[原子力産業新聞] 2003年10月23日 第2207号 <4面>

[エネルギー基本計画] 原子力関連計画の概要

本紙既報のとおり、経済産業省総合資源エネルギー調査会基本計画部会(茅陽一部会長)は、エネルギー基本計画をまとめ、同計画は7日に閣議決定、国会報告された。今号では同計画より、原子力関連の記述を中心に、今後の原子力発電および核燃料サイクル開発の考え方を紹介する。

はじめに

 我が国においては、石油危機の際に、石油という単一のエネルギーへの依存度が高いことの問題が認識され、その後、エネルギー需給安定のため、石油代替エネルギー対策や省エネルギー対策が進められた。その結果、我が国の石油依存度は大幅に低下した。しかしながら、我が国の場合、資源小国として石油を始めとするエネルギー資源の大部分を海外に依存していること、エネルギー供給の5割を石油が占め、しかも政情の不安定な中東への依存度が9割近くまで達していること、島国であるために海外からの電力の輸入を期待することが困難であること等により、エネルギーの安定供給の確保は依然として重要な課題として位置付けられる。加えて、世界のエネルギー需要が今後21世紀半ばにかけて急増していくことが見込まれること、そのために諸外国においてはエネルギーの安定供給が喫緊の課題となっており、この課題を克服するための行動を活発化してきていること、世界の石油供給の中東依存度は上昇することが見込まれる一方で、冷戦の終結に伴い中東を始めとするエネルギー供給地域の政情はむしろ一層の不安定化の様相すらみせていること等から、21世紀に入ってエネルギーの安定供給の確保は国際的にも新たな課題として再認識されるようになってきている。

 また近年、エネルギーの利用に伴う環境問題が一層顕在化してきている。とりわけ、地球温暖化問題は世界的に取り組むべき問題であるが、エネルギー起源の二酸化炭素が温室効果ガスの大部分を占めていることから、それをどう抑制していくかが重要な課題となっている。我が国も京都議定書に参加し、その抑制に取り組んでいくこととしている。

 加えて、近年、経済活動の国際化が急速に進展してきており、我が国のエネルギーコストが他の先進諸国に比べて高い場合、国民生活のみならず、我が国産業の競争力にも影響を及ぼすことから、規制改革等を通じ公正な競争を促進し、効率的なエネルギー供給システムを確保することへの要請が強まっている。

 これらの要請に応えていくためには、国がそれぞれに対応した施策を総合的・整合的に進めていくことが必要である。こうした背景の下、平成14年6月に「エネルギー政策基本法」が制定され、国は基本法で明らかにされたエネルギー政策の基本方針である「安定供給の確保」、「環境への適合」及びこれらを十分に考慮した上での「市場原理の活用」に沿ってエネルギーの需給に関する施策の長期的、総合的かつ計画的な推進を図るため、「エネルギー基本計画」を策定・公表することとされた。

 なお、エネルギーの供給や利用を進めるに当たっては、安全の確保がその前提となる。エネルギーには、本質的に爆発性や強度の燃焼性等、その種類に応じた危険性が伴うことを認識しなければならない。特に、原子力は、その性質上、適切な安全確保が行われない場合、大きな危険が内在している。エネルギーの性質に応じた徹底した安全確保の重要性については、国、事業者ともに再認識し、これに取り組んでいく必要がある。エネルギーの供給や利用に当たっての安全確保については、基本方針に沿った施策を実現する上で前提となる重要な事項であることから、そのための施策については、この基本計画において必要に応じ各個別施策の項において取り上げることとする。

 基本計画は基本方針を具体化するものであることから、社会情勢や技術体系についてある程度予見が可能で、国が各エネルギー分野に即した具体的施策を策定することができる期間として、今後10年程度の期間を1つの目安として定めることとする。しかしながら、エネルギーに関する研究開発等については、長期のリードタイムを要するものも少なくないことから、エネルギー需給に関する長期的な展望を踏まえた取組についても必要に応じ触れることとする。

 もとよりエネルギー政策は世界のエネルギー情勢、我が国の経済構造や国民のライフスタイルの変化によって大きな影響を受け、更には環境政策、科学技術政策とも密接な関連性を持つものであり、ここで定める基本計画は不変のものではなく、基本計画に沿って実施されるエネルギー各分野の個々の施策の効果に対する評価も踏まえつつ、少なくとも3年ごとに、また、事情変更が生じた場合等には適時適切かつ柔軟に基本計画に検討を加え、必要があると認めるときには変更することとする。また、エネルギー政策は国民生活や経済活動の基本に関わるものであることから、他の分野にも増して国民各層の理解の下に進めることが必要であり、その見直しにあたってはこの点に十分留意し、国民各層から広く意見を聴取しつつ進める。


多様なエネルギーの導入 原子力開発・利用

エネルギー政策での原子力の位置付け

 原子力発電は、国際情勢の変化による影響を受けることが少なく供給安定性に優れており、資源依存度が低い準国産エネルギーとして位置付けられるエネルギーである。また、発電過程で二酸化炭素を排出することがなく地球温暖化対策に資するという特性を持っている。他方、適切な安全確保がなされない場合には大きなリスクを持つことから、国が法令に基づき、その安全を確保するための厳重な規制を行ってきたところである。

 原子力発電については以上の点を踏まえ、安全確保を大前提として、今後とも基幹電源と位置付け引き続き推進する。なお、原子力発電所の安全確保については、平成14年に明らかになった一連の不正問題を踏まえ、事業者は安全という品質の保証体制の確立に努め、国は安全規制を確実に行い、国民の信頼回復に努めることが必要である。

原子力発電等に国民の理解を得る取組

 原子力の開発・利用を進めるに当たっては、安全の確保を大前提に原子力に 対する国民の理解を得ることが肝要である。このため、国及び事業者は、積極的な情報の公開・提供に努めるとともに、情報の一方通行ではなく国民の問題意識を理解する観点から、立地地域の住民を始め広く国民の声に耳を傾けることを重視した広聴・広報活動の強化を図る。こうした取組を進めるに当たっては、事業者はもとより、国が前面に出て説明責任を果たしていくこととする。

 また、学校教育の場でエネルギーと環境について正確な理解を深める中で、教材の充実を図ること等により原子力についても客観的な知識の習得を図る。

 国は、引き続き原子力立地地域の振興を図るとともに、原子力発電等と地域社会との「共生」を目指し、国、地方公共団体、事業者の三者が適切な役割分担を図りつつ、相互に連携、協力するものとする。

 さらに、電力供給において立地地域が果たしている役割の重要性に鑑み、電力供給地と電力消費地との間の認識の共有を図り、相互の交流活動等を充実させるとともに、電力の消費者である国民の幅広い理解を促進するための様々な取組を進めるものとする。

核燃料サイクルの確立へ向けた取組

 核燃料サイクルは、供給安定性等に優れているという原子力発電の特性を一層改善するものである。このため、我が国としては核燃料サイクル政策を推進することを国の基本的考え方としており、これらのプロセスのひとつひとつに着実に取り組んでいくことが基本となる。なお、長期的観点からは、エネルギー情勢、ウラン需給動向、核不拡散政策、プルトニウム利用の見通し等を勘案して、その進め方は硬直的ではなく、柔軟性を持ちつつ着実に取り組むことが必要である。

 核燃料サイクルの重要な前提である使用済燃料の再処理によって発生するプルトニウムの確実な利用という点で、当面の中軸となるプルサーマルを着実に推進していくものとする。このため、電気事業者は、関係住民等の理解を得つつ、プルサーマルを計画的かつ着実に進めることが期待される。これと併せて、国としても国民の理解を得る活動を前面に出て実施すること等により、プルサーマルの実現に向けて政府一体となって取り組む。

 高レベル放射性廃棄物については、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」に従って、関係住民の理解と協力を得るため情報公開を徹底し、透明性を確保しつつ、その処分地の選定、最終処分施設の建設に向けた努力を行う。

 また、原子力発電所の安定的な運転継続を可能にし、核燃料サイクル全体の運営の柔軟性を高める使用済燃料の中間貯蔵施設の確保に向けた取組を進める。

 なお、これらの諸事業の円滑な立地の推進のためには、国の適切な関与を図る。

電力自由化と原子力発電、核燃料サイクル推進との両立

 電力小売自由化の進展に伴い、特に初期投資が大きく投資回収期間の長い原子力発電については、事業者が投資に対して慎重になることも懸念される。特に、バックエンド事業については、事業期間が極めて長期に及ぶものもあること等から、投資リスクが大きくなることが懸念されている。

 このような事情の下で、原子力発電について引き続きその推進を図る観点から、原子力発電のような大規模発電と送電設備の一体的な形成・運用を図ることができるよう、発電・送電・小売を一体的に行う一般電気事業者制度を維持するとともに、原子力発電をベース電源として有効に活用するため、広域的な電力流通の円滑化等により、原子力発電による発電電力量の吸収余地を拡大する。また、原子力発電が強みを発揮し得る長期安定運転を確保するため、需要が落ち込んでいる時に優先的に原子力発電からの給電を認める優先給電指令制度や長期的に送電容量を確保することを可能とする中立・公平・透明な送電線利用ルールの整備を図るとともに、「発電用施設周辺地域整備法」に基づく支援を原子力発電を始めとした長期固定電源に重点化する。

 さらに、バックエンド事業について、国の政策としての推進と企業としての投資リスクの整合性を図ることが重要であり、投資環境整備の観点から、バックエンド事業全般にわたるコスト構造、原子力発電全体の収益性等を分析・評価する場を立ち上げ、その結果を踏まえ、官民の役割分担の在り方、既存の制度との整合性等を整理した上で、平成16年末までに、経済的措置等の具体的な制度及び措置の在り方について検討を行い、必要な措置を講ずることとする。

原子力安全の確保と安心の醸成

 原子力の推進に当たっては、安全の確保が大前提となることは言うまでもない。国及び事業者は、平成14年に明らかとなった原子力発電所における一連の不正問題を踏まえ、立地地域の住民を始め広く国民の原子力安全に関する信頼を回復するため、透明性の確保と説明責任を果たしつつ、不正の再発防止を含め安全確保に係る取組を確実に実施する。

 このため、平成14年に安全規制に関する法改正が行われた。この法改正では、内閣府におかれた原子力安全委員会が行政庁の安全規制の実施状況をチェックするダブルチェック体制が抜本的に強化された。

 さらに、この改革が全体として有効に機能しているかについては、今後とも立地地域の関係者に十分説明するとともに、継続的に意見交換を行い、聖域なく十二分に検証を行うことが必要である。かかる観点から国においては、規制の確実な実施のみならず原子力安全規制に係る広聴・広報活動の充実・強化を図っていく。同時に、事業者においては、新たな安全規制の下、安全という品質の保証体制をより実効的に確立することが重要である。国及び事業者の双方の最大限の努力により、「安全」の確保と立地地域を中心とした「安心」の醸成を図っていく。


研究開発と人材養成

原子力技術における重点的施策

 原子力に関する技術については、「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」における研究開発の位置付けを踏まえ、我が国の基幹電源たる原子力の利用に直接資する、@安全関係A核燃料サイクルB軽水炉関係――の研究開発を重点的に実施する。安全対策については、安全規制の実効性向上を目指した検査技術や手法の高度化を図る。核燃料サイクル技術については、原子力の長期安定利用に向け、高速増殖原型炉「もんじゅ」の研究開発や放射性廃棄物処分の研究開発等を含め我が国における核燃料サイクルの早期の確立に必要な研究開発を行う。また、高度の経済性、安全性、核拡散抵抗性等の特徴を有する次世代の核燃料サイクルの確立に向けた研究開発を行う。軽水炉関係技術については、今後実用化される技術の発掘、確立等に重点化した研究開発を行う。

長期的視野での取り組みが必要な研究開発課題

 ITER計画を始めとする核融合、宇宙太陽光利用等、実用化に至るまでに長期的な開発努力と技術の段階的実証を要するものの、将来のエネルギー供給源の選択肢となる可能性を有している研究開発課題については、技術の成熟度やエネルギー技術上の重要政策との関係等を総合的に考慮しつつ、長期的視野に立ち必要な取組や検討を進める。

人材育成のための課題と取組

 エネルギーの研究開発及び利用を進めていくため、長期的な観点から、これらを支える優秀な人材の養成・確保を図るとともに、エネルギー技術開発の意義及び特徴を踏まえ、その基盤となる基礎研究を推進する。

 特に、原子力分野の事業に携わる人材・技術力の維持、原子力の研究開発・利用を支える優秀な人材の育成・確保は重要な課題であることから、大学や研究機関、原子力産業界が協力して、原子力関連施設で運転管理や保守等の第一線で活躍する技術者を含めた人材の養成、蓄積された技術の将来世代への承継に取り組むことが必要であり、国においても環境整備に配慮する。


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