[原子力産業新聞] 2003年10月30日 第2208号 <8・9面>

[米・MIT] 「原子力の将来」より

 本紙8月7日号3面にて既報のとおり、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)は7月29日、地球温暖化防止等のため、2050年までに全世界の原子力発電容量を現在の3倍の10億キロワットに増大させるシナリオを含む報告書「原子力発電の将来」を発表した。今号では8、9面を使い、サマリー版から同報告書の主な結論や勧告などを中心にお伝えする。

はじめに

 我々が今回、原子力の将来について調査を行なうことにしたのは、乗り越えなければならない問題が多々存在するものの、原子力が米国および世界にとって、二酸化炭素(CO2)やその他の大気汚染物質を発することなく将来的なエネルギー需要にこたえていくための重要な選択肢だと考えているからである。その他の選択肢としては、効率の向上、再生可能エネルギーの利用、二酸化炭素の隔離がある。これらの選択肢は、各国が、重要な環境課題に取り組みながらエネルギー供給戦略を立てるにあたって、すべて残しておくべきであろう。原子力が選択肢として残っておくためには、同技術が優れた経済性や、向上された安全性、円滑な廃棄物管理および核不拡散リスクの低さを示さなければならない。また同時に、二酸化炭素を排出しないという発電手段が、公共政策の中でより重要なものとして認識されなければならない。今回の調査では、原子力が直面する問題点を洗い出すと共に、それらを克服するためにはどうすればよいのかを検証した。

 今回の調査の読者と想定したのは、政府や産業界および学界の指導者である。これらの人々は、原子力発電の大規模な利用が、今世紀半ばに電力需要の相当部分を供給する選択肢として生き残るために取り組まなければならない、相互に関連する技術的、経済的、環境的、および政治的問題の取り扱いに関心を持っている。我々の分析や主張が、今後の前進のための建設的な討論のきっかけになることを期待する。

概観と結論

 天然ガスや石炭などの化石燃料を使った発電は、二酸化炭素放出量を増大させる主な原因となっている。少なくとも今後何十年間の間は、発電による二酸化炭素の放出を削減するための現実的な選択肢はごく限られている。
▽発電および電力使用効率を向上させる。
▽風力、太陽熱、バイオマス、地熱など再生可能エネルギーの利用を拡大する。
▽化石燃料(特に石炭)を使う発電所において、出てきた二酸化炭素を捕らえ、炭素を恒久的に隔離する。
▽原子力利用を拡大する。

 我々がめざしたのは、将来の世界のエネルギー需要を、低コストかつ環境的に許容可能な形で満たしていくための有力な選択肢として原子力を残しておくために、できることは何かを模索し、検討することである。

 2002年に原子力によって供給された電力は、米国では消費電力全体の20%、世界全体では17%であった。専門家の予測によると、世界の電力消費需要は今後数十年間に急増し、特に発展途上国では経済的成長と社会的発展に伴ってその伸びが著しくなるという。しかし、電力の使用量が75%も増大する可能性がある一方で、公式の予測が求めている原子力発電容量の増加分は、2020年までに世界全体でわずか5%に過ぎない。この公式予測値は、新規の原子力発電所の建設がほとんど行なわれないことを示しており、経済的な配慮や、主要国で広がりつつある反原子力感情を反映している。今日、原子力の将来的展望が限られる理由は、究極的には以下の4つの未解決の問題に帰結する。

▽コスト―コンバインドサイクル・タービン技術(CCGT)で天然ガスを使った場合に比べ、原子力は、発電所の全寿命期間中にかかるコストが高い。少なくとも、二酸化炭素放出を削減するための炭素税や、それと同等のメカニズムがなければ、原子力の方がコストが高い。
▽安全性―原子力は安全性、環境、健康に対して、マイナスとの印象を与えてきてしまった。また、核物質の安全で確実な輸送や、テロによる攻撃に対する原子力施設の警備体制についても、懸念が強まっている。
▽核拡散性―原子力には本質的にセキュリティ・リスクが内在している。核兵器に利用可能なプルトニウムを分離する化学的再処理技術や、ウラン濃縮技術を用いる核燃料サイクルは、原子力発電が世界中に広がっていくにしたがい、強い懸念の対象となっている。
▽廃棄物―原子力は、放射性廃棄物の長期的管理という、未解決の課題を抱えている。米国やその他の国々は、使用済み燃料や核燃料サイクルの様々な段階で生じる高レベル放射性廃棄物の最終処分をまだ実施していない。ユッカマウンテンで計画されている処分場の運営が成功裡に運べば、原子力利用が大幅に拡大していった場合に、米国やその他の国の廃棄物問題を軽減することにはなるが、しかし解決には至らない。

 今日、原子力は経済的に競争力のある選択肢ではない。さらに、他のエネルギー技術と異なり、原子力は、その安全性や拡散性、廃棄物問題があるために、政府の深い関与を必要とする。しかし、もし将来的に二酸化炭素の放出に高価な「値段」がつけられたら、原子力発電は重要な、というよりはまさに必須の発電のための選択肢となる可能性がある。このような事態が起こるかどうかはわからない。しかし我々は、原子力が将来の電力供給に大きく貢献できる可能性を持った、二酸化炭素を放出しない重要エネルギー源であるからこそ、選択肢として残されるべきだと考える。

 原子力を将来の選択肢として維持するためには、上記に示した4つの課題を克服する必要がある。実際のところ、将来のために原子力を選択肢として残しておくことは、成長に対応していくことであり、また原子力が競争力を持ち、安全でより安定したエネルギー源となる将来に向けて準備することである。

 これらの問題を検討するため、本調査では、「世界成長シナリオ」を想定した。その内容は、今世紀半ばまでに世界中に100万kWの発電容量を持つ原子炉が1000から1500基導入される、というものである。この発電容量で換算・比較すると、現在稼働しているのは366基分である。原子力利用をこのレベルにまで拡大するためには、米国の指導力はもとより、日本や韓国、台湾の継続したコミットメント、欧州の態度の変化、さらに世界中での原子力発電所の導入が必要だ。

市民の態度

 原子力発電所を大幅に増設するためには、原子力発電に対するパブリックアクセプタンスが欠かせない。米国で1350人の大人を対象にアンケートを行い、エネルギー全般と特に原子力に関する質問に答えてもらった結果、3つの重要で予想外の結果が出た。 ▽米国市民の意見は、所得、学歴、性別といった人口統計学的な要素や、支持政党から受ける影響よりも、各人が原子力技術をどう受け止めているかによって、ほとんど決まっている。

▽米国市民にとっては、将来的原子力発電所を増設していくかどうかの判断をする際に、放射性廃棄物、安全性、コストが最も重要な要因となっている。
▽米国では、地球温暖化への懸念と、二酸化炭素を放出しない原子力発電とは、結び付けて考えられていない。地球温暖化に強い懸念を抱いている人々と、そうでない人々の間に、原子力発電所を増やすことでの意見の相違は見られない。

 これらの結果から、我々の調査に関して2点が読み取れる。第1点目は、米国市民はコストや技術が大幅に改善されない限り、原子力発電所の拡大を支持するとは思われないということ。第2点は、本調査の主たる動機でもあった、二酸化炭素を排出しないという原子力の特性は、米国の一般市民が原子力という選択肢の拡大を支持する動機にはなっていないらしいということである。

経済性

 原子力が長期的に成功するためには、競合する他の技術よりもコストが低くなくてはならない。このことは、電力市場への経済的規制が世界の多くの地域で急激に緩和されているだけに、なおさらである。我々は、原子力発電と、微粉炭使用の火力発電および天然ガスのコンバインドサイクル発電所との間で、各種発電所の商業寿命期間にかかる実際のコストを比較するモデルを作った。以下に示した比較表では、原子力発電所の場合は設備利用率85%で商業用発電寿命四十年を想定しており、米国の経済状況を反映させ、原子力の様々なコスト要因について予想される改善点も考慮してある(表参照)。

 モデルで調査した結果、石炭発電や天然ガスCCGT火力発電所が天然ガスを低価格または中程度価格で購入して発電した場合に比べて、なぜ現在の原子力発電はすべてのコスト改善を実現しない限り競争力がないのか明らかになった。もし設備利用率が落ちれば、原子力コストの比較結果はさらに悪化する。また、原子力発電のコスト構造は、最初の巨額の資本費に左右されるという特徴がある。

 もし二酸化炭素放出の社会的コストが、二酸化炭素税やそれと同等の制度などで内部化されれば、原子力の競争力は相対的に高まる明らかに、炭素1トン当たり100〜200ドルというコスト負担が生じれば、石炭、天然ガス、原子力発電の相対的コスト競争力は大きな影響を受けるだろう。

 二酸化炭素を放出しないという原子力の性質は、特に原子力が直面する規制上の不透明さや、資本費が高いために投資家たちが新たな原子力施設を建設するリスクに消極的になっている現況において、政府が原子力オプションの維持を政策とする理由となる。

 我々は原子力が経済的に生き残こる力を高めるために3つの行動を提案する。

▽政府は一定数の原子力発電所について、サイトバンキングに必要な費用や、原子力規制委員会の新規発電所設計認可コスト、現在または将来的に建設される発電所に対する建設・運転複合許認可のコストを、一部負担すべきである。この面に関し、我々はエネルギー省の方針を支持する。
▽政府は、原子力を炭素を放出しない手段として認識すべきで、新たな原子力発電所を、連邦または州による再生可能エネルギーに関する「炭素を出さない」義務的ポートフォリオの適正候補に加えるべきである。
▽限定数の商業用原子力発電所の「最初の試行」について、コスト面と規制での実現性を示すために、政府は税免除で控えめな補助金を出すべきである。

 我々が提案するのは、「最初に試行」する最大十か所の原子力発電所建設費に対する、kWあたり最高200ドルの生産税免除である。

 先進核燃料サイクルにより、原子力発電のコストは跳ね上がる。ワンススルーサイクルの燃料コストの約4.5倍になることがわかった。


核燃料サイクルの選択肢

 原子力産業が将来的に発展していくために非常に重要なのは、核燃料サイクルの選択をどうするか、つまりどのタイプの燃料を使うか、燃料を燃やすのはどの型の原子炉か、そして使用済み燃料の処分にどの方法を採用するかという点である。この選択は、原子力が直面しているコスト、安全性、核拡散のリスク、廃棄物処理という4つの重要な問題すべてに影響を及ぼす。本調査では、3つの代表的な核燃料サイクルを検証した。

▽従来の熱中性子炉を「ワンススルー」モードで運転した場合。この場合、取り出された使用済み燃料は直接処分に送られる。
▽「クローズド」サイクルで、熱中性子炉と再処理を組み合わせて運転する。すなわち、廃棄物から未使用で核分裂可能な物質を分離、核分裂可能物質をリサイクルし、燃料として原子炉に戻すという方法である。このような技術の中には、プルトニウムを使用済み燃料から分離し、MOX燃料に成型加工し、原子炉で1回のみ再使用するという、現在いくつかの国々で採用されている核燃料サイクルが含まれる。
▽よりバランスの取れた「クローズド」サイクルで、高速炉と再処理を組み合わせて運転する。すなわち、世界中で運転されているワンススルーモードの熱中性子炉と、熱中性子炉の使用済み燃料から分離したアクチノイドを崩壊させる高速炉を、バランスの取れた数だけ運転するというものである。

 クローズドサイクルの閉鎖式核燃料サイクルは、核燃料の供給寿命を延ばす。もう一方のワンススルー方式が「世界成長シナリオ」の中で生き残っていけるかどうかは、経済的に見合う価格で入手可能なウラン資源の量にかかっている。我々の見解では、世界中のウラン鉱資源量は、今後半世紀にわたって1000基の原子炉の運転を開始していくための燃料を供給するのに十分であり、さらに、これらの原子炉の40年の寿命期間にわたって運転を継続していくためにも十分である。

 これらの代表的な核燃料サイクルについて、それぞれの相対的な利点を詳細検討した結果、ワンススルーサイクルは、コスト、核拡散性、核燃料サイクルの安全性においてより優れており、長期的な廃棄物処分という視点から見た場合にのみ不利な点がある。クローズドサイクルの2つの方式は、廃棄物の長期的処分に関してのみ、明らかな利点があるが、コスト、短期的な廃棄物問題、核拡散のリスク、核燃料サイクルの安全性において劣っている。

 これまでの調査の結果、コスト、安全性、廃棄物、核拡散性という問題をすべて同時に克服できる新しい原子炉や核燃料サイクル技術は存在しなかったし、また現在わかっている範囲において、そのような解決策が存在すると考えるのは現実的ではないと思われる。

 今回の調査では、低コストと高い核拡散抵抗性という基準を最もよく満たすのはワンススルー燃料サイクルだ、という結論が出た。ウラン鉱の不足は、たとえ原子力利用が大幅に伸びたとしても、少なくとも今世紀後半まで起こるとは思われない。したがって、我々の重要な結論は以下の通りである。

▽今後数十年間にわたって、米政府や諸外国政府と産業界は、コストがかかる再処理と先進熱中性子炉や高速炉技術を用いるクローズドサイクル技術の開発ではなく、ワンススルーサイクルに重点的に取り組むべきだ。


核不拡散

 原子力発電は、商業用核燃料サイクルの運転からの核拡散リスクが許容範囲まで軽減されない限り、拡大するべきではない。我々の考えでは、適切な保障措置を採用し、再処理と濃縮施設の導入を制限する条件下でならば、原子力発電は、我々が「世界成長シナリオ」に描いているように、核拡散のリスク増大を許容範囲に抑えて成長していくことができる。国際社会は、転用や核燃料サイクル施設の非合法的使用によって、核兵器利用可能物質が取得されるのを防ぐ必要がある。責任ある政府は、濃縮技術やプルトニウムの生産・加工技術を管理しなければならない。

 特に懸念されるのは、@世界中にすでに存在している直接に兵器利用が可能な分離プルトニウムの備蓄量Aたとえばロシアのように適切な管理が行なわれていない原子力施設B技術の移転、特に技術を取得した国を核兵器製造能力取得へ近づける濃縮と再処理技術の移転――の3点だ。原子力発電が、セキュリティの状況も様々な多数の国に導入され普及していく可能性が高いことから、「世界成長シナリオ」での核拡散リスクはより強調されるべきだ。

 国際的な対応策としては、▽IAEAの保障措置体制を制度的に支える手段を、近い将来、制裁も含め再検討し強化する▽核不拡散における共通の目的を強化する形で、核燃料サイクル開発を進めるよう導く。

 よって、我々の提言は以下の通りである。

▽IAEAは、保障措置機能に徹底して集中すべきであり、申告されていなくとも不正が疑われる施設については、査察を実施する権限を与えられるべきだ。
▽濃縮技術からの核拡散リスクをより真剣に受け止めなければならない。
▽IAEA保障措置は、監視・封じ込めシステムを使い、核物質が施設内にある時も輸送中も、継続的にそれを防護し、管理、計量管理を行なうことを基本としたアプローチへと移行すべきだ。また、核燃料サイクル活動に的を絞り、リスクベースの枠組みで、保障措置制度を実施すべきだ。
▽核燃料サイクル分析、研究、開発、実証計画には、核拡散リスクの明確な分析と、核拡散リスクを最小限化するための対策が含まれるべきだ。
▽国際使用済み燃料貯蔵は、成長シナリオのもとで核不拡散に大きな効果をもたらす。このような国際貯蔵を直ちに交渉し、今後十年間に実行すべきだ。


廃棄物管理

 核燃料サイクルから生じる高レベル放射性を持つ使用済み燃料の管理と処分は、世界中の原子力産業界が抱えている最も困難な問題の1つである。我々は、地層処分によって廃棄物を生物圏から安全に隔離できるという多くの専門家の検討結果に賛成である。しかしこの実施は非常に難しく、運転、規制および政府当局に多大な負担を課す。

 過去15年間にわたって、米国の高レベル放射性廃棄物管理計画は、そのほとんどすべてがネバダ州ユッカマウンテンの処分場候補地に集中してきた。しかし我々は、米国や海外で今後、原子力産業界が大きく発展する可能性を拓いていくためには、より幅広い、戦略的にバランスの取れた放射性廃棄物処理計画が必要だと考える。

 ワンススルー燃料サイクルに基づいた「世界成長シナリオ」では、2050年までに複数の処分施設を必要とする。100万kW軽水炉1000基を安定的に導入した場合に発生する使用済み燃料を処分するためには、ユッカマウンテン相当の容量を持つ新たな処分能力を、3〜4年ごとに世界のどこかに建設しなければならない。このため、閉鎖式の先進核燃料サイクルに対する関心が高まっている。

 我々は、ワンススルー方式とクローズドサイクルについて、燃料サイクルの各段階や、短期および長期の放射線被ばくリスクも考慮に入れ、双方の廃棄物管理の意味を分析してみた。廃棄物管理という視点のみを考えた場合、放射性物質を分離して消滅処理をする利点が、それに伴う安全性、環境、セキュリティ上のリスクおよび経済的コストを上回るという、説得力のある事例を挙げることはできないのではないかと我々は考えている。

 さらに結論として、ワンススルー燃料サイクルの廃棄物管理戦略は、少なくとも廃棄物の分離・消滅処理が持つとされる同程度の長期的リスクの削減を、より低い短期的リスクおよび開発、導入費用で実現できる可能性がある。この戦略の中には、現在主流の埋設処分方式に改善を重ねていくことと、深層掘削孔処分など、はるかに革新的な技術の両方が含まれている。最後に、各原子炉サイトでの使用済み燃料の貯蔵を、現在のように当面の措置と位置付けるのではなく、数十年の貯蔵という明確な戦略にすれば、廃棄物管理システムはさらにフレキシブルなものになる。廃棄物管理に関する我々の主な提言は以下の通りである。

▽DOEは、現在ユッカマウンテンに向けている視点を広げ、バランスの取れた長期的廃棄物管理研究開発計画にも目を向けるべき。
▽今後10年以内に、深層掘削孔に地層処分が可能かどうかを見極めるための研究計画を開始するべき。
▽数十年にわたり使用済み燃料を貯蔵するセンター施設ネットワークを、米国内外に構築するべき。

研究開発計画

 DOEの分析・研究・開発・実証(ARD&D)計画は、「世界成長シナリオ」につながる技術開発を支援すべきであり、最も優先順位が高いのは、ワンススルー燃料サイクルの大規模な導入を可能にする技術研究である。我々の提言は以下のとおりである。

▽DOEは、その研究開発計画をワンススルー燃料サイクルに集中すべきだ。
▽DOEは、全核燃料サイクルを評価するために必要な工学的データの収集、分析、研究、シミュレーションを行なうため、原子力システム・モデリングプロジェクトを実施すべきだ。
▽DOEは、国際的なウラン資源評価プロジェクトを実施し、廃棄物管理研究開発計画の範囲を広げ、軽水炉のコスト削減のための研究開発と、発電用のHTGR開発を支援すべきだ。

 このため、今後5年間は毎年約4億ドル、その後10年後まで毎年4億6000万ドル予算を増やすことが必要だ。


エグゼクティブ・サマリー

 今後50年間に、現在のパターンが大きく変わらない限り、エネルギーの生産と消費は、大規模な温室効果ガスの放出、すなわち二酸化炭素という形での炭素を何千億トンも放出することにより、地球温暖化の一因となる。原子力は二酸化炭素放出を削減する1つの選択になり得る。しかし現在のところ、それが実現する可能性は低い。原子力は停滞と衰退に直面している。

 本調査では、温室効果ガスの放出を抑制し、かつ増大する電力需要に答えていくための有力な選択肢として、原子力が生き残っていくために必要なことは何かを分析している。本分析は、全世界の原子力発電容量が2050年までに現在の3倍、すなわち1兆ワット(10億キロワット)にまで増大するという成長のシナリオに基づいている。このような規模で原子力発電が導入されれば、石炭を燃料に使用する火力発電所の場合で考えると、排出されるはずの二酸化炭素を年間18億トン削減することになる。これは、原子力を使用しない場合の二酸化炭素排出増加分の25%に相当する。本調査では、このような削減を可能にする原子力という選択肢を保持するために、比較的短い期間中に必要な、政府政策と産業界の行動の改善提案も行なっている。

調査結果

 原子力の大幅な拡大を成功させるためには、4つの重要な問題を克服する必要がある。

▽コスト―自由化された市場において、現在の原子力は石炭や天然ガスに比べ、コスト的に競争力がない。しかし、資本費、運転・保守費用、建設期間を産業界の努力で減らすことができれば、この差が縮められる可能性がある。政府がもし炭素放出控除制度を導入すれば、原子力はコスト的に有利になる。

▽安全性―現在の原子炉設計は、重大な事故の起こる危険性を非常に低く抑えることができるが、建設や運転での「最良の方法」も不可欠である。原子炉運転以外の核燃料サイクル全般の安全性に関する我々の知識は非常に限られている。

▽廃棄物―地層処分は技術的には可能であるが、実施はまだ行われていないし、確実でもない。使用済み燃料の再処理を伴う、進んだ燃料リサイクルによる長期的廃棄物管理の利点が、短期的なリスクやコストに勝るという説得力のあるケースはまだ存在しない。ワンススルーのオープンサイクルが改良されれば、この方式による廃棄物管理の利点が、よりコストのかかるリサイクルによる廃棄物管理上の利点のレベルに追いつくかもしれない。

▽核不拡散―現在の国際的保障措置体制は、「世界成長シナリオ」の中で想定されている原子力利用の拡大に伴うセキュリティ上の問題に対処するには不適当である。現在、欧州、日本、ロシアで行なわれているプルトニウムの分離とリサイクルを伴う再処理システムは、保証不能な核拡散のリスクをもたらしている。

 我々の結論は、今後少なくとも50年間、これらの課題に対処する最良の選択肢は、ワンススルー燃料サイクルというのものである。「世界成長シナリオ」では、必要なウラン資源を、妥当な価格で入手することは可能と判断している。

 原子力利用拡大のためには、パブリックアクセプタンスも非常に重要である。本調査の結果によると、一般市民は原子力が地球温暖化に取り組むための手段だとはまだ見ておらず、さらなる公教育の必要性が示唆されている。

提言の概要

▽コスト削減のためにエネルギー省(DOE)が打ち出した、新しい設計認定制度、サイトバンキング制度、および建設・運転複合許認可制度といった、「2010イニシアティブ」を我々は支持する。

▽政府はまた、安全性を強化した革新的な設計の原子炉を用いた原子力発電所に関し、数を限った「最初の試行者」に、コストの一部を支給すべきである。我々の提案は、発電所の建設コストでkWあたり最高200ドルまでの税控除である。この方式は、発電所の建設・完成と運転への強い動機付けになると共に、二酸化炭素を放出しない他の技術にも適用することができる。我々が提案するこの政策の目的は、新規の原子炉建設にかかる費用を削減すべく、産業界が努力するよう促すことを狙っており、「最初の試行」以降については、そのリスクと利益の両方を産業界が負うこととする。

▽連邦および州の基準では、原子力発電容量増大分を、二酸化炭素を放出しないエネルギー源に含めるべきである。

▽DOEは長期的廃棄物研究開発計画の範囲を広げ、改良された工学的バリアや、代替地下環境の調査、深層掘削孔への処分も、研究対象に含めるべきである。使用済み燃料を地層処分する前に、何十年にもわたって貯蔵する集中施設も、廃棄物管理戦略の一部として位置付けるべきである。米国は、廃棄物の輸送、貯蔵、処分のための国際基準および規制のさらなる協調に向けて、働きかけを行なうべきである。

▽国際原子力機関(IAEA)は、すべての疑わしき施設を査察する権限を持つべきであり(追加議定書の実施)、核物質防護、管理、計量管理を行なう世界的システムを、現在の計量や報告、定期的査察制度よりも踏み込んだ形で構築するべきである。米国は濃縮技術開発を幅広く監視し、影響力を及ぼすべきである。

▽DOEの研究開発計画は、ワンススルー燃料サイクルに焦点を当てるよう、見直すべきである。また、国際的なウラン資源の評価を行なうことが必要である。さらに、4つの重要な課題に関連して、どの核燃料サイクル方式を導入するかを評価するために、工学的データの収集を含めた大規模な原子力システム分析、モデリング、シミュレーションプロジェクトを立ち上げること、そしてこのプロジェクトの結果が出るまでは、先進核燃料サイクルや原子炉の開発・実証を中断することが必要である。


原子力安全

 「世界成長シナリオ」に使用する安全性基準は、全核燃料サイクルにおいて、深刻な量の放射能を放出する事故は50年に1回以下との基準を維持すべきだと考える。この基準が意味するところは、大規模炉心損傷事故の発生頻度を10のマイナス4乗からマイナス5乗へと、10分の1に減らすということである。この原子炉の安全基準は、進んだ安全設計を採用している新しい軽水炉発電所では、達成可能なはずである。

 我々は、全くリスクのない原子力発電所の設計はありえないと考えている。これは、ひとつには技術的な可能性の問題であり、もうひとつは労働力の問題である。安全な運転を行なうためには、効果的な規制、安全にコミットしている経営陣、そして優れた技術を持つ労働力が必要である。

 原子炉の安全性に対する関心は非常に高いが、再処理工場の安全成績は良くない上、確率論的リスク評価等を使った核燃料サイクル施設の安全解析は、ほとんど行なわれてこなかった。この分野では、さらなる努力が必要である。安全性に関する提言は以下の通り。

▽政府は、近い将来の研究開発計画の一環として、核燃料サイクル施設の全寿命中における健康および安全性への影響を分析するための能力を、より全面的に開発するべきである。また政府の原子炉開発は、より厳しい安全基準を達成ができ、かつ今後20〜30年間に導入可能な候補に絞って行なうべきである。


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