[原子力産業新聞] 2003年7月31日 第2196号 <4面>

[レポート] 将来の人材確保を目指して

先週号に引き続き、原産の人材問題小委員会(委員長=鷲見禎彦・日本原子力発電社長)報告書から、将来の人材確保を目指した教育・訓練のあり方を扱った第2章の概要を紹介する。

検討の目的と方法

内外における原子力事故、不祥事や原子力産業の将来性・発展性に対する不透明感などによって、学生の原子力学科に対する人気が低落し、「原子力」という学科名が相次いでなくなるなど、大学における原子力教育の危機が懸念される状況である。さらに人材の受け皿である産業界や研究機関でも、原子力市場の停滞や行財政改革等の流れの中で、新規採用のニーズが落ち込んでおり、人材確保の面で先行きの不透明感が増してきている。

今後10年程度で、1970年代以降において様々な経験をして原子力開発を支えてきた人材の相当数がリタイアする時期を迎え、これら人材に蓄積している原子力「知」の維持を検討する必要が生じている。

こうした状況を踏まえ、本章では人材確保という観点からどのような取り組みを行なうべきか検討した。

人材確保の現状と問題点

原子力産業は、オイルショック以降、1995年前後まではマーッケットも拡大し、比較的高水準を維持してきた。民間企業の原子力関係従事者も1973年に約2万8000人であったものが、1992年には6万人を超え、以降も1995年度ぐらいまで安定した雇用水準を保ってきた。しかし、1996年に6万人を切るようになり、その後暫減傾向が続き、1999年には約5万4000人までに減少してきている。

かつて、大学の原子力関連学科には優秀な人材が集まり、産業界あるいは研究機関では原子力学科も含め高度な専門技術的背景を持った人材を得て業績を伸ばし、それがまた雇用も伸長させるという好循環を描いていた。しかし、1975年のTMI事故さらには1986年のチェルノブイリ事故などにより学生の原子力離れが顕在。少子化により私立大学はもとより、国立大学も独立行政法人化に移行するなど、厳しい競争環境下での原子力専門学科の生き残りが困難になってきている。

日本では、大学の研究教育が国の原子力開発と切り離され、日本全体で多額の資金が原子力開発に注入されたものの、大学に配分された金額は少額で、現在大学の研究施設は老朽化している。

各機関の現状と問題点

電気事業者(今回調査対象6社)、プラントメーカー(3社)、保修工事会社(2社)、研究機関(原研、サイクル機構)、大学において、原子力事業及び人材確保の観点からの現状と問題点は、下記のとおり。

電気事業者

▽技術者は原子力よりも電気・機械等、他分野の技術者を重点的に採用、人数は近年若干減少傾向にある。

▽開発研究者のニーズは少なく、基礎学力に加え幅広い教養や柔軟な発想、論理的思考力、チャレンジ姿勢を持つ者の採用を優先。

▽再教育はOJTが主体。

プラントメーカー

▽技術者の採用は近年ほぼ一定の人数を採用している。原子力の採用は全体の約1/3で、研究開発への配属はそのうち全体の10数%で推移。技術再教育方法の再構築が必要。

▽ノウハウはOJTを通して伝承、向上するが、建設基数の減少に熟練技術者・技能者の高齢化、リタイヤ等も重なって、技術伝承面等で工夫が必要。

保修工事業

▽技術者は近年一定人数を採用しているが、電気、機械を重点的に採用。

▽業務に必要な国家資格の取得を奨励。

研究機関

▽技術者の採用は、現状の研究技術能力の維持を目標に、原子力を中心に他分野からも幅広く採用、全体としては横這い傾向

大学

▽原子力に関連する産業と大学・研究機関への就職を希望するものが約75%に達している。実際に原子力関連産業や研究機関に就職したものは40%程度。

▽将来希望分野での特技となる資格を有するものは約10%で、専門分野に対する自己評価は約60%が「自信ない」。

人材需給のアンバランス 産業界

▽技術系採用人員は最近5年間漸減傾向、高齢化と技術伝承の問題が顕在化。

▽原子力卒業生の採用人員は1定数(30〜40名/年)を確保。技術系採用人員のうち原子力の割合は最近5年間平均で約15%。

研究機関

▽技術系人員の採用人数は横ばい、ないし微増

▽博士課程修了者は毎年20〜30名程度採用(うち原子力工学系専攻は3割前後)。事業展開により増員することもある。

▽技術系採用人員のうち原子力は、ここ数年約30%で、他分野より高い。

大学側

▽大学院修士課程進学への志向の増大

▽原子力産業、原子力研究機関の原子力修了者採用人数の減少

▽原子力関係の企業、研究機関等への就職希望者は原子力修了者の75%程度いるが、実際に就職した者は約40%。

「質」のミスマッチ 産業界

▽大学院卒業者は基本的な学力はあるが、実際の対象とリンクするのが苦手であり、育成に苦労している。

▽博士課程修了者の採用人数は限定的で少ない。

▽放射線利用に関する専門家のニーズはある。

研究機関

▽幅広い教養、柔軟な発想、論理的思考力、総合的視野をもつ現象解明型、問題発見(提起)型の人材を求めている。

大学側

▽原子力産業からの求人も少なく原子力の看板では学生が多く集まらない。

▽炉物理、放射線、核燃料物質等に関わる実験・実習教育を十分行えない。原子力教育カリキュラムが希薄化している。

▽優秀な人材は研究志向が強く博士課程に進学する傾向にある。博士課程修了者の就職が難しい。

▽学生は自分がやりたいことをやれる、あるいは新しい仕事に取り組むことができる職場環境を求める方向に進んでいる。

学生は原子力にどのような夢と期待を抱いているか

学生は自分のこれからの人生が実りあると思われる領域に自らを賭けてみようと思うのが常であり、原子力産業界はそれを提示する義務をいわば負っているといっても過言ではない。とくに、工学系学生は自らがチャレンジすることができる産業、企業、研究機関へ就職を求めている。

学生への意識調査によれば、50年後に期待されるエネルギー源として、核融合、水素、太陽がほぼ同じ程度に期待されている。将来も原子力発電が電力供給の主流と考えており、自らもその中において活躍したいとの期待が強い。


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