シンポジウム」(=写真)を開催、地元等から約190人が参加した。東京電力の不正問題等を受けて、会場からは安全委員会への厳しい質問や意見が相次いだ。

 今回のシンポは、2000年8月に東海村で開かれた「第1回地方原子力安全委員会」以来、地方で開かれるものとしては8回目となる。会合ではまず、飛岡安全委員より、安全委員会の組織や役割、東電問題等について説明、この中で同委員は「東電の技術的能力や技術支援能力に欠陥が見られる」と述べ、電気事業者の技術的能力向上の必要性を指摘した。

 次に鈴木委員が、コンピュータ・グラフィックスを使いながら、BWRにおけるシュラウドや再循環系配管のひび割れ問題を解説、柏崎刈羽3号機について、シュラウド・サポートリング部のひび割れが、現在の8.5ミリメートルから5年後には34.3ミリメートルにのびるとの予測を示しながらも、材料の厚みが70ミリメートルあることから、機械的強度は保てると述べた。再循環系配管継ぎ手溶接部のひび割れについては、同1号機のA系統で12か所、B系統で14か所見つかったが、「事業者がすべて交換済み」と述べた。

 これらのひび割れの原因である応力腐食割れ(SCC)について安全委の中桐専門委員が説明、SCCの原因として、@製造時に機械加工で出来た表面の硬化層の存在A溶接時の残留応力により表面に引張り応力が発生B炉水の残存酸素濃度環境――の3点、および材料が応力腐食割れに対して感受性が高いことを挙げた。柏崎刈羽3号機でのシュラウドのひび割れについても、下部リングでのSCC進展が深さ約30ミリメートルで停留し、必要残存面積に余裕を残す一方、サポートリング部ではひび割れは停留せずに進展を続け、運転期間約30年で板厚を貫通することが予測されると指摘した。シュラウドひび割れによる地震への健全性については、剛性の低下は3%以下であり、影響は小さいとしている。

 一方、再循環系配管の超音波探傷検査(UT)の精度については、サンプルの実測値と比べてUT測定値が大きく出る場合と小さく出る場合があり、「比較的大きな差異が生じる場合がある」として、UT手法の見直しが検討されていると述べた。

 その後、米国原子力規制委員会(NRC)のディアズ委員長からのビデオメッセージが会場で上映され、同委員長は、「適切な防護レベルは、ゼロ・リスクのレベルである必要はない」との米裁判所の判決を引用、「一般公衆の健康と安全を守るために必要とあらかじめ決められた安全余裕を維持している限り、安全余裕が多少損なわれても原子力発電所を停止させない」と述べ、「多少のひび割れがあるとわかっていても運転を継続している原子力発電所が多くある」と述べた。

 続いて松浦安全委員長は「電力会社における不正問題等の再発防止について」と題し講演、原子力安全に関わる透明性への電気事業者の取り組みについて、「会社ごとに差があり、社内でも十分に情報が共有されていない」と指摘。さらに、電力会社側に「透明性と広報との混同が見られる場合がある」と述べ、「経営トップが明確な意識を持ってはっきり指示すれば、透明性は非常によく進む」と述べて、トップダウンによる意識改革を通じた情報公開の必要性を強調した。

会場との質疑から

 原子力安全委が29日、柏崎市で開いた「新潟原子力安全シンポ」では、前もって寄せられた質問・意見への回答や会場との質疑が行われた(=写真下)。

 原子力発電所の現場で検査に関わったことがあるという男性が、「業者が作ったものを検査し、問題があるので直すように言っても、そのままで立ち会い検査を合格してしまうなど、現場では細かい所であり得ないことがなされている。きちんとチェックできる機関が必要だ」と意見を陳述、安全委側は申告制度を有効に使ってほしいと述べた。

 また、米国NRCのように独立した第三者的な原子力規制機関を作るべきとの意見が新潟県知事や柏崎市長も含め、広がっているとの指摘があり、松浦委員長は、規制体制は日本の行政機構との整合性が必要と述べながらも、規制体制のあり方は国会で論議されるべきものであり、安全委員長としては現在の姿の中で最善を尽くしたいと述べた。


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