[原子力産業新聞] 2003年10月16日 第2206号 <4面>

原子力二法人の統合に関する報告書から

 本紙9月25日号1面で既報のとおり、原子力二法人統合準備会議は1年8か月にわたる検討を終えて、日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構の統合に関する報告書をまとめ、19日、座長の渡海副大臣が遠山文部科学大臣に提出した。同報告書の抜粋からそのハイライトを紹介する。(役職等は当時)

はじめに

 原子力二法人が統合され、新法人が発足する機会を捉えて、原子力関係者全員が心を新たにし、これを正に国民の信頼を回復する転換点とすべきであると考えます。その点で原子力2法人の統合は、特別の意義を有するものです。新法人が、その成果を、特にエネルギーへの需要が高まるアジアのみならず全世界に発信していくことは、大きな国際貢献となります。

 新法人は、大学・産業界等関係者の需要を踏まえた運営を行うことはもとより、国民の原子力に対する疑問に技術的観点から的確に答えるなど、いわば「国の原子力シンクタンク」として大きく生まれ変わるとの自覚の下にその役割を担っていくことが強く求められます。

 独立行政法人化による整理合理化は、自主決定、自己責任を基本とする自立的な運営による経営資源の選択と集中により、必要な機能を効率的・効果的に果たすために行うべきものです。しかしながら、我が国の原子力エネルギー利用のための研究開発基盤を揺るがすような単なる整理合理化であってはなりません。原子力二法人の統合を、資源に乏しい我が国が十分な技術的裏付けの下に原子力研究開発利用を着実に進める好機と捉え、国民に信頼され、期待に応える新法人が作られることを強く期待します。

新法人の意義

 今後の原子力の研究、開発及び利用を推進するに当たっては、何よりも我が国の国民や国際社会の理解と支持を得た上で、原子力基本法の精神に立脚し原子力平和利用に徹すること及び安全確保に万全を期すことが必要不可欠な基礎であり、新法人はそのための先導役を果たすことが期待される。

 したがって、我が国の原子力開発を再び活性化させるとともに、職員の1人1人が高いモラルをもって職務に取り組むことにより、国民の信頼を得て、新たな発展を目指す重要な機会と積極的に捉えるべきであると考える。

基本理念

(1)原子力研究開発の国際的な中核的拠点の実現

 新法人は、原子力二法人の統合によって基礎・基盤研究からプロジェクト研究開発までを包含する総合的、先端的な、我が国で唯一の大規模な原子力の研究開発機関となる。このような研究開発機関として、新法人は、これまで以上に、研究施設、人材、予算等の研究資源の効率的な活用を実現し、社会が求める優れた研究開発の成果を効果的に生み出すことが必要である。新法人は、国際的な中核的拠点の役割を担うことが求められる。

(2)安全研究の着実な推進による国の政策への貢献

 日本原子力研究所がこれまで原子力安全研究の分野で果たしてきた実績を踏まえれば、新法人は引き続き、この分野の中核的機関としての役割を果たすことが強く期待される。新法人は、国の原子力安全規制や原子力防災対策などを支援することが強く求められる。

(3)自らの安全確保の徹底と立地地域との共生

 安全確保に関する責任体制を対外的に明確化した上で、情報の公開及び公表を徹底して実施すること等が極めて重要であり、社会の信頼を得て、立地地域と共に発展することに最善を尽くす必要がある。

(4)事業の整理合理化と効率化、活性化の推進

 統合による原子力二法人の更なる事業の見直しや固定経費の抑制・削減など管理部門等の重複部門の簡素化・スリム化を徹底して行い、研究施設や設備の相互利用や整理合理化・廃止、事業運営の変更に伴う組織体制の見直しや人材の再配置、予算の重点配分による効率化を実施することが強く求められる。そのような事業展開の中で夢のある創造的な研究開発に取り組んでいくことが望まれる。

(5)効率的・効果的な経営・業務運営体制の構築

 原子力二法人の統合は、国内最大の公的な研究開発機関が設立されることを意味するが、そのことにより業務運営の柔軟性や迅速性が損なわれることがあってはならない。このため、各種事業の異質性、類似性、共通性等を十分に把握した上で効率的・効果的な経営・業務運営体制を構築することにより、迅速な意思決定システムを確立し、経済社会の動向、ニーズに応じ、時宜を得た活動を積極的に展開できるようにすることが不可欠である。

新法人の使命

(1)原子力システム高度化でエネルギー安定確保と地球環境問題解決に資する

 核燃料サイクルの確立を目標に、高速増殖炉サイクル技術の実用化、放射性廃棄物の処理処分の実現等を目指した研究開発により、原子力システムに関する技術体系を構築し、我が国の中長期的なエネルギーの安定供給に貢献する。さらに、核融合エネルギー利用システムの構築に向けた技術基盤を確立し、将来のエネルギー問題の解決に資する。

(2)原子力利用の新領域の開拓で科学技術発展に貢献

 中性子等の放射線利用技術の高度化を目指した研究開発等により、原子力利用の新たな領域の開拓を目指すとともに、その成果の応用展開により、他の先端的な科学技術分野の発展や産業活動の促進に貢献する。

(3)原子力利用の基盤強化で諸問題の解決に貢献

 原子力が直面する安全確保、人材の育成、国際的な原子力の平和利用等の諸問題について、技術的な観点等から、その問題の解決に貢献する。

(4)自らの原子力施設の廃止及び放射性廃棄物の安全・着実な処理・処分を実現

 廃棄物発生者等としての責任を全うすることにより、新法人の活動に対する国民の信頼を確保する。

新法人の業務

@原子力の基礎・基盤研究

 原子力に関する基礎的研究や応用の研究等の原子力の基礎・基盤研究等に係る業務を実施する。

A核燃料サイクルの確立を目指した研究開発

 核燃料サイクルの確立を目指した高速増殖炉サイクルに関する研究開発、使用済燃料の再処理に関する研究開発、高レベル放射性廃棄物の処理処分に関する研究開発。

B原子力施設の廃止措置と放射性廃棄物の処理処分

 自ら保有する原子力施設の廃止措置と放射性廃棄物の処理処分を行うとともに、必要な技術開発を実施する。役割が終了した施設などについて計画的に廃止し、その放射性廃棄物について処理処分を行う。

C原子力安全規制、原子力防災対策、国際的な核不拡散等への協力

 行政機関等からの求めを受けて、新法人の有する研究施設及び人員を活用し必要な協力を行う。原子力安全規制や原子力防災対策、国際的な核不拡散対策等に関して、関係行政機関等からの要請に応じ調査研究等の技術的支援を実施する。

D大学との連携協力等を通じた原子力分野の人材育成

 原子力に関する研究者及び技術者の養成訓練業務を実施する。大学との連携協力の強化等により原子力分野の人材育成を行う。

E原子力に関する情報の収集、分析及び提供

 原子力に関する情報の収集、分析を行うとともに、成果を関係機関等へ提供することにより、国の原子力政策立案の支援を行う。

F研究施設及び設備の共用

 新法人が保有する研究施設及び設備について、広く産学官の共用に供する。

G研究開発成果の普及とその活用の促進

 研究開発成果を公表し、民間企業等に対して技術移転を行うとともに、必要な情報提供や人員の派遣等を実施する。


新法人の財務基盤の確立

 新法人が我が国唯一の原子力の総合的な研究開発機関として、着実にその役割を果たしていくためには、適切な財務基盤が確立されていることが必要である。新法人が着実に業務を実施していくためには、全事業費の中で研究開発費と研究インフラ維持費のバランスを重視することが重要である。特に、施設維持費をはじめとする固定経費については極力抑制・削減して、効果的かつ効率的に事業を実施することが必要である。

(1)研究開発機能と廃棄物対策の両立

 原子力二法人においては、原子炉施設をはじめとする多数の原子力施設を保有しており、将来の老朽化の進み具合などにより、時期がくれば廃止措置を講じなければならない。また、現在、研究開発活動等に伴い発生する放射性廃棄物も保管しているところである。

 今後、新法人が、これらの原子力施設の廃止措置及び放射性廃棄物の処理処分を長期的な観点から計画的かつ確実に実施するとともに、研究開発を着実に実施できるよう、国及び新法人は必要な措置を講じていくべきである。

 なお、現在保有している原子力施設の廃止措置及び放射性廃棄物の処理処分のコスト及びスケジュールについてケーススタディが実施された結果、総費用は約2兆円、実施に要する期間は約80年間と見積もられた。費用については、年間約100〜300億円程度で推移し、現状の原子力二法人の全事業費(平成15年度認可予算約2300億円)からみると約5〜15%になると試算された。文部科学省及び原子力二法人は、この試算について、外部要因などにより、今後の研究・事業計画に不確定要素があるものの、現状の財源規模に対して比較すると、本事業実施に要する費用に関しては、特別な制度的措置は講じなくとも、総合的な研究開発機関として研究開発を着実に行っていくことが可能と考えられるとしている。このケーススタディについては国及び新法人において定期的に見直す必要がある。また、原子力二法人においては、今後、コスト削減に向けて合理化の取組がなされるとともに、関係者においても国際動向を踏まえた、放射性廃棄物処理処分のための安全基準の整備等の法令等の整備が適切になされることを期待する。

(2)累積欠損金の適切処理

 原子力二法人の累積欠損金については、出資者との調整を踏まえて適切に処理し、新法人発足前に独立行政法人として健全な経営を確保しうる財務基盤を確立することが必要である。国は、累積欠損金が、新法人に引き継がれることのないよう、先行の独立行政法人の研究開発法人と同様に、法的措置により政府及び民間出資の減資を行うことが適切である。


新法人設立に向けた調整・検討事項

(1)累積欠損金の適切な処理での出資者等との調整

 原子力二法人の累積欠損金が新法人に引き継がれないよう、先行の独立行政法人の研究開発法人と同様、法的措置により政府及び民間出資の減資を行うことが適切である。このため、今後、出資者との調整を行うことなどにより、新法人が独立行政法人として健全な運営を確保し得る財務基盤を確立するために必要な措置を講ずる必要がある。

(2)原子力安全規制上における地位の承継のための調整

 原子力二法人は、原子力の研究開発活動を幅広く行っていることに伴い、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」、「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」等に基づく許認可を得ているところである。新法人が設立後直ちに研究開発活動を行うためには、これまでに得ているこれらの法令に基づく地位が新法人に適切に承継されなければならない。このため、新法人を設立するための法案の提出にあたり、新法人の原子力安全規制上の地位に関して、関係法令において必要な措置が講じられる必要があり、今後、関係行政機関と必要な調整が行われるとともに、新法人の設立に際しては、関係法令に基づき必要な許認可手続き等が適切に行われることが必要である。

(3)新たな原子力政策の中期目標等への反映

 新法人は、原子力基本法に基づく我が国唯一の原子力の総合的な研究開発機関として、原子力委員会及び原子力安全委員会において示される政策に基づき、引き続き原子力の研究開発の中核を担っていくべきである。このため、国が策定する中期目標や新法人が作成し国の認可を受ける中期計画においても、両委員会が示す政策が適切に反映されることが望ましい。

 このため、両委員会において、新法人の中期目標の策定等にあたり反映すべき原子力政策等が的確に示されることを期待するとともに、国及び原子力二法人においてはこの原子力政策等の検討にあたり必要な協力等を行っていくことが必要である。


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