[原子力産業新聞] 2003年9月11日 第2201号 <2面>

[シリーズ] ウクライナ便り

「返済不可能」

【8月31日=松木良夫キエフ駐在員】チェルノブイリ原子力発電所の閉鎖と引き替えに、フメルニツキ原子力発電所2号機とロブノ4号機(K2R4)の完成のため、欧州開発復興銀行(EBRD)から受ける予定の借款(約2億ドル)を、ウクライナ内閣が辞退する方針を固めたとの記事を数日前に読んだ。

 この借款は、1995年12月にウクライナとG7並びに欧州連合の間で結ばれた、チェルノブイリ原子力発電所閉鎖に関する覚書に記された引き替え条件のひとつであるが、2000年12月にチェルノブイリで最後まで運転されていた3号機が停止した後も、実現していない。

 この借款が遅れていた理由は、EBRDが示していた借款の条件をウクライナ側が満たしていないためとされているが、なかでも借款返済の原資となるはずの電気料金値上げをウクライナが認めなかったことが大きい。一方、ウクライナ側には、K2R4原子力発電所2基の完成に必要な借款のEBRDによる見積もり額は、不当に高いという意見がある。

 かつてこの覚書締結までの交渉作業にウクライナ側から参加した友人に、3年前にインタビューしたことがある。彼は旧ソ連の原子力工学の博士号を持つが、彼によると、借款にするほどの金額は要らない、むしろもっと小額で返済の必要のない補助金のレベルで十分だとの意見だった。目の前で電卓を叩き、今の電気料金から計算すると、この借款はとても返済出来ないとも説明してくれた。

 K2R4の2基は、すでに80%以上が完成しており、当初の旧ソ連の基準を近代化する限り、欧米が見積もる金額は要らないということのようだ。東欧ではチェコのテメリン原子力発電所がロシア型軽水炉に米国製の制御装置と安全装置を組み込んだが、こうした道をウクライナは取らない判断をしたとも言える。

 一方、ウクライナ国営原子力発電会社エネルゴアトムは、両発電所建設に関わる財政的な困難を乗り切るため、可能な範囲の電気料金値上げや社債の発行により、これら2基を2004年下半期に運転開始すべく作業を進めている。しかし、営業成績の不振、経営陣の交代やそれに伴なう訴訟など、決して順調ではない。

 ウクライナ全体として、チェルノブイリ原子力発電所の停止に伴ない減少した発電電力量を補うため、老朽化と燃料購入資金難により稼働率の落ちていた旧型火力発電所を運転し、今まではしのいで来ている。現在ウクライナの電気料金は、1キロワット時あたり2円を切る。しかし、ウクライナの給与生活者の平均月収は1万円程度で、電気料金が安いといっても、値上げはありがたくない。また将来、外貨獲得のため、西欧への電力輸出を行なうとすれば、このレベルを維持する必要がある。大幅な値上げは避けたいところだ。

 ウクライナでは、西欧から今後も出されるであろう原子力発電所安全性向上の要求と、供給国であるロシアとの関係維持などをどうバランスさせ、泳いで行くかは、未だに不確実な要素があり、予断を許さない。


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