[原子力産業新聞] 2003年7月17日 第2194号 <2面>

[シリーズ] ウクライナ便り

ようやく動き出すか「新石棺」プロジェクト 新首相に期待

【7日=松木良夫キエフ駐在員】チェルノブイリ事故から17年、破壊された4号機そのものは現在でも手付かずに保存されているが、その周囲は廃棄物を閉じ込めるために、事故発生から約半年後に完成したコンクリートと鉄製の梁と鉄板からなるシェルター(横358メートル、縦275メートル、高さ55.5メートル)で覆われている(=写真下)。1996年にIAEAが開いたチェルノブイリ事故10年後の国際会議では、石棺内の核燃料が雨水の侵入により水に漬かる場合の再臨界の危険性も議論されたが、その可能性はほとんどないと結論された。

しかし、同シェルターの設計寿命は30年であり、将来的には不安定性が増すとの危惧もある。そこで、1997年以来、現シェルターを補強し、その上に、新たにより大きな格納建屋を建設するための欧州各国、米国、日本、ウクライナ等による国際プロジェクトが進められている。現在までに多くの研究や補修作業が行なわれ、今後、新格納建屋の建設に入って行くスケジュールになる。

日本もこのプロジェクトに拠出しており、プロジェクトを執行している欧州復興開発銀行(EBRD)の国際諮問グループ(IAG)には、日本原子力発電参与の武田充司氏が委員として参加している。同氏が4月にチェルノブイリを訪問調査した際に尋ねたところ、今後建設される新格納建屋の概念設計は出来ているが、全体的に作業が遅れていることがわかった。

プロジェクトが遅れている理由には、ウクライナ側上層部の度重なる交代や、現シェルター内の燃料含有物質の取扱いなどで、EBRD側とウクライナ側の意見調整に時間がかかったことなども原因と見られる。  チェルノブイリから130キロメートルの距離にあるウクライナの首都キエフの市民も、このプロジェクトには注目しているようだ。数日前も市内のバスの中で、後ろの席の人達が「いまだに新石棺は出来ていないらしいが、どうなっているのか」などと噂しているのが聞こえた。話の内容からは専門家ではないようだが、これが彼らにとっての関心事であることには違いない。

ウクライナでは昨年3月の議会総選挙後、勢力分布が変り、年末になってようやく現ヤヌコビッチ首相の率いる新内閣が発足した。同首相は、今年4月のロンドンでのEBRDの石棺プロジェクト拠出国会議に、ウクライナ首相として始めて出席した。その会議に出席していた武田参与は、首相のスピーチを聞く限り、このプロジェクトもようやく軌道に乗るようになって来たように感じたという。

(写真も松木駐在員)


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