[原子力産業新聞] 2003年11月6日 第2209号 <1面>

[シリーズ] ニッポンの町工場街を歩く 安久工機(大田区)(2)

 (有)安久工機は長年、人工心臓駆動装置に力を入れるほか、原子力、人工衛星、航空計器など、幅広い分野の企業や大学などへの納入実績がある。製品内容も多種多様なニーズに応えられるのは、長年培ってきた企業ネットワークを持つことによる。板金、樹脂加工など約50社の「その道のプロ」達とのネットワークを持っており、「当社はネットワークを活用したコーディネーター的な会社」(田中社長)という。

 様々な分野との取引を通して感じてきたのは、大手企業技術者や大学研究者などで、アナログ・メカの技術・知識が不足していること。アナログ・メカは、いわば機械屋としての基礎的な技術や知識。設計はCAD、加工はNCマシンというのが一般化し、最先端のデジタル・メカ技術ばかりが注目されるなかで、自分達が作ろうとしている物の本当の姿が見えないのではないか、と指摘する。

 「例えばシステムに熱電対付きのフランジを取り付けるとする。最近はとにかく低コスト化の指示が浸透しているため、安価な切削製品を使用しがちだが、切削製品には小さな傷があり、流体内で使用した場合には大きな力が加わる。流体力学的にはロストワックス製品が必要なのに、切削製品を使ってしまうとトラブルの原因になる」。

 「米国から導入した技術がまだ生きているような原子力の分野では、様々な部品も米国で使われているものを参考にするケースが多いようだが、現場の人は、どういう加工を行うかによって使用条件や強度が異なることを充分に理解する必要がある。米国ではその部品の使用条件を考慮し、必要な方法で加工している。そういう基礎技術や基礎知識のしっかりした人が、様々な現場を見ていれば、トラブルは少なくなるのではないか。また、システムの信頼性を上げるにはシンプルな設計にすることが重要だが、しっかりしたアナログ・メカの基礎技術や基礎知識がないとシンプルな設計も出来ない」という。

 若い技術者にしっかりしたアナログ・メカ技術を身に付けて欲しいとの気持ちから、田中社長は、学生の図面作成、機械加工などの現場体験を長年指導している。この協力は当初、早稲田大学理工学部で人工心臓を研究していた土屋教授(現在は退任)からの要請に応えてスタートしたものだが、原子力関係の最初の仕事となった検査ロボットは、破損事故の原因究明に苦慮した土屋研の卒業生が田中社長を思い出して依頼したものだった。約40年間で現場を指導した学生は700人近くになり、最近では大田区の他の町工場と協力し高校生の実習も受け入れている。(高橋毅記者)


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