[原子力産業新聞] 2003年7月3日 第2192号 <3面>

[シリーズ] ウクライナ便り

政府発表信じぬ人々

【6月23日=松木良夫キエフ駐在員】キエフでは近頃ほとんど雨が降らず、毎日快晴、気温は20℃前後と過ごしやすい日々だが、五月の始め頃からキエフ周辺では、チェルノブイリでまた「何かあった」という噂が広がっている。

 つい数日前もバスに乗っていると、後ろの席の年配の女性達が「政府は黙っているけど、チェルノブイリでまた何かあった」と話しをしているのが聞こえた。彼らだけでなく、キエフ周辺の村に居る知り合いからも、「最近雨が降らなくて、農作物の被害が心配だ。政府はチェルノブイリで最近何かあったので、その空気汚染の広がるのを防ぐ為、空気中の水分を取り除く操作をした」とまで言う。折りから今年のキエフ周辺は天候不順で、いつものような雨が降らなかった。

 1か月程前にも、在キエフの日本企業の知り合いから「事故の噂をウクライナ人の社員から聞いた。ウクライナ緊急事態省は否定しているが、真相を知りたい」との問い合わせを受け、チェルノブイリのプロジェクトに関係する友人達に問い合わせたが、いずれも事実無根でデマとの答えであった。しかし、彼らの家族にも、既にその噂は伝わっていた。

 在キエフの日本大使館に問い合せたところ、さっそく常備してあった放射線測定器で大使館周辺をチェックしてもらうことになり、間もなく異常無しとの返事をもらった。これはすでに1月以上前の話なので、数日前のバスでの会話を聞く限り、その後も口伝えに静かに噂は広がっているということになる。

 17年前の事故発生当時、政府から事故発生の事実を隠された経験のある住民たちの多くには、政府発表を信じない習慣が出来てしまったのかもしれない。しかし、今や同発電所には国際的な石棺プロジェクトなどがあり、外国人も多く出入りしているので、万が一、何らかの事故が発生したとしても、それが隠される可能性は無い。

 なお、周辺を良く知る人からは、チェルノブイリ周辺30キロメートルの避難ゾーンでは、5月に結構火事があるとの話を聞いた。消防車が駆けつけるのを見て、あるいは誰かが「何かあった」と勘ぐったのかもしれない。(写真はキエフの植物園、松木駐在員撮影)


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